第5話

「風花、ミラ、聞いて欲しいことがあるんだ。」ヴェラクサスは二人を見つめ、その表情は真剣そのものだった。「グロウルフォージを退治しに行くことは、今の二人にはまだ早すぎる。」

彼の言葉は風花たちの心に鋭く突き刺さった。「でも、待っている暇なんてないのよ!レナもテオも…」風花の声は震えていた。彼女たちの友人二人は、グロウルフォージの呪いに苦しみ、日に日に力を失っていった。

「それも分かっている。だけど…」ヴェラクサスの声は固く、彼の目は風花とミラの目をしっかりと捉えた。「無謀な行動で無事でなければ、レナとテオを助けることもできない。それどころか、自分たちまで危険にさらすことになるだろう。」

イリディアも頷き、風花とミラに向かって語りかけた。「私たちがもっと強くなり、準備が整った時が来たら、その時にグロウルフォージを倒しに行こう。そのために、私たちは全力を尽くすから。」


風花とミラは星刻学園の中でカイとセレナを見つけると、一緒に話をする場所を探した。彼女たちの表情は真剣そのもので、カイもセレナもそれに気付いて黙って二人を見つめた。

「カイ、セレナ、実は私たち、あなたたちにお願いがあるんだ。」風花は言葉を切り出した。

「私たちは、グロウルフォージを倒すために力をつけているの。」ミラが続けた。「でも、それだけでは足りない。だから、あなたたちに協力して欲しい。」

カイはしばらく黙って考え、やがて頷いた。「俺たちは料理で支えることはできるかもしれない。でも、戦いは…それは難しいな。」

一方、セレナはただ静かに風花たちを見つめていた。その瞳には深淵なる闇が潜んでいるようで、それが何を意味しているのかは誰にもわからなかった。


「セレナ、私たちの友達であるレナとテオがグロウルフォージによって呪われているんだ。彼らの苦しみを終わらせるためにも、その怪物を倒さなければならない。」風花の声は真剣で、その中にはレナとテオへの深い慈しみが感じられた。

「彼らの命が危険にさらされている。」ミラは静かに続けた。「私たちだけが彼らを助けることができるのだと思います。私たちはあなたの力を必要としています、セレナ。」

セレナは少しの間黙って彼女たちを見つめていた。彼女の紫色の瞳は、考えを巡らせている彼女の心を反映していた。「私が協力するなら、条件があるわ。」彼女の声は低く、しかしはっきりとしたものだった。

条件は3つだった。

1.セレナの功績としないこと

2.グロウルフォージの遺体を自由に使うこと

3.この条件は口外しないこと

「私があなたたちの助けを与えたという事実を、他の人々に知られたくないのよ。私の力が広く知られることで、私自身が目立つことになり、それは私が避けたいことなの。」セレナは静かに説明した。

「グロウルフォージの遺体を自由に使うとは?」ミラが次の質問を投げかけた。彼女は動物たちとの深い絆から、生命体をただ道具として扱うことに対して敏感だった。

「グロウルフォージの体には強大な魔力が秘められているわ。それを解析し、学び取ることで私の魔法研究に役立てるつもりよ。」セレナは冷静に返答した。

「そして、この条件は口外しない。」風花は最後の条件を読み上げ、セレナを見つめた。「それは約束する。」

セレナは満足そうに頷いた。「それなら、私の力を借りることができるわ。」彼女は言った。


「カイ、遺跡のダンジョンはとても深い。」風花が告げる。「グロウルフォージは以前に遭遇した層よりも、もっと深いところにいるかもしれないんだ。」

カイは一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに戻った。「そうか、それならば私の出番だな。深いダンジョンでの長期間の探索には、適切な食事が不可欠だからだ。」

ミラが口を開いた。「カイ、私たちの冒険に参加してほしい。あなたの料理技術は、私たちがダンジョンを探索する上で必要不可欠なんだ。」

カイは一瞬だけ黙り、風花とミラをじっと見つめた後、にっこりと笑った。「私がいないと困ると言われると、断りようがないな。」

風花とミラはカイの答えに安堵した。彼が一緒ならば、彼女たちはグロウルフォージと対峙するための旅を安心して続けることができるだろう。


カイの料理は一行の体力と持久力を回復するための力の源だった。ダンジョン探索は極めて体力を消耗する作業であり、特に戦闘が発生するとその消耗は激しい。しかしカイの料理は、必要な栄養素をバランス良く含んでおり、彼らが最高の状態を保てるように配慮されていた。彼は特にタンパク質と炭水化物を重視し、これによって彼らは長時間の探索と戦闘に耐えることができた。

また、カイは食材の種類や調理法によって、特定の効果を引き出す方法を熟知していた。例えば、ダンジョンの深部で見つけた特定の草を使って、体力回復や毒消しの薬を作ることができた。また、特定のハーブを煎じてエネルギーを再充填するためのドリンクを提供することも可能だった。

彼の料理を囲んで一行が集まり、笑顔と会話を交わす時間は、彼らが次の探索や戦闘に臨むための勇気と力を与えてくれる。


風花はエレシア・ウィンドソングにも声をかけた。エレシアはハーフエルフで、吟遊詩人としての才能を持ちながらも、現在は星刻学園の学生として生活していた。彼女は弓を使った援護や初等の魔法なら使えると言ってメンバーに加わる事となった。

エレシアの話し方はゆっくりとしており、その声は柔らかく穏やか。彼女はしばしば詩的な表現を用い、その言葉は彼女の音楽と同じく感情豊かで美しい。

エルフの特徴を持ち、その美しい顔立ちは人間の母親から受け継いだ特徴を併せ持つ。彼女の髪は金色で長く、瞳は深い緑色。彼女のスリムな身体はエルフの優雅さと人間の力強さを兼ね備えている。

ある理由から歌うことができなかった。その理由については、エレシア自身が口にすることはなく、風花もそれを尋ねることはできなかった。しかし、その理由が何であれ、それがエレシアの価値を減じることはない。彼女の弓の技術と、エルフとしての経験と知識は、ダンジョンの探索において非常に重要な役割を果たした。

エレシアの弓の技術は、彼女が子供のころからエルフの社会で育てられ培われた。エルフの社会では、狩猟と自己防衛のための弓矢の使い方を学ぶことは一種の習慣とも言えた。そのため、彼女の弓の技術は長年の訓練と経験に基づいていて、その精度と速度は一行の中でも抜きん出ていた。

また、エレシアのエルフとしての経験と知識は、ダンジョン探索においても非常に有用だった。エルフは自然と一体化する能力を持ち、植物や動物、天候など、自然環境の多くの要素に対する深い理解を持っている。それはダンジョン内の生態系を理解し、生存に必要な情報を得るのに非常に役立った。さらに、エルフの長寿と記憶力は、過去の経験と知識を長期間保持することを可能にし、それが新たな状況に対応するのに役立つ。


風花とミラは、ダンジョンの探索の長さと深さを考えると、中で泊まる必要があると認識していた。これは、地上に戻る時間を節約し、より深く、より早くダンジョンを進むことを可能にするためだった。しかし、ダンジョン内での宿泊は一筋縄ではいかない挑戦を伴っていた。

まず、適切な場所を見つけることが必要だった。これは比較的安全で、敵の攻撃から遮蔽できる場所でなければならない。それは可能であれば、退却経路や逃走経路も考慮に入れた場所でなければならない。これには、ダンジョンの地形と敵のパターンに対する深い理解が必要だった。

次に、寝具と食事の問題があった。寝具は少なくとも地面から体を隔離する何か、できれば暖かさを保つ何かが必要だった。食事は、カイの料理スキルが重要となってくる。ダンジョン内の食材をうまく利用しなければならない。それには、現地の動植物を識別し、食用可能であることを確認する能力も必要だった。

また、ダンジョン内で泊まることは、一行の警戒心を常に高めておく必要があった。モンスターや他の危険がいつでも襲い掛かる可能性があり、それに対応するための哨戒体制を組むことが重要だった。

さらに、ダンジョン内での生活は、一行の精神的な負担も増大させる可能性があった。ダンジョンは自然の光がほとんど入らず、閉鎖感や孤独感を感じやすい環境だった。そのため、一行の精神的な健康を維持するために、互いの支え合いと、可能であれば何らかの娯楽や休息の時間を確保することが重要だった。

これらすべての要素を考慮に入れて、風花とミラはダンジョン内で寝泊りすることを計画した。


5人は、ダンジョン、そしてグロウルフォージに挑むための作戦を立てる。彼らの作戦はシンプルだが緻密で、各々の役割が明確に定められていた。

風花とカイは前衛を務めることとなった。これら二人の戦士が敵の前線に立ち向かい、その攻撃から仲間を守る役割を果たす。風花の剣技とカイの力強い打撃が、敵を倒す。

一方、セレナとエレシアは後方からの援護を担当する。セレナの高度な魔法とエレシアの弓術は、遠くからでも敵に大きなダメージを与えることができる。エレシアの弓矢は敵の動きを制限し、セレナの魔法は彼らを一掃する。

ミラはフリーズを伴って臨機応変に対応する。彼女のスキル、"獣の眼"は広範囲の視野と索敵能力を彼女に与え、情報収集と戦略の立案に大いに役立つ。ミラがフリーズの視点を共有し、その視覚情報を用いて戦場の状況を把握し、仲間に指示を出す。

このパーティーにおける戦略の中核はミラだと風花は言った。彼女の視野と索敵能力がチームの行動を大きく左右するだろうと彼女は強調した。そして、ミラが全員に指示を出すべきだと言った。

しかし、ミラは風花が指示を出すべきだと主張した。風花は彼女たちのリーダーであり、彼女の経験と知識がチームを導くべきだとミラは強く感じていた。


「ミラ、お前がリーダーを務めるべきだ。」風花が冷静な声で言った。「お前の"獣の眼"は私たち全員を導く最善の道だ。あなたが視野を広げ、情報を収集し、それに基づいて指示を出す。それが最善。」

ミラは彼女の言葉に深く考え込んだ。「でも、風花、あなたがリーダーでしょう?」ミラは誠実に言った。「あなたが私たちをここまで連れてきた。あなたの経験、あなたの知識、あなたのリーダーシップが私たちを導いた。それがなければ、私たちはここにはいない。」

「それは過去のこと、ミラ。」風花は言った。「これから先、私たちが直面する挑戦は、私の経験や知識だけでは克服できない。私たちが必要とするのは、全員の力を結集し、その力を最大限に活用する戦略。」

風花は微笑んで告げる。「約束する、ミラ。私は常にあなたの隣にいて、全力で支える。私たちは一緒に戦い、一緒に勝つ。」


風花の言葉にミラは微妙な表情を見せた。心の中で一つの問いが生まれ、それが彼女の唇から漏れ出るまでには時間がかかった。「風花、本当に私でいいの?私がリーダーを務めることで、私が...裏切ったらどうする?」

風花は少し驚いたが、彼女の目はミラの心の中を見つめていた。その瞳には、ミラの過去についてのある程度の理解が見えた。

「私の過去、私の罪...それが私を裏切らせるかもしれない。」

風花はしっかりとミラの肩を掴み、視線を合わせた。「それでもかまわない。」

ミラは驚きの表情で風花を見つめた。風花はゆっくりと深呼吸し、自分の考えを整理した。「ミラ、私たちは今、レナとテオを助けるために、一番可能性が高い選択をする必要がある。」

「でも、私が...」

風花はミラの言葉を遮った。「ミラ、その"でも"は、レナとテオが苦しむ時間を無駄にするだけだ。私たちは今、行動を起こすべき時だ。」

ミラはしばらく黙って考え込んだが、最終的には深く頷いた。「わかった、風花。私たちはレナとテオを助けるために全てを尽くす。」


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