第3話
朝早く、風花、レナ、テオ、そしてミラは古代遺跡へと向かう準備を整えていた。エリオットは地図を広げ、遺跡へのルートを確認していた。ミラは慎重に必要な道具を詰め込んだバックパックを身につけ、テオは食料や水を確認していた。風花は自分の剣を手に取り、その鋭さを確認していた。
遺跡の入口は、石造りの巨大な門で、その壮大さには誰もが圧倒された。遺跡内部は迷宮のように複雑に入り組んでおり、いくつもの分岐点や罠が待ち構えていた。しかし、4人は比較的浅い層を目指していたため、迷宮の深部へと進む必要はなかった。
風花たちは力を合わせ、数々の困難を乗り越えていった。時折、遺跡の住人であるモンスターと遭遇することもあったが、それらを倒しながら進んでいった。遺跡の壁には古代の記述や図像が描かれており、それらを見るたびに、この遺跡が何世紀も前の古代文明の遺産であることを感じた。
突如、遺跡の奥から恐ろしい怪物の唸り声が響き渡った。
遺跡の奥から聞こえてきた唸り声は、風花たちを戦闘の覚悟に立たせた。地を這うような振動が、4人の足元を揺さぶった。その原因が何であるかを理解する前に、目の前に現れた巨大な影が全てを物語っていた。
それは、紛れもなくモンスターだった。しかし、これまで遺跡で見てきたモンスターとは違っていた。その大きさと凶暴さ、そしてその目に宿る知性は、ただのモンスター以上の何かを示唆していた。
モンスターの目の奥からは、獰猛さだけでなく、冷酷な知性が感じ取れた。その眼差しは、まるで計算しつくされたようで、風花たちがどう動くかを予測しているかのようだった。そして、それが何を意味しているのか、風花たちはすぐに理解した。
「これは、ルシウスの仕業だ…」テオがつぶやいた。ルシウスはエルデリアの闇を知る者で、モンスターを操る能力を持っていた。
風花は息を飲んだ。この遺跡でモンスターと遭遇することは覚悟していた。しかし、ルシウスが関与しているとは思ってもいなかった。彼の存在は、単なるモンスターとの戦闘以上の脅威を示していた。
「みんな、集中して!」テオの声が響き渡った。風花たちは、それぞれの位置につき、剣を引き抜いた。
「グロウルフォージだ!」テオが声を張り上げる。その名前は、この世界において恐怖と尊敬を持って語られる存在だった。剛力な体、岩をも切り裂く鋭い爪、そしてその唸り声はまるで地面が震えるかのようだった。
「レナ、後方からの支援を頼む!」風花が叫んだ。レナは頷き、手に持つ杖から水色の光を放った。その光は風花たちを包み込み、体に力を与えていった。それはレナが得意とする水の保護魔法だった。
風花は剣を構え、グロウルフォージに直面する。彼女の剣は、ブランドンから学んだ技術で、空気を切り裂くような輝きを放っていた。グロウルフォージの圧倒的な体躯に対し、風花の姿は小さく見えたが、その瞳には揺るぎない覚悟が映っていた。
テオは剣を手に、風花の横に立った。彼の剣術は星刻学園でも一、二を争うほどのものだった。その一方、ミラは後方でフリーズと共に戦闘準備を整えていた。彼女の指示でフリーズが周囲を警戒し、敵の動きを牽制する役目を果たしていた。
「行くぞ!」風花の声を合図に、一行はグロウルフォージに向けて突進した。風花とテオが正面から攻撃を仕掛ける間、ミラとフリーズは側面からその動きを制限した。後方からはレナが絶えず支援の魔法を繰り出し、一行の戦闘力を高めていた。
戦いは激しさを増し、グロウルフォージの強靱な体は風花たちの攻撃を容易くは受け流さなかった。しかし、その強大な力と恐ろしい速度は、風花たちにとっても大きな脅威となっていた。だが、風花たちは決して後退することなく、勇敢に立ち向かっていった。
風花たちの猛攻にも関わらず、グロウルフォージはなおも立ち上がり、反撃を開始した。その巨体が繰り出す攻撃は破壊的で、風花たちはその圧力に押されつつあった。
「風花、逃げるぞ!」テオが叫んだ。しかし、その言葉が風花に届く前に、グロウルフォージの爪がテオに向かって飛んできた。テオは剣でそれを受け止めようとしたが、その力はあまりにも強大だった。
一方、レナは自身の魔法で風花たちを守ろうとしていた。しかし、グロウルフォージの次なる一撃はレナに向かってきた。彼女は必死に防御魔法を唱えたが、その威力は彼女の魔法を容易く打ち破った。
「レナ!テオ!」風花の声は絶望に満ちていた。彼女の目の前で、仲間たちが倒れていったのだ。彼女は剣を握りしめ、必死に涙を堪えた。
一方、ミラとフリーズもまた、グロウルフォージの圧力に押されていた。しかし、ミラは風花を見つめ、力を振り絞った。「風花、逃げるんだ!」彼女の声には、決死の覚悟が込められていた。
風花は一瞬、その言葉に迷った。しかし、レナとテオの姿を見て、彼女は頷いた。「わかった……。でも、ミラ、君も一緒に来て!」風花はミラに向かって叫んだ。
その時、グロウルフォージの唸り声が再び響き渡った。その声は、これから繰り出される一撃の前触れだった。風花はそれを聞き、絶望的な状況を実感した。
剣を地面に突き刺し、深呼吸をした。
そして、目の前のグロウルフォージを見つめ、死を覚悟した。
「風花、頭上!」
突如、未知の声が風花の頭上から響いた。彼女が上を見上げると、空から二人の冒険者が降りてきた。一人は銀髪の男性、ヴェラクサス・グレイウィンド。もう一人は赤髪の女性、イリディア・フレイムハート。二人は魔法陣から現れたかのように風花たちの前に降り立った。
「なんとかしよう、イリディア!」ヴェラクサスが叫んだ。彼の手からは強力な魔法の力が放たれ、グロウルフォージに向かって飛んでいった。その一方、イリディアはレナとテオに近づき、彼らを支えた。
「大丈夫、助けに来たわよ。」イリディアは優しくレナとテオに言葉をかけた。彼女の手からは癒しの光が放たれ、レナとテオの傷を癒す力を与えていた。
一方、ヴェラクサスはグロウルフォージに立ち向かい続けた。彼の魔法は強力で、一時的にでもグロウルフォージを押さえ込むことに成功した。
「今だ、風花! 皆を連れてここから出て行くんだ!」ヴェラクサスの言葉に、風花は頷いた。彼女はミラと共に、レナとテオを支えてその場を立ち去った。
二人の冒険者は風花たちが逃げるのを確認すると、彼らもその場を後にした。風花は彼らの後ろ姿を見送りながら、感謝の念を抱いた。「ありがとう、ヴェラクサス、イリディア……。」
風花たちは無事にその場を逃れることができた。
互いに一瞥を交わした後、ヴェラクサスが口を開いた。「ルシウス・ドラゴネル、か。それは名前だけ聞いたことがある。彼は闇の魔法使いとして悪名高い存在だ。しかし、なぜ彼がグロウルフォージを呼び寄せたと思うのだ?」
風花は深呼吸をしてから答えた。「それは……私たちが古代遺跡を探索していたとき、彼の姿を見たからです。その直後、グロウルフォージが現れました。それに、彼の顔を見たとき、彼が何かを企んでいるような気がしました。」
ヴェラクサスは深くうなずき、一方イリディアは憂慮の表情を浮かべた。「それは深刻な事態だ。ルシウスが古代遺跡に関わっているとなれば、彼の目的は何か大きなことだろう。それに、彼が関わるとなれば問題は簡単なものではない。」
「しかし、あなたたちにはもう一つ心配事があるな。レナとテオの傷だ。すぐにでも治療が必要だろう。」ヴェラクサスは真剣な表情で風花たちに告げた。
「そうですね……」風花は心配そうにレナとテオを見つめ、頷いた。「彼らのことが心配で……」
「私たちが手伝おう。ルシウスのことも調査してみよう。」イリディアが提案した。
風花は、その提案に少しだけ希望の光を見つけ、感謝の言葉を繰り返した。「本当に、ありがとうございます……」
風花とヴェラクサス、そしてイリディアは、レナとテオを支えながら、町の診療所へと急いだ。診療所はルナリアの中心部に位置しており、石造りの建物で、石の色はベージュで穏やかな印象を与えていた。建物の正面には、彫刻で描かれた大きな赤十字が描かれており、それがこの場所が病人や怪我人を治療する場所であることを示していた。
診療所の中は、白と青が基調の清潔な空間で、長い廊下が患者の部屋へと続いていた。魔法の灯りが薄暗い照明を提供し、その光が木製のベッドや医療器具を照らし出していた。
壁には、各種のハーブや薬草がぶら下がっており、その香りが空間全体を満たしていた。それらの薬草は、魔法の力を持つものが多く、患者の治療に使われていた。
部屋の隅には、白衣を着た医師や看護師が患者たちの世話をしていた。彼らの顔は深刻な表情を浮かべており、患者の状態を集中して診察していた。
風花たちは、レナとテオを手厚く看病する看護師に任せ、心配そうに見守った。彼女たちは、友人の安全を願いながら、診療所の壁に掛けられた十字架を見つめていた。
レナとテオが診療所で静かに休んでいる間、風花は星刻学園へと戻った。学園の敷地は広大で、緑豊かな木々が敷地全体を覆っていた。中庭には鳥たちが飛び交い、水面に映る日差しは学園の静けさと安寧を象徴していた。しかし、その静謐な風景は風花の心の中にある疑問を癒すにはほど遠いものだった。
彼女の目的は、ルシウス・ドラゴネル。彼は風花たちが古代遺跡で遭遇したグロウルフォージを呼び寄せたとされていた。
ルシウスのオフィスは学園の最上階にあった。重々しく開いたドアの向こうには、高い天井と大きな窓から差し込む光が、彼の広々とした部屋を照らしていた。壁には本棚が並び、ルシウスの知識と学問への情熱を示していた。
「ルシウス・ドラゴネル」と風花が名前を呼ぶと、ルシウスは椅子から立ち上がり、彼女を見つめた。彼の青い瞳は深く、彼が抱える多くの秘密を示していた。
「何か用か、風花?」彼の声は落ち着いていたが、風花は直感的に彼が何かを隠していると感じていた。
「グロウルフォージについて聞きたいことがある」と風花が言うと、ルシウスの顔に微かな驚きが浮かんだ。
「私が何を知っていると思っている?」彼は控えめに問い返した。
「あなたがそれを私たちに向けて放ったという噂がある」と風花は断言した。
ルシウスは軽く笑った。「私が何故そんなことをする?それに、私は何も知らないよ」
風花はその答えに納得せず、彼の言葉が真実かどうか疑い続けた。しかし、今はこれ以上追求する証拠もなく、風花は部屋を後にした。ルシウスの言葉が真実かどうか、それはまだ解明されていない謎の一つだった。
ルシウス・ドラゴネルとミラ・フェンリルは、彼らの秘密の集会所ともいえる、星刻学園から程近い暗い路地で会った。ミラは、路地口の端に立ち、肩に白い狼、フリーズを横たえていた。彼女の瞳は明らかな不満と怒りに満ちていた。
「ルシウス、何を考えているんですか?あのグロウルフォージを風花たちに向けたのはあなたでしょう?」 彼女の声は静かだが、その言葉は鋭く、ルシウスに突き刺さった。
ルシウスは冷たく笑った。"「ミラ、あれはただの試練だ。彼らが真の勇者なら、それに耐えることができるはずだ。」
「でもあのままだったら、風花は死んでいました。あの子たちはまだ子供なのよ、ルシウス。」
「子供かどうかは関係ない。我々が所属する闇の組織エクリプス・シャドウでは、弱者は必要とされていない。風花が生き残れないなら、それは彼女が弱い証拠だ。」 ルシウスの目には、冷たく遠い光が灯った。
ミラは一瞬言葉を失った。しかし、その後すぐに立ち直り、厳しい視線をルシウスに向けた。「あなたの考えは分かりました。でも私は風花達を守ります。それがエクリプス・シャドウと衝突するなら、仕方ない。」
ルシウスは深く息を吸い込み、その言葉を静かに受け入れた。「それがあなたの選択なら、尊重する。ただ、私たちの目的を忘れるな。エクリプス・シャドウの力が求められる時が来る。その時、私たちは全てを捧げる覚悟が必要だ。」彼はミラを見つめ、暗い路地を後にした。
その日、風花とミラは学園の庭で一緒に座っていた。ミラはじっと風花を見つめていた。
彼女の表情は明らかに困惑しており、何かを言おうとしていることが伺えた。
「風花、私、言いたいことがあるんだ。」ミラは緊張しながら言った。風花はゆっくりとミラを見つめ、頷いた。
「何でも話して、ミラ。私たちは友達だから、何でも話せるわ。」風花は優しく答えた。
「ええと、それは...」ミラは言葉を探したが、何と言っていいのか分からない様子だった。彼女は一度深呼吸をして、再度口を開いた。「私、実は...」
しかし、その瞬間、ミラの顔に戸惑いが広がった。彼女は重大な秘密を風花に打ち明けようとしていた。しかし、その全てを一度に打ち明けるのは困難だった。
「ミラ、大丈夫。無理に言わなくてもいいわよ。」風花は彼女の手を握り、安心させようとした。ミラは風花の優しさに感謝の念を込めて微笑んだ。
「ありがとう、風花。でも、これは言わなきゃいけないことなんだ。ただ、まだ言葉にするのが難しいだけで…」ミラは遠くを見つめながら言った。
「分かったわ、ミラ。準備ができたら、いつでも私に話して。私たちは一緒にいるから、大丈夫よ。」風花はミラに優しく微笑み、再度彼女の手を握りしめた。
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