第8話 初陣

 俺達は王都を出て魔王軍の拠点の近くに来ていた。

 いよいよ俺達にとって最初の戦いが始まる。雑木林に隠されている小さな拠点。まずはこの様な小さな拠点から潰し、確実に戦力を上げていくとのことだ。


「まずは敵の戦力を確認したい。早速で悪いけどアキレウス君、お願いするよ」


 パリス王子に頼まれ俺はコブリンとオーガを何体か召喚する。とりあえず少数で敵の様子を見る。その後、戦況を読んで新たに召喚し、使用するモンスターを考えていくというソロモンのアドバイスに従う。

 そのゴブリンとオーガを突撃させてみる。しかし、勢いよく走り出したモンスター達は拠点の前で急に動かなくなった。


「何だ。アキレウス、モンスター達の制御が上手くいかないのか?」


 その様子を見たモルドレッドが心配して俺に声をかける。


「そんなはずは無いと思うんだけど、途中までは命令通りに動いていたし」


「はい、私も何回か見ているのですが、アキレウス君の召喚術はいつも通りで問題は無さそうでした。それに血の気の多いゴブリンとオーガができる暴れることなく一歩も動かないなんて何か不自然です」


 ソロモンも不思議そうにその異様な光景を眺めている。


「ちっ、らちが明かねぇ。こうなりゃあ俺の部隊で様子を見てきてやる」


「待て、ペンテシレイア殿」


 拠点に向かって走り出そうとするペンテシレイアをアイネイアスが止める。


「どうしたアイネイアス。いきなり大きな声なんかを出して」


「これは罠です」


「罠?!」


「はい、そうです。パリス王子、すみませんがあの辺の草むらに何発か弓を放ってもらえますか?」


「ふむ、少し距離があるけど僕ならできるし、観察眼に優れた君の助言だ。やってあげよう」


 弓の名手でもあるパリス王子ば指示された草むらに寸分の狂いもなく弓を放つ。するとそこから巨大な巨大な蜘蛛くものような生き物が何匹も飛び出してきた。


「あれはジャイアントスパイダー!!」


「ジャイアントスパイダー?」


 皆がソロモンの言葉に一斉いっせいに反応する。


「あわぁ、あわぁ、すみません。私なんかが大きな声を出してしまい。お邪魔でしたね。木の陰に隠れてますね」


「ソロモン殿。驚かせてしまった事に関しては謝罪しますが、仕事を放棄されては困ります。知っているのなら解説をお願いいたしします」


 この場を離れようとしたソロモンをアイネイアスが力づくで引き戻す。


「えーと、すみません。えぇ、巨大な蜘蛛くものモンスターですね。恐らく、ゴブリンとオーガの動きが止まったのはジャイアントスパイダーが出す糸に絡め取られているからだと思います。

 糸は細く見えにくいのですが束ねればかなり頑丈がんじょうで巨大な獲物でも絡まれば身動が取れなくなるんです。

 恐らくあの拠点の周囲一帯に糸が張り巡らされています。このまま突っ込んでしまうと一網打尽いちもうだじんで皆、捕らえられてしまかと思います」


「そんな糸などを剣で切り払いながら進めば良いのではないか?」


 ペンテシレイアが剣を取り出しながらそう提案する。


「え~とですね。私なんぞが口出しするのは大変申し訳無いのですが、目に見えにくい無数の糸を切りながら進むのは至難の業です。それにオーガさえ捕えれる程の強度の糸です。切るには少なくともペンテシレイアさんなみの力が必要でしょう」


「ペンテシレイアさん以上の怪力の人なんていないですし、糸を対処しながら襲いかかってくるジャイアントスパイダーを相手取るとなるとリスクが大きい。かなり無謀ですね」


「無謀かどうかはやってみなければ分からないだろうが!私の剣ならあんな糸なんて簡単に吹き飛ばせれる」


 モルドレッドがソロモンの説明を補足する。ペンテシレイアはそれを聞き苛立ちながら剣を強く握り締める。

 糸による鉄壁の守り。モンスターの能力の恐ろしさを改めて感じる。何か良い攻略法はないのだろうか?

 ふと、再びソロモンに目をやるとなんかまだモジモジしている


「ソロモン、何か策があるのなら言ってくれ」


 パリス王子もその様子に気がついたのか声をかける。


「え~と、かなりめちゃくちゃな方法ですが…考えがないわけではないかもしれません」


「ソロモン殿。それは本当ですか?ジャイアントスパイダーの数を考えるに張り巡らされた糸はかなりあると考えられます。それを突破する方法があるのですか?」


 皆がその言葉に唖然あぜんとなり固まっている中、アイネイアスが驚きながらもソロモンに尋ねた。


「はひ、え~と。ですね。アキレウス君の協力が必要なんですけど…お願いできますか?」


 今度は俺に皆の視点が俺に集まる。まだ短いつき合いであるが、皆の求めていることはなんとなく察しがつく。


「あー、ソロモン様。いや、ソロモン。国のため、そして友人である君のためならどんな策戦であっても喜んで俺は協力するよ。だから頼むから君の考えを友人である俺に教えてくれ」



「友人…そ、そうですよね。友人…友人ですものね。それならば気軽に話したり、頼んだりしても良いのですもんね?」


「あぁ、それが友達というものだろ。俺はソロモンのことを信じているぜ」


「は、はい、ありがとうございます。それならば私も気軽に話しちゃいます。そうか…友達ですもんね。テヘヘ…」


 凄いだらしない顔でにやけている。この公開処刑みたいなクサイやり取りを演じだ甲斐かいがあった。恥ずかしさと罪悪感がある。

 しかし、この調子で本当に大丈夫なのだろうか?不安になってきた。まぁ、だが今はソロモンを信じるしかないか。

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