第5話 外交

───ポルトガル共和国 リスボン 2026/6/13 15時02分(UTC準拠)


「おお……これは」

「綺麗な街並みですね……」

「おい!なんかすごいデケェ鉄の塔があるぞ!」

「なんだこりゃ見た事ねぇ」


カンデラ王国第一次偵察隊の乗組員達は初めて見るこちらの世界の港とその奥にあるリスボンの街並みに興味を抱くものや衝撃を受けたものなど様々な反応をしていた。


第一次偵察隊はポルトガル海軍所属艦であるF332 コルテ=レアルと小型艇により、テージョ川のほとりに位置する港に接岸した。この場所からはポルトガルの大航海時代を記念した記念碑である「発見のモニュメント」などの観光地を見ることができた。


既に港にはポルトガル政府専用車が数台用意されており、ポルトガル陸軍による警戒線も敷かれ、その奥には何事かと多くの住民や観光客が集まっていた。


第一次偵察偵察隊の船にタラップがかけられ、スーツを着た男性が階段の下で笑顔で待機している。第一次偵察隊の船からリベッデ・パコマ司令官とその副長、そして魔道士と護衛が二人降りてきたところでスーツの男性が話しかける。


「ようこそお越しくださいました、臨時の外交官を務めるアンドレ・ルイス・イジドーロです」 


イジドーロ臨時外交官は彼らに一礼する。


「外交官の方でしたか、私は今回の偵察隊の司令官を務めるリベッデ・パコマ、こちらは副長のライベル・イディローゼ、そして専属魔道士長のファディア・ペレースです。基本的には我々が今回の外交を勤めます、そして彼らは護衛なのですが、同伴させても?」 

「ええ、もちろんですよ」

「ありがたい」


表情には出さないがイジドーロ臨時外交官はある事を疑問に思っていた。


(彼らがこの世界の共通語である英語をあちらでも話しているとは……未知の文明からはるばるやって来た彼らと会話したが、こうも彼らが英語を話せるとは思ってもいなかった、この世には存在しない言語を使う可能性も考えていたのだが……)


イジドーロ臨時外交官は考えても仕方のない事だと割り切り、彼らをリスボン市庁舎に連れて行くことに専念することとした。


「では皆さんこちらに」

「これは一体?乗り物ですかね?」

「これは車ですね、移動手段です。」


興味津々に車を眺め、乗り込んでもなお色々探っている彼らをルームミラー越しに見ながらイジドーロ臨時外交官は既に冷め切ってしまったコーヒーを飲むのであった。



───ポルトガル共和国 リスボン市庁舎 2026/6/13 15時27分(UTC準拠)


「ではこちらでお持ちください」

イジドーロ臨時外交官は応接室に全員入ったことを確認して、部屋の外にある椅子に倒れるように腰掛ける、相当疲れていると誰もが見れば分かるだろう。なぜなら車内での移動時間の25分間ノンストップで質問攻めをされていたのである。意外と我々が当たり前のように利用しているものに限っていざ質問されると答えにくいものだ。だが彼にはまだ大量の仕事が残っていたので休む暇など無いのであるが。


応接室の中。偵察隊の面々は案内された応接室の机で地図を広げて今後の展開を議論していた。


「……これはかなりの国力を有していると考えれますね」

「ああ、想像をはるかに超えている」

「この世界には魔法が存在しないのにここまで出来るとは……ドワーフと同じ工業国家なのでしょうか」

「石油と言うエネルギー源も気になる、あの鉄の箱……車と言ったか?それを使っているらしい、一般市民も利用できるそうだったな」

「魔法の代わりなんでしょうか」

「艦船はパッと見た感じではありますが砲が一門しか無いのが気になります」

「だが鉄の塊で船を作るのは我が国でもできない、港で見ただろう、あの艦を超える輸送船を」

「なんとしても国交を樹立しなければ」

「ああ……」


数分後、イジドーロ臨時外交官が応接室に尋ねてきた。


「皆様、会議の準備ができました、こちらに」


案内された会議室には大型のスクリーンと20人程が座れそうな椅子が用意されていた。既に右側には4人ほどのポルトガル政府関係者が座っていた。スクリーンには欧州連合本部の会議室が写っており、多くの人々が見えている。

リベッデ司令官らは左側の椅子に座り、机に置かれている資料を見る。


「それでは只今よりカンデラ王国との国際連合の会合を始めます」


イジドーロ臨時外交官は一礼し、着席する。スクリーンにはヘルマン事務総長が映し出されており、奥には見切れているが多くの各国派遣官が見える。ヘルマン事務総長が話し始める。


「この会合は国際連合での採択による決定により行われており、全ての発言や行動は記録されます。よろしいですかな?」

「ええ、もちろん」

「ではまず貴国の位置が知りたい、イジドーロ君、衛星画像を。」


ヘルマン事務総長がそう言うとイジドーロ臨時外交官がフルカラーの衛星画像を机の上に広げる。これは今日発射されたロシアの偵察衛星イズィーク1から撮影されたものであり、衛星画像など存在おらず 初めて見たカンデラ王国側の反応は驚愕に満ちていた。


「こ、こんな鮮明な地図は見たことがない!」

「なんて技術力だ……!どのようにしてこのような物を作り出せたのですか!?」

「今はお答えできませんが少しずつ情報は出していきますのでご安心を」

「では……我々の領土はここです」


リベッデ司令官が衛星画像上の島を指で囲った後、ユーラシア大陸を指さす。


「今はここでしょうか?」

「ええ、その通りです。」

「かなり……大きいですね、先ほど複数の国家が存在していると仰っていましたがどれぐらいの数が?」

「大体90カ国ぐらいだったかと」

「そんな数が?」

「ええ、こっちの世界ではこのような感じで、大小様々な国が存在しています。今はここ、欧州にあるポルトガルです。国際連合本部はオランダ……ここですね。東にも国が多く存在します。ここら辺はアジアと呼ばれています。」


イジドーロ臨時外交官は旧世界地図を広げ、手早くこの世界の地域を説明した。


「なんと……こんな多くの国がありながら平和を実現しているとは……」

「ではそちらの世界の状況を教えていただけますかな。」


ヘルマン事務総長が質問すると、リベッデ司令官らはあちらの世界の事について話し始めた。以下はその内容の要約である。

一。この世界には列強国と言うのが存在しており、それが7カ国あると言うこと。ほぼ全ての列強国で帝政が取られており、唯一帝政をとっていない列強国でも共産主義的考えで政治が行われていること。そして周辺国は刺激しないように相手をしなければならず、これまで多くの国が消滅していっており、カンデラ王国も消滅の危機に瀕している国家の一つであるらしい。早急に接触を果たしたのはできるだけ味方を付けて安全保障上の問題を解決しようとしたそうだ。

二。この世界は共通語としてリビジット語が普及し、多くの国で採用されている事。興味深い事として、英語に酷似…いやアクセントが違うだけでほとんど同じなため英語で良いだろう。これならば他の国との外交もスムーズに進めることができる。

三。この世界は多くの種族が存在している。ドワーフやゴブリン、エルフや龍族等、そしてその説明の中でも一際関心を引いたのは魔法の存在だろう。一般的には魔法陣を描いたりして攻撃するなどのイメージが強いが大体合っているそうだ。そして種族の説明の中で気になる点としてもう一つ挙げられるのは奴隷制が存在している事。これについては語らずにも分かるだろう、この事実で我々が諸外国に国民を旅行などで国外に行くのは協議せねばならなくなった。

四。通貨問題は国家間貿易などにおいて問題の種で合ったが基本的には金貨や銀貨による交易などが普通であるようだ。通貨レートなどはこれから決めていく必要があるだろう。

と、ここまで記述したのが非常に重要なものである。細かな説明もあったが基本的にはこの問題を少しずつ解決していけば問題はないだろう。


「最初に話した通り、我々は列強による侵攻の標的になる可能性が非常に高いのです……せめてあなた方の軍を我が国に駐屯しては頂けないでしょうか、要望にはできるだけお答えしましょう。」

「それは我々国際連合が最終的な判断を下すことであるので少しお待ちいただきたい、ですがまず大使館を建設しなければ。」

「もちろんです。直ちに首都に土地を用意いたしましょう。」

「これで直通の連絡手段が取れますな、それとできるだけ近郊に土地を用意していただきたい、資料の中に予定面積は入っていますので。」

「国王に提出いたします」

「いい結果を期待していますよ、リベッデ殿」


初めての会談はある程度成功したといえ、会談終了後、リベッデ司令官らはすぐさま本国に戻るため、船を出航させた。この世界で見た景色などを記録したファイルを国王に届け、さらなる友好関係を築くために。

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