余り物も悪くない

あまたろう

本編

「では、今からスキルの配布を行います」

 新学期になると、僕の学校では生徒1人1人に対して「スキル」の配布が行われる。

 火や水、土や風といった属性の魔法契約であったり、物理攻撃のの特殊技であったり。それに分類されない「固有スキル」というレアなものが当たる場合もあるらしい。

 配布順は成績が高い順などということもなく、完全にランダムである。……まあ、そもそも配布されるスキルも完全にランダムであるとのことなので、順番はさして意味をなさないはずだ。


「配布されるスキルはランダムですが、いわゆるガチャガチャのような感じで全員分ぴったりしか生成されていないので、生成されたスキルのリストと残っているスキルのリストは確認可能です」

 先生がポロッと漏らした。……ということは、順番が最後の僕は引く前から何が残っているのか全員に見えるということになる。

 ……それはちょっと、というかだいぶイヤだな……。


 僕のクラスは30人。スキル一覧も30種類あり、今回は全く同じスキルが複数入っているということはないらしい。

 配布が始まった。

 1人目の生徒が「治癒系魔法」を引き当てた。めちゃめちゃいいじゃん。

「ちなみに、すでに持っているスキルが当たることもありますので」

 ……それはイヤすぎる。その場合は引き直しとかできないんですか?

「同じスキルをいくつか持つと、多少その強さがアップします。たとえば先ほどの彼がすでにヒーリング、治癒系魔法ですね。これを持っていた場合、ある一定の確率で、治癒の威力がアップします。運が良ければランクアップしたハイヒーリングという魔法を使うことができるようになる可能性があります」

 なるほど。それでは、同じスキルだからと言って悲観することはないということか。

「その通りです。ただ、あなた方はほぼそのような心配はないでしょうが、もしそのスキルの強さが最高ランクであった場合は無効になってしまいます。たとえば彼がギガヒーリングのスキルをすでに持っている場合は無効……すなわちハズレという扱いになります」

 ふむ。確かにそこまで極めた人はいないだろうから、基本的にはそんな事態にはならないということか。

「その通りです」


 そうこう言っているうちに、残り5人となった。こうなると必然的に残ったスキルのリストが注目される。そしてそれを見たクラスメイトが何やらザワつき始めた。いや正確にはもう少し前の段階からザワついてはいたのだが、そのザワつきがクラス中に伝播した、ということである。

「あのスキルまだ残ってるぞ……!」

「誰が手に入れるんだ……?」

 この話の主語になる可能性のあるスキルは2つ残っている。


 『受けた攻撃のスキルを解析し、そのスキル固有の条件を満たすことで自分も使えるようになる』


 これが今回の本命のようだ。条件が実現可能なレベルなのかどうかは不明だが、スキルが増えるというのはすごい。もちろん、高度なスキルほど条件が難しいというのもあるだろうし、そもそもその攻撃を受けて耐えられるものでなければ条件もくそもない。防御しても「受けた」という判断になるのかどうかも判らないので、なかなか危険なスキルである可能性もある。

 ……ただ、もうひとつ残っているスキルはもっと大変である。


 『半径10m以内にある崩れた饅頭を元の形に復元できる』


 さすがにこれは僕だけでなくその場にいた生徒全員、何なら先生たちも何度もその説明文を確かめた。

 ……「まんじゅう」を復元、だよな……?!

 何度読んでも饅頭である。

 特殊すぎる。


 ……で、案の定というか何というか、僕を含んで残りが2人になったとき、この2つのスキルが残る形となった。

 今から引くのはクラスの中でも一際物静かな女の子だ。

 僕もクラスの皆も固唾を飲んで見守る中、彼女は前者のスキルを手に入れた。



 それからというもの、僕は饅頭の復元係という謎の役職を手に入れ、10mという座標位置はミリ単位で把握できるようになったので、盛られた饅頭のうち狙った個数だけを復元する、ということもできるようになった。


 そして迎えた、学期末のメタルドラゴンとの戦闘実技試験。

 このモンスターには中途半端な威力では剣が通らず、魔法も効きにくい。

 クラスの誰もクリアできていないこの試験を、僕は難なくクリアした。


「……まさか、食べさせて体内で砕けた饅頭を復元させ続け、膨張させて内部破壊させるとは恐れ入りました」

 先生が手放しで褒めるのは珍しいですね。

「……いや、その場にいた教師生徒全員が驚きました。まさかあのクソスキr……もとい、あのスキルでこのような使い方を発想するとは思いませんでした」

 ……そこまで言いかけたならもう言っても大差ないですよ先生。


 余り物のスキルでも悪くはないな、と思った。

 饅頭を食べながら。


(おわり)

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