第1章:北海道編

いざ北海道へ

 警察にチンピラ達の身柄を引き渡してから、僕達二人はバスに40分乗って那覇空港にやって来た。それから空港内に入って飛行機のチケットを買った後、僕は師匠のショッピングに付き合うこととなる。


 彼女はキャリーケースはもちろんのこと、美容液や折りたたみ傘、さらにちょっとしたお菓子を買い込んだ。金を出すのが彼女だからこそに僕が物をねだることは無かったが、1つだけ、どうしてもと頼み込んで買ってもらった物がある。


 それは、一瓶の塩だった。買い物が終わると、師匠はキャリーケースに荷物を詰めながら僕にその訳を問った。


「塩って、古くから邪気を退散させる力があるって言うじゃないですか。僕は生まれつき霊感が強いので、それを持ってないと落ち着かないんです」

「霊感かあ……ここそう言うの多そうだし、霊感が強い人は辛そうだよね」


 それから僕達は、制服をきて飛行機に乗るわけにも行かないという師匠の発言によって一旦別れ、お互いトイレで持ってきた私服に着替える事にした。


 と言っても僕がお洒落な私服など持っているはずもなく、ハイビスカスが描かれた赤いアロハシャツが数着と茶色と黒の短パン一枚ずつしか持ち合わせがなかった。


(向こうの空港に着いたら上着を買ってもらおう。下がこの格好でも寒くない位に、ちゃんと温くなる上着を……)


 今まで着ていた学ランより少しだらしなく見えるのが恥ずかしい。しかしそんな理由で着替えずに行く訳にもいかないので、ひとまずシャツとズボンを着て待ち合わせ場所に行った。


 席に座って待つこと十分後、待ち合わせ場所に現れたのはベージュ色のトレンチコートに白いTシャツ、そして茶色のズボンを履いた金髪翠眼の少女だった。


「お待たせ! ごめんね時間かかっちゃって!」


 格好良さと女性らしさが両立する、一代師匠らしい魅力的な衣装。さらに髪を後ろで縛ってポニーテールにしてきているため、一瞬その少女が師匠である事に気づくのが遅れた。


「い、いいえ。僕が早すぎるだけなので、どうか気になさらず」

「というか鷹守君その格好で北海道に行くつもり? 寒くない?」

「僕、私服と言える私服を持って無くて……恐らくこのままだと、現地に着いたときに地獄を見るかと」

「まあここには服屋無かったしね。仕方ない、君の服は向こうで買うとしよう。とりあえず、搭乗手続きを済ませちゃおっか」


 そう言って彼女は受付に向けて走って行く。いまだにあの衝撃から立ち直れてない僕は、彼女が大声で僕の名を呼ぶまで呆然としてしまうのだった。


 ◇  ◇  ◇


 飛行機の中で、私は彼に対しテレパシーを使って魔法の授業を行った。ここで教えたのは自己回復と高速移動、そして一時的に腕力を強化する魔法だ。


 これらの魔法の術式を徹底的に教え込み、新千歳空港に着陸する頃には完璧に術式を暗記させることに成功していた。


 飛行機から降りた瞬間はさほど寒く感じなかったが、外に出ると肌を刺すような寒い強風が私達に向かって吹いてきた。


 意外にも、私はこの寒さを全く辛く思わなかった。むしろ、この寒さに懐かしさを感じて気分が良くなっている。


 深呼吸をして大きく背伸びした後、ふと隣に立つ鷹守君の様子を見ると――彼が、顔面蒼白で震えている事に気づく。


「あっ、ごめん! すぐにコート買ってくるから空港の中で待ってて!」


 急いで引き返し、空港中を走り回ってコートを探した。思いのほか早く温かそうなダウンジャケットを買えたので、全速力で走って入り口に戻って彼にそれを届けた。


「ありがとうございます……おかげ様で大分楽になりました。師匠はコートを着ないんですか?」

「着ない着ない! だって私寒いの好きみたいだし。とりあえず今日はもう遅いし、このまま予約してたホテルに行こう。着いてきて」


 スマホでホテルの位置を見ながら、私達は目的地へと歩き出す。その道中、私の携帯に突如見知らぬ番号から一件の着信が入った。


「鷹守君、これ出て良いと思う?」

「出て良いも何もこれ、那覇魔法学校の番号じゃないですか。出た方が良いですよ」

「そうか……もしもし?」

『私だ。もう北海道には着いたか?』


 応答ボタンを押して携帯を耳に当てる。すると、電話口から学長の声が聞こえてきた。


「学長!? 何かご用でも?」

『これから君たちに調べて貰う所について、調査しなきゃいけない理由とその場所の詳細な情報を伝えておきたいと思ってな』

「教えてくれるんですね。てっきり現地に行って自力で調べて欲しいのかとばかり」

『わかりっこないさ。だって君がこれから行く場所は……新しい魔法学校の建設予定地なんだから』

「……え?」

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