正義の味方・鷹守匠(1)

 私が校門をくぐった直後、二人の警備員によってすぐさま門は固く閉じられた。


(そんなすぐ閉めなくたっていいでしょ。こっちだってしばらく戻るつもりないし)


 少しふてくされながら、私は校門の直ぐ横にあるベンチに座って封筒を開ける。そのまま封筒を逆さにしてみると、何重にも折りたたまれて分厚くなった手紙の他にプラスチック製のカードが1枚出てきた。


(あれ、思ってたのと違う。てっきり現金が直に入ってる物だと思ってたんだけど)


 そのカードを制服のポケットにしまい、手紙を開いて内容を黙読する。要約すると、内容はこうだ。


『カードの中には50万円が入っている。その金は必ず調査のための旅行費用、そして最低限の生活費に使うこと。自分は学生だという事を、くれぐれも忘れないように』


 その手紙には他にもカードの暗証番号と最初の行き先が書かれていた。


 校長が指定した目的地は北海道富良野市の山奥。元々北海道に行きたかった私にとって、出発点が被るのはとても都合が良かった。


(……紛らわしいな、手紙と言ったらあの安っぽいペラペラの紙に書くものでしょ。まあいいや、金銭面の問題は解決したしとりあえず那覇空港に向かうか――)


 中身を封筒に戻してベンチを立とうとした瞬間、背後から肩に手をポンと置かれた。振り返ると、そこには二人の成人男性が私を見下ろして立っていた。


「よう嬢ちゃん。とりあえずその封筒の中身置いてけや」

「な、ナンパですか? 私、17歳ですけど」


 額に冷や汗が滲む。ナンパかと聞いてはみたが、彼等のギラギラと光る目がそうじゃないと強く主張してきている。


「別にナンパでも良かったけどよぉ……俺達その封筒の中身見ちまったんだ。だからもうナンパどころじゃ無くなっちまった」


 背後に立つチンピラはもう片方の手も肩に置き、ぐっと力を入れてきた。立てなくなっただけでなく、かなり力強く押えられているため両肩に激痛が走り声も出せなくなってしまう。


「おい!今のウチに封筒スっちまいな」


 傍らに立つ男が私の膝元にある封筒に手をかけようとしたので、咄嗟に腕を伸ばして手の平の付け根で封筒を押えた。男は無理矢理封筒を引っ張って奪おうとしてくるが、まるでびくともしない。


「兄貴!コイツ兄貴の力を利用して封筒を押えてます! 一旦そいつの肩から手を離してくだせえ!」

「仕方ねぇな……」


 男は右手を放し、まもなくナイフを手に取り刃の部分を私の喉仏にあてがった。


「今すぐ力を抜け。じゃなきゃコイツを喉仏にブスリ、だ」


 思わず想像して怖くなった私は、そっと封筒から手を離してしまう。封筒を奪い取った男は喜んでそれをポケットに入れようとした。その時……


「やめろーっ!!」


 その叫び声が聞こえた直後、男は背後から来た跳び蹴りを頭に食らって数メートル吹き飛んだ。顔を覆って悶え苦しむ男を見下しているのは、私と同じ学校の制服を着た黒髪の少年だった。


 あまりに突然の出来事に驚いて肩から手を離すチンピラ。その隙にバッと立ち上がり、私はチンピラの顔に回し蹴りを喰らわせ地面に倒した。その光景に少し肩をふるわせて驚愕した少年に近寄り、私は両手を握ってお礼を言った。


「ありがとう。助かったよ」

「あ、ああ。お礼は要らない。全ての人を助けるのが僕の使命だから」

「全ての人を助けるだって……!?」


 またしても興味深いことを聞いた。その考えは私の信条とはほど遠い物だ。もっと話しを聞きたくなったが、そんな私に構うこと無く彼は背を向ける。しかし、背後でチンピラがナイフを投げる構えを見せている事にふと気づき――


「危ない!」


 と叫ぶももう遅く、チンピラの投げたナイフは少年の背中に深く刺さってしまう。倒れ込んだ少年に馬乗りになり、チンピラは鬼のような形相で少年の後頭部を何度も何度も殴っている。


「殺す! 殺してやる! もうサツに捕まったって構わねぇ! ここでてめぇらを終わらせてやる!」


 思わず私は手を前に出してチンピラに氷魔法を唱えようとした。しかしその瞬間、私が決闘大会でした事を思い出して立ち止まってしまう。


(魔法はダメだ! 恐らく私はどの魔法を使ってもチンピラを死に追いやってしまうだろう、これ以上罪を重ねるのは御免だ。でも、彼を助けないと……!)


 今こうして躊躇っている間も少年は一歩一歩死に近づいて行っている。切羽詰まった状況下で、私が取った行動は――拳を使うことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る