シネマ、舞う貴方が、

のへし

プロローグ 

『だらしがない』という言語存在は、僕のためにある。


僕という存在は、どこからなんでも、だらしない。

いや、本当は『だらしがない』という言葉しか今のところ僕を形容する言葉を思いつけないからである。

そういうところも、だらしがない。


今日も終わらない自己嫌悪で始まる。馬鹿にもほどがありすぎる滑稽な朝、昼、夜。

こんな僕に、朝、昼、夜なんてお越しいただいていいのだろうか。

感謝も通り越して、特有の罪悪感しかない。


そんなことも構わず、爆音で冷徹な声で警告の声がする。

頭部がビデオカメラになった男が、パトカーの上の部分(赤いところ)が頭になっている男に追いかけられている。ビデオカメラ男は、赤い男にとらわれて、腕の肘から下を、わざとらしくだらんと下げ、左右に振っている。


このやり取りは、人生で片手で数えられるぐらいは見てきた。


でも、やっぱり怖い。


座る椅子も、なんだかいつもと違う。

ちょっと腰を上げようとすると、すぐにたたんでしまう。

まるでクラスの釜口さんみたいだ。

せっかち。


こんなところに来たのは、一種の気休めだ。

なんてったって、部活を退部した。

三年生のくせに、どうせなら最後まで続けろよ。

そう思われただろう。

しかも理由も軽薄なもので、新入部員との関係のもつれである。


一年の川口さんは、有能な人材だった。

わが校の怠けた部活で有名である、新聞部のくせにやる気があって、彼女が設けた特設コーナーは、とても面白く、役に立つものだ。


でも、みんなに怒鳴ってばかりで、なんだか、彼女だけが一生懸命やっていた。

なんだかしんどくなって、勝手にやめた。

僕は新聞部の、怠けたあの感じが好きだった。

みんなは課題をやったり、絵をかいたり、小説を書いたりしていて、各々自由にやっていたから、僕も何をするわけでもなかったのだが、かといって変に目立ってはいなかったと思う。そういうところが好きだった。


川口さんは悪くないし、いい人だ。

よくよく考えれば、まだ12,13の女の子に『みんながみんな同じぐらい頑張れるわけじゃない』なんて、言ってもわからないだろうし、一生分からない人生を歩むかもしれない。

少なくとも、僕よりかは努力家で、まじめなわけであって。


「上映中のマナーを守ってお楽しみ下さい」

ふと現実に戻ると、淡泊な声が上から降ってきた。






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