「先輩のことが大好きです」

「ねぇ、あれってモデルの紀野凪じゃない?」

「え、好きって言ったけど、これって何かの撮影?」


 騒めく野次馬を押し除けて、凪の元へと急いだ。何でここにいるのとか、言いたいことはたくさんだけど、そんなことよりも先に伝えたいことがあった。


「私……先輩のことがずっと好きだったの。でも先輩のことを苦しめたくないの……。ねぇ、先輩。私はどうしたらいいのかな?」


 必死に涙を堪える彼女が愛しくて、人目も触れずに抱き締めた。


「俺も好きだよ。凪のことが好きだ。凪が思ってくれてるように、俺だって凪を苦しめたくないんだ」


 ガヤガヤとうるさい外野。

 せっかくいい所なんだから、静かにしやがれコノヤロー。


 今更感はあるが、俺は凪の手を握って走り出した。本当はずっとこうしたかったんだ。

 周りなんて気にしないで、大好きな彼女と手を繋いで。


「先輩、私、モデル辞める! そしたら先輩とこうして付き合えるんだよね?」

「何をバカなことを言ってんだ? 俺が凪と一緒に芸能人になる。俺が凪を守る。これからもずっと、ずっと凪のことを大事にするって決めたんだ!」


 そのままショーンのところへ向かった俺達は、正々堂々と付き合うことを宣言した。


「俺もその番組に参加します。歌って踊ることはできないけど、それでもいいんですよね?」

「ふふっ、今はできなくてもいいの。行く行くできるようになってくれたらね?」


 ん? 何だその含みのある言葉は……?

 俺はアイドルにはならないぞ? 無理無理無理無理、慣れないって、ねぇ!


「それにしても……随分と派手に告白してくれたわね。こんなんじゃ番組に出てもらっても、ヤラセがバレバレじゃない」


 やっぱヤラセなんだ。制作裏側が垣間見えてショックだったけど仕方ない。

 話題性は大きいだろ?


「その代わり、アンタ達にはたくさん稼がせてもらうわよ? せいぜい仲良くしなさい」


 こうして俺達はカップルモデルとしてデビューをすることになった。


 その後はバライティにも出たり忙しかったが、隣に凪がいるっていうだけで幸せだった。

 ついでに月音の件も事務所が対処してくれたので安心した日々を送れている。


 ただ暁さんだけは、ショーンに横取りされたと悔しがっていた。


「斉藤くんは僕のところで磨くつもりだったのに、すごく残念だよ」


 代わりに結婚して仕事が減ってしまった千石さんが穴を埋めたと話していたが、逃した魚は大きかったよと落胆していた。


 そして俺達の他の問題……家族の問題も、ショーンの力を借りることで納得してもらえた。


 俺の父親に至っては「引きこもり勝ちだった息子が、社会に出るようになってくれて良かった」と理解のある父親のような発言をしていたし、凪姉も「認めてくれないと縁を切る!」という妹の言葉に折れたらしい。


 だが俺の顔を見るたびに鬼の形相で威嚇をしてくるが、この件に関してはゆっくり解決していこうと思っている。


 相変わらず忙しい日が続いてロクにデートも出来ていないが、隣には幸せそうに笑う凪。


「へへ、先輩、大好きです♡」

「はいはい、俺も好きだよ」


 相変わらず好きを連発する彼女だが、俺はそんな彼女が大好きだ。




 ———……★ HAPPY END

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