第37話 治癒と浄化
暗殺者の目をかいくぐり、皇帝の繋がる部屋へと向かおうとしていた。
アンナの目からは入口から薄暗いなかから光が漏れ出しているように見え、光がまぶしく感じて思わず目を細める。
先頭にいるのはアレクサンダーとイリヤ皇子、クラレンス、ルイーズとアンナがこちらを見える。
クラレンスは魔法具のブレスレットの目盛りを変えているのが見えるので、アンナも似たように調整をして立ち止まっていた。
「ここが皇帝の執務室か」
「はい。普段はそんなに入ることは許されていないのですが」
「誰かいるみたいですね」
「まずい。詠唱が聞こえてきた」
そのときに執務室の方から詠唱と争う声が聞こえてきたのだった。
そのなかで男性陣が血相を変えてすぐにルイーズとアンナたちを奥の方に押し込むように針し出したのだ。
「隠れろ!」
「結界を」
「はい‼」
すぐにイリヤ皇子が強靭な防御結界を張ると、すぐさまアレクサンダーはルイーズとアンナたちを護るためにさらに強靭な結界で包んだ。
それが完成した直後に爆破が起き、すぐに壁がすぐに破壊されていくのが目の前で起きたのだ。
「キャアアアア‼」
一瞬聞こえてきた詠唱は爆破魔法のなかでもかなり危険とされているもので、魔力次第では更地になる可能性が高いものだった。
爆音と爆風によって壁に叩きつけられそうになったが、壁の破片がパラパラと落ちていくような音が聞こえて煙が収まってから立ち上がる。
「大丈夫か?」
「はい。みなさんも」
「ケガはしていません。結界のおかげですね」
「良かったです。クレアおじ様は大丈夫ですか?」
「ああ、おかげで」
結界を解いてから壁などが崩れ落ちている間から誰かの人影が見えた。
帝室護衛騎士団の礼装は血で汚れ、倒れている騎士の髪は銀色で結われている。
その姿はアンナが一番身近に見てきている護衛騎士の姿がそこにはあった。
「いやあああああっ、師匠!」
「リック! アンナ、来てはいけない」
「師匠‼ どうして」
クラレンスの制止を振り切って倒れているリカルドの方へと向かうと、思わず悲鳴を上げる前に言葉を失ってしまっていたのだ。
彼女が見たのはリカルドの左腕はなく、ただ血の海ができている状態だった。
さらに体のあちこちに傷を負っているせいか、かなりの重傷だということが目に見えている。
「クレアおじ様」
「わかった。アンナはできるか、治癒魔法である程度止血させる」
「はい」
そのときにルイーズは布を取り出してから止血を行うと、次にアレクサンダーが頑丈な結界をアンナとリカルドを包み込むように張られている。
「医術師を呼んできます。すぐに来れるかと」
そう言ってイリヤ皇子は魔法具でケガ人が出たことを伝えて防御魔法を入口で作っている。
次にアンナが精霊の力を借りて水の精霊王が水を生み出して、すぐに汚れとリカルドの血を洗い流す。
それから治癒魔法を彼の傷口を対象にしてかけて、徐々に傷を癒していく。
彼女の魔力の特性は浄化型の魔法性質を持っていること、彼の体に渦巻いていた
リカルドの目が開き、アンナの方を見つめているのが見えた。
腕を失っていること、かなりの出血をしていることを見ると意識を保つことも難しいはずだ。
「……アン、ナ」
「師匠! 大丈夫だから」
「そうか」
その一言で彼は再び目を閉じて、意識を手放したようにも見えた。
「こちらでしょうか? 大丈夫ですか」
「左腕がもうない。急いでくれ」
「はい」
イリヤ皇子がすぐさま医術師を呼んできたことを部屋に入る姿を見て、アンナはある程度の治癒魔法を止めた。
「クレアおじ様、リカルドをお願いします。アレックス様、ルイーズ様。そして、イリヤ。わたしたちだけで行きましょう」
「ああ、結界の維持は任せてください」
(叔父上はむごいことをされる)
そう言いながらクラレンスを残して、アンナたちは皇帝――レオ・アントニオ皇子との対面をすることにしたのだ。
私室は主の好みによって模様替えが行われたりしている。
「父上はこの奥にいます」
どうやらレオ・アントニオ皇子は派手で豪華なものが好みらしく、悪趣味だと思っているなかでさらにアンナは表情を暗くするのだ。
そのなかで香水の匂いに酔いそうになっていたが、彼女は隠していた皇太子の王杖を取り出した。
そして、彼女はそれを形を変えた。
アンナの手には形を銃へ、王杖につけられていた
「姉上」
「イリヤ、大丈夫よ」
イリヤ皇子は何か怯えているような表情で血の気が引いてきているのがわかる。
そんな彼の表情を見つめてアンナはそっと彼に問いかけた。
「あなたは
「姉上はお見通しですね。父上にはあなたを殺すように言われていますし。さらにはルイーズ様たちも殺せと」
「そうですね。でも、あなたは味方としてここにいる」
「あの人はこの帝国をただの道具にしている。仕えていた獣人の者たちを排除して、自らの意志にそぐわぬものは粛清していきました。もう……国民たちはあの頃に、戻りたい。この願いを叶えてほしいのです」
「父様が即位していた頃ですね。わかりました。約束しましょう」
アンナはイリヤに小声で契約魔法を行ってから、急いで皇帝の私室へと歩き始めたのだ。
私室の部屋に立っていたのはサユリが護るようにこちらを見つめて立っているのが見えた。
「サユリさん。ここをどいてください」
「できません。ここに来るのは許可をしていません」
「なら質問を変えましょう。リカルドに重傷を負わせたのは、あなたですか?」
「いいえ。もうあなた方には用はないと陛下はおっしゃりました。まとめて亡き者にしてあげましょう」
そんなことを口にしながら自らの腰に据えているカタナを取り出そうとしたときだった。
彼女を拒絶するかのようにカタナはバチッという音を出しながら、彼女の手から弾かれてしまっているのが見えたのだ。
「なぜ、このようなことが。私の持ち物なのに」
もう一度手で持とうとしたときも同じようなことがあり、それを見たルイーズは彼女が持って苦しんでいる間にカタナを手に取って距離を置いた。
「お前、そのカタナに触れるのではない‼ それはフローレンティアの加護を受け、サイオンジ家の家宝だ!」
「だからこそ、サユリさんを拒絶するのです。破滅型魔法の性質は魔族の系譜、それに染められているあなたはもう邪悪なるものなのよ」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい‼ 黙れッ」
そう言いながらサユリの意識と反するように別の人格がにじみ出してきたのだ。
その周りに一気に瘴気が出現し、彼女の顔も少しずつ変化してきているのだ。
「まずいぞ。このままでは彼女が」
「わかってるけど、どうしたら?」
「ルイーズ、カタナを振り下ろせ。彼女の目の前で」
「はい」
そう言ってアレクサンダーが結界を張り、その周りをアンナが風を起こしている中でもがき苦しんでいるサユリがいる。
その姿を見るとレオ・アントニオ皇子の魔法に染められ、本当のサユリがどこにいるのかもわからない状態になっているようだった。
そんななかでルイーズはカタナを手に持って、結界を壊すようにサユリの方へそれを振り下ろしたときだった。
カタナから一気に薄紅色の花びらがもがき苦しむサユリを包み込み、徐々に浄化された神聖な空気が漂い始めている。
サユリの魔物じみた叫びが聞こえていたが、花びらが消え去ったときにはサユリが倒れ込んでいるのが見えた。彼女の持っていた魔法性質もはっきりとしているのか、ルイーズの手に持っていたカタナがすぐに鞘へと戻っていったのだ。
「いまのは」
「おそらくあのカタナが祓いたかったのかもしれない」
「そうですね」
そのままイリヤ皇子がサユリを壁にもたれさせてから、その私室へと入ることにしたのだった。
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