第40話 王太子たちの運命

 アレクサンダーが体調が悪いということで、ソフィア妃が隣の一室を借りてそちらへ移動することにしたのだ。


「アレックス様も攻撃で魔法を多く使ったのですね。お休みください、宮殿に戻る際は侍従に伝えますので」

「はい」


 そのことを聞いてアレクサンダーは息をついてルイーズと共に部屋へ入る。

 すると照明と暖炉がついているのが見えて、人が入ることを感じ取って勝手につくようにしていた。

 アレクサンダーはそれどころではなく、長椅子の方へ体重を預けて倒れ込むように座っている。


「あ、アレックス様。水ならこちらにあります」

「ありがとう。ルイーズ、お前も飲もう。緊張で喉の渇きを感じてなさそうだから」


 それを聞いてルイーズもうなずいて用意されていた水を口に含んだ。

 それからアレクサンダーが髪を短くしていることもあるのだが、青年としての一面が強く出ているのを感じ取っている。


「アレックス様はこれからどうされるのですか?」

「アレクサンドラ王女の留学は春の終わり、五月までとされているから残り三か月はこちらに残る。ルイーズもそれは知っているな」

「はい。それからアレクサンダー王太子として立太子の儀を行うんですよね」

「そうだ。アレクサンドラ王女との別れを経験をさせる。俺が王太子として姿を現すために」


 それを聞いてルイーズは驚きの表情を浮かべているのが見えた。

 確かにアレクサンダーとアレクサンドラ王女は一人の人間が演じているのだ。

 それを成人となった王太子として生きていくには王女として生きてきた時間と別れを告げなければならない。

 それは十分理解している。


「ルイーズ。そのときはお前の騎士としての主として解くことは覚えておいてほしい」

「はい。アレックス様、なぜこちらに移られたのですか?」

「千年前の建国時の物語を思い出したんだ。子どもの頃からそれを言われていた」


 それはルイーズも知っている者だったらしく表情を明るくしてうなずいている。


 物語というのはかつて魔法大国マギーア・アド・オリエンタムと呼ばれていた時代に、二人の君主の息子たちが独立をしたという物語だ。


 兄は現在のシュミット王国やエリン王国北東部の獣人のワシ族の族長の娘との間に、弟はメリーディーエス沿海地域を統べていた有力者の娘との間に生まれた。


 異母兄弟ではあったが二人は同じ王城で育てられ、この二人は他の異母兄弟たちと違いとても仲が良かった。

 成人し、伴侶を持ったときに自らが持っていた土地を一つの国として立ち上がったのだ。


 兄のアレクサンダーはスタンフォードという姓を名乗り、アリと呼ばれる土地で都を開いているのだ。

 弟はルイはジュネットという姓を名乗り、妻の名であるテレーズを都の名として開いたのだ。

 それがいまのエリン王国とジュネット王国の始祖であり、アレクサンダーとルイーズはそれぞれその血を引く子孫であることだ。


 そこまでは国民たちも知っていてそれぞれ兄弟の国として友好国の関係を築いている。

 しかし、王族たちにはそれ以外に語り継がれていることがあるのだ。

 それは兄弟たちが約束した子孫への願い事だったのだ。


「互いの末裔が生きていれば千年の月日を経て一つの国として立ち上がろう。それぞれの祖先にちなんだ名をつけ、その者を伴侶に国を立ち上げる」

「聞いたことがあります。生まれてからずっと言われてきました。おそらく」

「そうだな。非公式ながら縁談が全く来ないのはその先祖の約束があるからだ。お互いの名前を見て、これを自らの辿る運命さだめだと感じた」

「これから正式なお話が来ると思うのですが、そのときは王太子として接してくださいね」

「お前もな」


 二人は何となく想像がつかないみたいで、新しいことが話しているのがわかっている。

 まだお互いの間にある感情はそれぞれの敬愛する気持ちがあるのだという。

 その感情が変わるのはそれから半年後のことだったことを二人はまだ知らない。


「アレクサンドラ王女殿下、ノエル様。失礼いたします」

「はい。お入りください」

「殿下、間もなく離宮より宮殿へお戻りになられてもよいそうです。アンナ・ベアトリーチェ皇太子殿下も戻られるそうです」

「わかりました。ルイ、行きましょう」

「はい」

「伝えてくださりありがとうございます」

「いえ、大丈夫です」


 その後に宮殿に戻ると、部屋には荒された形跡がないのが見える。

 そして、アレクサンダーとルイーズは自室に入ると大切に保管されていた箱を見つけて息を吐く。


「良かったですね」

「ああ、本当に良かったよ」


 箱に入れていたのは髪飾りや、ピアスなどが収まっている。

 ルイーズは小さな神々の像が入れられており、神殿に行かなくても祈りを捧げられるようになっている。

 それを聞いてからすぐにアレクサンダーは体の疲れを癒すために寝ることをしたのだ。

「はぁ、疲れたな」

 彼自身が感じているのはこれからも王女としての暮らしが続く。

 十八歳の誕生日までにはエリン王国へ戻ることになっているときに王女としての自分は変わることになる。

 うつらうつらとまどろみに身をゆだねて彼は寝てしまったのだ。



 それからアレクサンダーとルイーズはそれぞれ自分の演じている役割を新しいことをしている。

 アレクサンドラ王女として兄から預かっている計画書を帝国の魔法導師たちに披露していた。


「王女殿下、ご機嫌麗しゅう。ローマン帝国での暮らしにも慣れてきたところでしょう」

「はい。それと兄からこれを預かっております。ジュネット王国のトマ・ルゼ氏が魔法蒸気機関の乗り物のプロトタイプができたのです。これを大陸の東西を結ぶ蒸気機関の乗り物を作りませんか」


 そのなかで議論を深めながら改善点と新しい意見などを考えながら話をしているのが見えたりしている。

 髪が短くなっているものの、最近は帝国で短めの髪型が流行であることもあり、流行を取り入れていると思われているようだ。

 奥宮の部屋に戻ってからはすぐにアレクサンダーはすぐにベッドに腰かけると、ルイーズが用意していた飲み物と軽食をテーブルに置かれてあった。


「ああ~、疲れた……魔法工学の議論は頭を使うなぁ」

「アレックス様、お疲れ様です」

「ありがとう。侍女を呼ぼう」

「はい」


 そう言うと部屋の外に控えていた侍女たちが紅茶を淹れてもらう。

 恭しく礼をしてからまた何か必要なものがあれば言うようにということを言われた。

 それから侍女たちが部屋に入ると、楽しそうな笑みを浮かべながら楽しそうに紅茶を飲み始めた。


 そして、アレクサンダーはすぐに盗聴防止の魔法をかけ、ありのままの自分について話をすることができるようになった。


「ルイーズも王太子の教育について少し学んでいたのか?」

「それは逃げてからは全く行っていない状態です」

「そうか。それならエリン王国とジュネット王国の帝王学は一緒のことを教わっていると聞いた。それを話そう」

「ありがとうございます」


 それから話題はアンナのことについてだった。


「そう言えば。宮殿の医術師がレオ・アントニオ皇子が意識を失っているということを聞きました」

「そうだな」


 ルカ・アンドレア帝は弟であるレオ・アントニオ皇子に殺され、彼が兄に成り代わっていたことを発表されたのだ。


 さらに彼と側妃との間に生まれた子どもたちである皇子と皇女たちに関しては皇太子であるアンナとベアトリーチェ皇太后が後見人へ。

 さらに成人まで地位を保護し、彼らの今後についても変わりはないと彼女の名のもとに置いて宣言されたのだ。


 実際にレオ・アントニオ皇子は病の状況が悪化したことによる昏睡状態に陥り、彼の余命は夏を越えられるかどうかと言われている。


 そんな彼の代わりに政務を優秀な側近たちと共に摂政として関わり出したのだ。


 さらに獣人の保護による条項も破棄されていた物を戻し、元の生活に近い暮らしを行えるような財源を他の場所から工面することにしているのだ。

 そして、強制的に併合されている国々に関しては順次申し出があれば帝国から独立することを通達している。


 その通達には謝罪とこれからの独立についての信頼を取り戻すことが明記されている。

 その返事はアンナに好意的なものばかりらしく、若くして政務に着くことになった彼女へ労いの言葉があったという。





 そして、季節が巡り、夏を迎えた。







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