第4話

―――昼過ぎ。


街は活気があり賑やかだった。たくさんの人が行き交い、店には商品が溢れている。そんな光景を見ていたら、気持ちが明るくなってきた。

この街で何か仕事を見つけよう。そうすればきっと……。そう考えながら歩いていると、ふと視界の端に映ったあるものが気になって足を止める。それは壁に貼られた一枚の広告ポスターだ。



"あなたのお店を開こう! 手芸用品専門店"



と書かれているそれを見つめる。


(そういえば、私は昔からハンドメイドが好きだったな……。今は異世界転移したときに持ってたトートバッグの中のいくつかしか持っていないけど、とりあえずお店登録だけしておくか。)


そう考えて再び歩いた道を引き返す。向かう先は受付カウンターだ。受付嬢の所へ行き、話しかける。


「シノさん!先ほどぶりですね。 どのようなご用件でしょうか?」


彼女は笑顔で対応してくれた。それにつられて私も笑顔を浮かべて話す。


「実は、手芸屋の看板を目にしまして。私も手芸関係のお店を出したいなと思っているんですけど、出店にあたっておすすめの物件とかありますか?」

「あら!素敵ですね!確認して参りますのでお待ち下さいね。」


彼女はそう言うと、辞書並みに分厚い資料のような物を取り出し早速調べてくれた。


「そうですねぇ……あ、丁度ここなんかどうでしょう?『即入居歓迎!』と書いてあるので、今日この後から入居できると思いますよ。場所はここから見える東門を出て少し歩いたところ、徒歩10分程度の場所になります。この辺りには他の店舗も少ない場所なので、かなり立地が良いですよ!」


そう言って彼女が指し示した先には、まだ新しそうな一軒家の写真があった。


「ここに住めるんですか?しかもすぐに。それは凄く嬉しいなぁ……」


そんなことを言いながら眺めていると、その家が気に入ったと思ったのか、女性が続けて言った―――


彼女の話を要約すると、ここは最近建てられたばかりの家で、中はリフォーム済みとのこと。家賃が金貨3枚という破格の値段らしい。金貨の価値は分からないが、彼女の熱量を見るにおそらく相当安いということだけは理解出来た。何故ここまで安くするのだろうか?疑問に思っているのが伝わったらしく、彼女は苦笑しながら話し始めた。


なんでも、少し前までこの家に住んでいた方が突然居なくなってしまったためらしい。最初は何かしら問題を起こしたのではないかと心配していたが、1ヶ月経ち、更に半年経っても音沙汰が無いことに諦めがついたそうだ。

そこで、ちょうど新しい住人を募集し始めたところに私がやって来たため、せっかくなのでお勧めすることにしたらしい。確かにいきなり人が消えてしまったら怪しく思うのが普通だよな……と考えつつ、


「それじゃあお言葉に甘えて、是非ともそちらに決めたいと思います!よろしくお願いします。」


と伝えた。それからいくつかのやり取りを済ませ、無事契約成立となった。早速今日から住むことになったため鍵を受け取り、そのままギルドを後にしようとしたところで彼女に呼び止められた。


「シノさん。これから大変だと思いますけど、困ったことがあればいつでも相談に来てくださいね!」

「……!ありがとうございます!」


(急に異世界転移して色々どうなるか心配だったけど、人も優しいし、杞憂に済んでひと安心だな。)



こうして私は、異世界生活1日目にして新居を手に入れることが出来た。



***



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