空想に別れを

KK

第1話想像に思うこと


 思春期。多くの子供が大人になるための扉。多くのことに不安を持ち、言葉にできない苛立ちを持ち、時には非行にも走る。

 それはとても健常なことだと思う。

常識を訴える大人は他者も子供も他であれば受け付けない。非常識と言われればその通りの行い。でもそれは“子供”を想っての言葉だろうか。

近くなってしまったが故に、遠くなってしまった現代で。果たしてどれほどの“大人”が“子供”を案じられるのか。

娯楽は心の住処。大衆にライトノベルが出るようになったのはいつ頃か。

昨今はファンタジーが増えたと思う。

ファンタジーは空想であり、妄想だ。誰もが物語の中ではヒーローになり、賞賛の声を浴びる。誰かの味方になれば、誰かの救いにもなる物語。

それは悪い事ではない……と僕も思う。行き場の無い感情宥める為の術だろう。

気持ちのいい風に頬を撫でられ、少し眩しい太陽の光に目をすがめながら物語について想う。

多くの人、特に思春期とか別に嫌な事があるという訳でもなくただただつまらない時とかにああだったら、こうなったらと妄想するしそうならないかなと思うことだろう。だがそれは妄想の中、でのみに限る。

つまり、何が言いたのかというと


『現実でこれはひどく無いですかあぁぁあああああ!』


腰ほどまでにある緑でできた海が風に揺られてさざめく。

叫び声が青い空に吸い込まれて消えた。

着ているものは何かの布とズボンのような物。簡易的な服で、まるで文明が発達する前の形。

携帯もゲームも何も無い。学生にとっての必須必需品が失われるなど地獄だ。

なぜこうなったのかを思い出す。

20××年春 死ぬ気で勉強をして入った高校。今日から一年間過ごす教室に足を踏みいれた時だ。目が潰れるかと思うほどの光が覆ったかと思えば今の状況だ。

何も分からない。何かの啓示があった訳でもなく、神様みたいな何かがいた訳でもなくてましてや今流行りのラノベみたいにチートが与えられた訳でもない。いや、チートがあるのかどうかは調べようが無いから知らないけど。

『とりあえず、何処か人がいる場所までたどり着かないと』

まるで分からない、知らない世界だ。身を守る術すら分からないのだし嘆くのも我慢して進まなければ。

東西南北ぐるりと眺め回す。北は森で東は山々が連なっている。南と西は草原が広がり緩やかな丘のように見える。太陽の進みが同じなら方角は同じはず。南下していけば気候も暖かくなり植生も人が食べれるものが増えるだろうし、それにフルーツって南国のイメージがあるし。

『まぁ、進めば何かはある。どうせ立ち止まっていても何にもならないのだし』

勇気を持って一歩足を踏み出す。

道を目指し歩み出す。




二日後、行き倒れていた。

イヤイヤ、餓死するわ。あれから真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐ進んだ結果・・・・・確かに道だと思う場所には出れた。

しかしそこで力尽きた。腹が減るのはまだ我慢できる。だが何も飲まずは死んでしまいます。本当に人って水を三日飲まないだけだ死ぬのね。

ついこの間十五になったばっかの子供には泣けるものです。どんな罰ゲームだよ。食べる物もない、飲む物もない、人影も無い。

少し歩けば誰かに会うだろうとかお気楽過ぎると今では自分の阿保加減に涙が出る。

あー、でもこれはもう終わったかな。頭が酷く痛い、吐き気がする、体が重く立ち上がる気力が湧かない。

嫌だなぁ・・・・死にたくない。

・・・・死にたく無いと言うか、いまいち今の状況すら夢じゃないかしらと現実味が無い。

今目を瞑り次に目を覚ましたら自分の部屋で入学式に寝坊したって慌てているんじゃ無いかとさえ思う。

駄目だ。  何だろ?涙が出てくる。感情がもうしっちゃかめっちゃかになってる。

ひたすら歩き続けて、ようやく道のような場所に出れた。しかし何も分からない、知らない、仲間と呼べる者すらいない状況下でその精神はギリギリの千切れかけた綱であった。

理解力の許容量以上が起こり、半ば白昼夢を見ている様子に近かった。否、他人事として受け取っていたのだ。

目の前がぼやけて景色が滲む。涙が伝って地面に染みができる。

なんでだよ。・・・・・いきなり訳の分からない場所にいて、死ぬとか意味がわからねぇ。

涙が止まらず、理不尽に苛立ちとどうしようもなさと自分の何もできない弱さに叩きのめされていた。

それからどれくらい時間が経ったのだろう。涙も止まり意識が薄れていく中、いよいよかと諦めがつきかけていたとき、誰かに体を揺さぶられた気がした。

母さんに・・・・家族に会いたいなぁ・・・




『う・・・んっ』

揺れている・・・・・・薄汚れている布・・・

視界がぼやけているため上手く見る事ができない。いや、それだけではなく意識が朦朧としているのだろう。もやが掛かったように頭が働かずにいた。

『・・・ここは?』

『っ!き つい の す ?も だい ょう ですよ』

掠れた声が出た。誰かいたのか上から覗き込まれているようだった。

声を聞き取る事ができないが何となく自分は助かったのだと思った。

そう思うと再び意識が薄れてきた。

多分、大丈夫だろう・・・例え何かあったとしても、もうどうしようも無いだろうし。

そんな事を考えながら眠りについた。



『・・・・・、部屋』

目を動かして周囲を見る。

簡素なテーブルが一つと木造のクローゼットが一つ。

意外とものが少ないせいか広く感じる一室だった。

頭が重い。誰かに何か話しかけられていたけど、上手く覚えていないな。ただ助けられたんだろう。

お礼を言わなきゃ。

節々が痛む体を起こし、どうしようかと考え込む。

自分を助けてくれた人はどこにいるのか分からない。勝手に動いて良いものか、それとも誰か来るのを待つべきか。

いや、取り敢えず部屋の外を覗ってみるか。もしかしたら誰かいるかもしれないし。

ベッドから出ようと布をめくる。

何か違和感があると思ったら靴を履いていたままだった。

このままベッドに入れられていたことに軽く驚きながら、外国では何か靴を履いたままベッドに入るシーンがあったようなと、昔見た映画のワンシーンを思い出した。

扉を開けようとドアノブを回すがぴくりともしない。少し焦って力を掛けるがミキっとした音立てたものだから思わず手を離してしまった。

どうなっているんだ?ドアノブが回らないとか部屋から出れないじゃん。

しばしジロジロと見てドアノブは回らない作りなのだと気づいた。と言うよりも下に関貫があった。

それを外し扉を押して部屋の外へ。

部屋は二階にあった。廊下の反対側、扉の目の前は柵になっており一階を眺める事ができる作りになっている。廊下の端に一階に降りる階段がった。

宿屋のような場所なんだろ。一階は食堂のような場所だ。入り口に人が立っていてカウンターがある。

立っている人は男の人。恰幅の良い中年の男性で頭頂部は少し寂しくなっている。

『すみません、あの私葵乃あおのと言うのですが私をこの場所まで運んでくださった方はいらっしゃいますでしょうか』

そう言ってから自分の言葉が通じるのかとふと気がついた。

通じているか不安に思いながら返答を待つと、男性はこちらを見て語ってくれた。

『ああ、アゼレア教の神父様が介抱してくださっていたのですよ。宿泊費もその方がだしていただきまして。今は説教の時間ですので教会にいると思いますが』

?神父だったろうか?まぁ意識もあやふやだったのだし自分の願望でも混ざったのか。

『そうだったのですね。ぜひ助けて頂いた感謝を伝えたいので教会の場所をし得ていただきたいのですが』『そのことで神父様から言伝があります。お客様が起きられましたら、夕方にはまた宿に立ち寄るのでそのまま宿にいて欲しいとのことです』

あっ、きてくれるのか。助かるな。・・・・・待って神父さんに立て替えてもらっているけどこれ、後から気が付いたんだから代金払ってねって言われないか?

終わったんだが?人生詰んだんだが?こんな世界の通貨なんて知らないし、お金が無いなんてなったらどうなる?警察?てか警察なんてあるの?牢屋に入れられる?死?

やばい、やばいやばいやばい。お金のしらい待ってもらおう。

あわよくば仕事を紹介してもらおう。職がないのに請求できないし仕方ないよね。

冷や汗が滝のように流れる。その様子をみたからか男性が心配そうに話しかけてくる。

『あの、まだ気分がすぐれないようでしたらお部屋に戻られた方が』

『あ、はい。そうさせていただきます。ちなみにここって人で募集していますかね?』

引き攣った笑いで問いかけると申し訳なさそうに男性は首を振った。

『あいにくと人手は足りておりまして』

『そうでしたか。いえ、ありがとうございます』

それだけ返しておぼつかない足取りで部屋へと戻る。

フラフラと揺れる姿は悲壮感が漂っていた。


ああ〜――!あ、あーー!ああああぁぁああぁあぁあああ!

相手は神父だ。慈悲の心で作られているんだ!そう、何も心配ない。何を恐れる必要がある。聖職者がそんな賃金を求めるような浅ましさを持つはずがないんだ!

真剣に身の上を話せばわかってくれるさ。最悪日本の十八番、DOGEZAを披露しよう。

とベッドの中布にくるまって悶えていると

コンコン

とドアを叩く音がした。ベッドから飛び上がり木枠の開け放たれている窓を見るともう夕陽が赤く部屋の中を照らしている。

嘘だろ、もう夕方か!?

再びドアが

コンコン

と叩かれる。

『は、はいー!どちら様でしょうか!』

『アゼレア教会のエルノアと申します。入ってもよろしいでしょうか?』

男性にしては高い声音がドア越しに通る。

綺麗な声音だな。

『はい、どうぞ中へ』

澄んだ声に驚きつつも急いでドアを開け中へと通す。

その人物は足かに身長は高く凛々しいような顔つきをしているが、女性と見紛うような柔らかさもあった。

少しだけその顔に見惚れ、すぐに心を奮い直らせる。

『えと、どうぞ此方に』

椅子をひき座らせると自分は流れるように地面に額をつけた。

『すぅいまっせん!!お金持ってないです!いやね別に集ろうなんて思っちゃいないんですよ!ただね深いわけがありまして、病むにyまぬじじょうといううかそうこれはもう何かの悪意にあったと言いますか』

取り敢えず一気に捲し立てと謝罪で申し訳ない気持ちを表さんと言葉の羅列する。

チラッと目を向けるといきなりの事に口を開き驚いた表情のまま固まっていた。

DOGEZAの姿勢のまま動けずに、やってしまったかと冷や汗を流していたら動くような気配がした。

『あの・・・・取り敢えず顔を、あげてください』

引き攣ったような声に、恐る恐る顔を上げると案の定に引いたような顔をした神父が無理に笑顔を作っていた。

自分の行動を自覚させられる。

あぁあぁあっぁぁぁぁあああっぁぁあああ!

穴掘って埋まりたい!何やってんだろ。・・・・・・死にてぇ。

自らやった事に血が顔へ集まり、羞恥に赤くなる。

側から見なくとも頭が可哀想な子か、新デビュー目指して違うことしたら滑っちゃった痛い子でしかない。

何も言われない事が逆に気遣われていることをまざまざと自覚させられて、より一層死にたくなった。

数秒沈黙が流れる。

ンンッ

そんな空気を変えたく咳払いを一つ。

『へー、先程はおかしなとこをお見せしました。すみません』

『あっ、いや。お気になさらず・・・』

返事の言葉の端にまだ距離を置かれていると言うべきか、変な人と警戒が滲んでいる。

いやー、警戒されるよな。あんな変な行動したら。

するんじゃなかった。

自分で招いた事とはいえ流石に辛くなり、考えなしに動くんじゃなかったと反省する。

『まず、助けていただきありがとうございます』

深く頭をさげ、感謝を伝える。

『いえ、主は等しく慈しみその御手を差し伸べますから』

『そうであっても助けられた事に変わりはありません。・・・・それで、相談と言ってはなんですが、その、お恥ずかしい事に今、手持ちがなくてですね』

その言葉に、ああと何が言いたいのか理解したように声を出す。

『大丈夫ですよ。宿代は教会から降りますので気にしないで下さい。それよりこれからどうするのですか?』

行き倒れていた所を助けた立場もあるのだろう。聖職者になるくらいなのだから、性根から優しい人なんだろう。

『そうですね。その、厚かましい事を承知でお願いしたいのですが。働く場所の紹介をお願いできないでしょうか』

もう恥も何も無いのだし、世話になれることは世話になってしまおう。

『それでしたら人手が必要な所があるか聞いてみます。ギルドがありますのでそこで仕事が無いか探すことも出来ますしそれまでの間はどうしますか?』

あっ、そうだ。流石に宿屋にいる訳にはいかないか。

でもどうするか。お金なんて持っちゃいない。どこか軒下でも借りるか?

『仕事が決まるまでの間、教会に来ませんか?』

そんな事を考えていた時エルノアさんがそう提案してきた。

『いいんですか?』

それはつまり教会を宿代わりにしていいって事だよな。渡りに船ではあるけど

『此方としては助かるんですがそこまでお世話になっても良いんですか?』

世話になれるだけなろうとは思ってはいるが、流石に図々しすぎる気もする。

『良いですよ。それに

『じゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします』

その後宿屋でその日は寝ることにして、明日教会に行くことへ。

時間もいい時間であったのと、いくら部屋が空いているとはいえ流石に掃除やシーツなどを用意しなければならないためである。

今日はゆっくり眠り明日に備えよう。

この世界に来てからの数日は死にたくなるほど苦しい時もあったけど、生きているんだ。

明日も生きて、次の朝を迎えよう。


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