第37話 悪霊は悪霊だった件
私はちょっとだけ同情していた。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ反省と懺悔もした。
今、私の目の前にはメイナード先輩の姿がある。
場所は私がメイナード先輩のファンによって閉じ込められて、私やヴィオリーチェと同じ転生者である幽霊少女プルナと出会った用具準備室だ。
プルナと出会ったあの日、プルナは私にメイナード先輩に付きまとわれている問題を自分がどうにかしてやると言い出した。
そして、用具準備室から出してあげる代わりに、自分のところに彼を連れてくるようにと言ったのだ。
具体的に何をどうするつもりなのかはいくら聞いてもニヤニヤするばかりで何も答えてくれないし、私にもプルナにも悪いようには絶対にしないから…と言うばかり。
埒が明かないと思った私は不安を覚えつつも彼女の言う通りにメイナード先輩を用具準備室へと連れてきた…の、だが…。
「いやー、ここまでうまく行くとは思わなかったわよね」
くるくるとその場で回って見せながら、ガラス棚に映る自分の姿を興味深そうな様子で見ているのは"メイナード先輩"…………の、姿をした"プルナ"である。
そう、プルナは、やって来たメイナード先輩に忍び寄ると彼の肉体に干渉し、無理やり彼の中へと入り込んでしまったのだ…!
ひとつの肉体にはひとつの魂が入っている…これは自然の摂理であり、人の体もそう出来ている…のだが、それを無理やりねじ曲げてしまえるくらいの力が、
ようするに霊体である彼女は、彼に"取り憑いて"しまい、その肉体の主導権までも奪ってしまったのだ…!
「今までは試す機会がなかったんだけど、ゲームでの攻略対象キャラだったら魔力も高いし、私と波長が合う相手ならいけるかな?って思ってたのよね~♪」
そんな風に楽しそうに話すプルナとは対照的に、彼女の話を聞いている私の表情はそれなりに複雑そうだったと思う。
だって、確かに私は先輩にストーカーされて困ってはいたけれど、結果的に私は彼に悪霊を取り憑かせてしまったと言うことになるのだから…!
ストーカーされた仕返しに悪霊取り憑かせるって!!なんだそれ!?あらためて言葉にすると突っ込みどころしかなくない?!
「ねぇ、プルナ…。念のため聞いておくけど、まさかメイナード先輩…死んじゃったりしてないよね???」
プルナが肉体に入ったせいでメイナード先輩の魂が押し出されて死んじゃった…なんてことになったらさすがに寝覚めが悪過ぎるよ…!
仮にも乙女ゲームのヒロインが、攻略対象を痴情の縺れで祟り殺すって斬新にもほどがあるわ!
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと生きてるって。今は私が彼の意識を押さえ付けて、肉体の主導権を奪ってる感じ!…あ、彼の意識は眠ってるみたいになってるはず」
生きてるなら良かった…とほっとするのもつかの間、私のせいで悪霊に取り憑かれたとなれば、彼は余計に私に付きまとうようになってしまうのでは?と嫌な予感がしてしまう。
だってそんなことになれば、その原因になった相手に何とかしろ!って言うのは当然だと思うし…。
そんな風に考えている私の表情を見て、何か言いたげに見えたのだろう。
メイナード先輩の顔をしたプルナは、まあまあ…と私を宥めるようにしながら、言葉を続ける。
「まあ、"彼"の意識が目覚めたら…、まずは私が"彼"の意識と話をして、彼にも私の野望の協力者になって貰うつもりなの。そうしたら、あなたにちょっかいを出してる暇はなくなるんじゃないかなって思うわ」
メイナード先輩の体に入ったプルナが、彼の顔で怪しく笑う。
それに、言うことを聞かないようならこうやって私が肉体の主導権を奪っちゃえば良いし?と悪びれずに肩を竦める。
「自分の体を返して欲しかったら協力しろって言ったら大抵の人はオッケーしてくれると思うしね?」
「そりゃあ、自分の体を人質に取られてたらそうするしかないもんね?!」
「ふふふー♪この身体があれば"彼"にも会いに行けるし、話だって出来るんだわ!楽しみ…!」
ご機嫌で満面の笑みを浮かべてちょっとくねくねしているメイナード先輩…中身はプルナ…。
ちょっと面白いような気持ち悪いようなその光景を眺めつつも、私は凄く責任を感じてしまう…!
クレッセントムーンを継承して、肉体を取り戻してくれって方も大概な話ではあるんだけども!
やっぱりプルナは悪霊だったんだ!と思わざるを得ない彼女の邪悪なしたたかさに私は思わず苦笑し、メイナード先輩に心の中でごめんなさいをしてしまった。
私は全くとんでもない女を目覚めさせてしまったようだ…。(正確には勝手に目覚めてたんだけど…)
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