第30話 甘く愛しい指先に酔わされて

 予想外の乱入者との邂逅と言うアクシデントは起こったものの、あの後、無事にマンドラゴラを持ち帰り先生へと提出。私とリリーは課題をクリアすることが出来た。

 …とは言え、私とヴィオリーチェの仲が良いことに興味を持ったメイナードが、何やら今後も私たちを…私を探ってくるような宣言もあった為、私の心は穏やかではなかった。

 私と彼女を繋いだ秘密としては当然”転生者”だってことがあって、……まぁ、これは正直バレたところで信じるかどうかもわからないラインではあるんだけど…。ここ魔法のある世界だからな…。あり得ないとは言えないとか思われる可能性もある…の、かな?…と言う感じ…。


 メイナードのことはヴィオリーチェにも警戒しておいて貰いたいことだったから、採取課題を終わらせ自由の身になった私は、早速ヴィオリーチェの元へと急いだ。

 ゲームでのヴィオリーチェだったら、メイナードにアプローチされても冷たくあしらうことが出来ただろうけど、今のヴィオリーチェは凄く優しいし、実は少し天然ぽい部分もあるからそこに付け込まれてしまう可能性もある…。(メイナードは女癖が悪い男なので…)

 まぁ…単純に私が、ヴィオリーチェに色目を使われるのも手を出されるのも、個人的にとってもとっても嫌!!!って言うのもあるんだけど!



「えぇ????採取課題で赴いた森にメイナードが…?」


 ヴィオリーチェは紅茶を飲む手を止めて、驚いたような声をあげた。私が森での一件を説明すると、ヴィオリーチェは神妙な顔で話を聞いてくれた。


「ゲームではこんなイベントなかったよねー!!…なんて台詞、もう聞き飽きたかも知れないけど、やっぱりびっくりしちゃうよね…」


「ええ、本当に…。それに、そんなに積極的に攻略対象の方から接触してくるようなことがあるとも思いませんでしたし…」


「うんうん…そうなんだよね…。なんか変な風に興味を持たれちゃったみたいで…」


「彼は勘の鋭いキャラですし、わたくし達が転生者であることを感づかれたら、そこから一体どんな風に動くか想像も出来ませんわね…」


「そうなんだよね…。頭がおかしいくらいに思ってくれたらそれでいいんだけど、下手したら余計に食いついてきそうな気もするし……」


 この世界がゲームの世界なのかゲームと同じ作りの異世界なのかはわからないけれど、私とヴィオリーチェ自身は転生者同士だからまだしも、それを知らないこの世界の人々が、ここがそう言う世界であることを知ったらどう思うのかも未知数だった。


「私たちからあっちに何か反応すると返って刺激しちゃいそうだし、放っておくのが良いのかなーとは思うんだけど…」


「……」


 正直、こう言う受け身な対応しか出来ない状態は、私にとってはちょっとやり難い気持ちになってしまう。自分からガンガン突っ込んで行けるならその方が私の気性に合っているのかも知れない。

 そんな風な感情が顔にも出ていたんだろうと思う。


「わぷっ…!?」


 口の中に急に甘い味が広がって、私はびっくりして変な声を上げてしまった。目の前には微笑むヴィオリーチェと彼女の華奢で美しい指先。


「………んむ」


 サクッとしたその甘さは解けて口の中に広がっていく。

 私の口に入られたのは甘いクッキーで、ヴィオリーチェの指先がそれを私の口の中に押し込んだようだった。


「ふえっ…!?」


 まさか彼女にそんなことをされるなんて想像もしていなかったので、私は一瞬で瞬間湯沸かし器みたいになってしまった!!

 顔が、熱い!!!


(あ、あの指先が私の唇に触れた!?)


「あわわわ」


「もう、アルカったら。難しい顔をし過ぎですわよ」


 私が動揺するのと対照的にヴィオリーチェは楽しそうな様子で微笑んでいる。


「わたくしとアルカがの仲が良いってことを怪しまれた…との事ですけれど、そのこと自体を知られたところで何も困ることはありませんもの」


「…ま、まぁ…確かに……」


「…転生者と言うことは勿論しっかり隠さなくちゃとは思いますけれど…、わたくしたち…今は、それだけで繋がっている訳じゃないって…そんな風に思うのは、わたくしの思い上がり…かしら…?」


「…!」


 やっぱり遊園地の件から、ヴィオリーチェ…私に対する態度、ちょっと変わってるよね!!!!?????

 恥じらうように微笑む彼女の笑顔の攻撃力が高過ぎて、私は立ったまま気絶するかと思った…。


「お、思い上がりなんかじゃ、ない…デス…」


 私が浮かれまくってこのまま昇天してしまうんじゃ?みたいな気持ちになりつつ、何とかそう答えると、ヴィオリーチェはまたとびっきりの笑顔で追い打ちをかけてくるものだから、私の頭の中からはメイナードのことなんか、もういつの間にかスポーンとどこかで飛んで行ってしまっていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る