第19話 青春はダブルデートと共に

「…という訳で、私とヴィオリーチェとダブルデートってでお出かけして欲しいので、ジャンくんとクラウス先輩に協力して欲しいなって」


「————……」


 私の突然の提案に、目の前に居るジャンくんは驚き半分&呆れ半分みたいな目で私を見ていた。最近…と言うか、ヴィオリーチェとのあの一件以降、何となくジャンくんの私を見る目が、手間のかかる弟妹とかそう言うのを見る感じになってる気がする。…まぁ、良いんだけど…!!


「…えーと…それはつまり、4人で出かけようってこと?」

「うん。それで出来れば途中で2:2に別れる状況をちょいちょい作って欲しい…」

「……アルカがヴィオリーチェと二人っきりになりたいってことでいいのか?」


 ジャンくんはもう私のことをヴィオリーチェの熱心なファンだと理解してしまってるらしい。ファンと言うのとはちょっと違うけど、まぁおおよそ正解だし、今はそう思って貰った方が好都合なので私は特に否定はせず話を進めてしまう。


「それは否定しない!」

「でもそれなら最初から普通に二人で出かければ良くない?」

「…それはそうなんだけど…ちょっと、こう……事情があって…」


 私の返事はちょっと歯切れ悪くなってしまう。

 …まぁ、でもそれはそうだろう。だって私としては実際ヴィオリーチェとお出かけしたいという自分の願望は当然あるんだけど、今回の一番の目的はヴィオリーチェを喜ばせることなのだ。

 つまり、私が提案したダブルデートの実質は、私がヴィオリーチェとのデートでwin!ヴィオリーチェは推し二人の仲良くする姿を特等席で眺められてwin!と言う算段なのだ…!!!

 つまりヴィオリーチェの秘密の推しカプであるジャンくんとクラウス先輩に一緒に来てもらわないと主目的が果たせない…!!!

 でもさすがに本人に、男同士でいちゃついてるところを見るのが目的です!!!!とは言えない。


「別に一緒に出掛けるとかは、俺は全然構わないんだけどさ。クラウス先輩はそう言うのどうなんだろうな…。人が多いところはあんまり好きじゃなさそうだし…」


 ウーンと考えこむような様子のジャンくん。確かに、クラウス先輩がダブルデートに誘われてホイホイついてくるようなタイプには見えないのは確かだ。


「そこはなんとかジャンくんの手腕で何とかうまいこと言いくるめてきて欲しい…」

「言い方!?」

「なんかふわっと良い感じに説得して、あと出来たら私とヴィオリーチェにあんまり辛辣なこと言わないように言い含めた上で連れてきて欲しい…………」

「そこまでして何でクラウス先輩に来て欲しいんだよ…」

「いやー……ほら、やっぱりこっちが女2人なのに男の子が一人だとジャンくんも肩身が狭いかなって思うし…」


 結果的にクラウス先輩(とジャンくん)にはヴィオリーチェとの仲直りを助けて貰ったという恩義を感じてはいたものの、クラウス先輩はこう…色々ストレート過ぎるところあるから、ちょっとばかり警戒してしまうのはあるんだよね…。まぁ、なんも間違ったことは言ってないからこそ怖いと言うか…。


「それじゃ、別にクラウス先輩じゃなくて別の男友達連れて行くのでもいいってことにならない?」

「いや、それは困る」

「困るのかよ」

「困る…」

「実はクラウス先輩のことが好きとか?」

「顔は嫌いじゃないね!!」

「んじゃ、実は俺が好きとか?」

「私の為に人権を捨ててくれるなら!!」

「何言ってんだお前」


 当然冗談ではあるが、私のそんな軽口にもジャンくんはツッコミを入れながら笑ってくれる。こういうノリで話が出来るから、私はジャンくんのことが好きだし、こうして頼ってしまうんだよなぁ…!(完全に同性の友達のノリなんだけど)

 さすがに私だって、本人たちの性的趣向を無視して「抱き合え…」なんて言えないし、そういうのはマナー違反であることはわかってる。

 ヴィオリーチェだってそうだからこそ、これまで遠くから眺めるだけで居たのだろう。だからあくまで…あくまで傍観者…友達…というポジションから、仲が良い二人の姿を眺めるに留める。そのボーダーラインを侵すつもりはない。

 ……でも「ぎゅっとハグして♡」くらいならファンサしてくれそうなんだよな、ジャンくん…という邪念が、多少思い浮かばなかったかと言えば嘘になる。……無論、ヴィオリーチェ(と私)の為に「何も聞かずに男同士で濃厚に抱き合って♡ちゅーして♡」なんてオーダーを飛ばすまでの狂気にはまだ私は染まれていないので(考えはするけど)、その邪念はパッパっとそのまま床に払い落とした。

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