第9話 ♡スイートお勉強タイム♡

 ヴィオリーチェの魔法の授業レッスンは、ビックリするぐらいにわかりやすかった。

 入学当初は、この世界において"子供でも使える"と言われる程度の初級魔法をいくつかしか使えなかった落ちこぼれの私でも、ここ一週間ほどで中級魔法が使えるようにまでなったのだ…!

 敵に当たると大爆発する火の弾を飛ばす攻撃魔法だったり、見えない手を作りだしてそれを第三の手として操ることが出来る便利魔法だったり…。動物と会話出来る魔法だったり…。


「設定では”落ちこぼれ”と言われていましたけれど、実際アルカは落ちこぼれでもなんでもありませんわよね」


 ヴィオリーチェは、しみじみとした調子で呟いた。彼女は教え方も丁寧で優しいが、その上、出来た時に凄く褒めてくれる!だからやる気もどんどん出てくるってわけだ…!


「ゲームでもしっかり育成したら能力値ちゃんと伸びるもんね。そのおかげで、私もスムーズに魔法のコツを掴めてるのかも知れないけど…。…あ、でもヴィオリーチェ!の教え方が良いのもあると思いますが!!」


「…もう、調子が良いんだから…。褒めても何もでませんわよ?」

 

 少し照れたようにそっぽを向きながらも、満更でもなさそうなヴィオリーチェを見るとちょっとニヨニヨしてしまう。


 お互い転生者であることを打ち明けてから、私たちは親近感もあったのかとても親しくなった(と思う)。

 人前ではさすがに様付で呼んではいるけれど、二人きりの時は私もつい呼び捨てで呼んでしまっているし、ヴィオリーチェの方も私のことをアルカと呼んでいる。

 私は彼女とのそんな距離感をくすぐったくて、悪くないものだと思っているのだけど…。最近もうちょっと進んだ望みを抱くようになってしまっていた。


(…ヴィオリーチェにお姉さまになって貰いたい……。お姉さまって呼びたいな…)


 原作ゲームのヴィオリーチェとは違うとは言っても、やっぱり彼女は凄く凄く素敵な女性だ。

 自分に厳しく、他人に優しく。真面目な努力家で、何事にも一生懸命で。それでいてたまに抜けてる部分があったりで可愛いかったり。

 顔のビジュアルはもともと好みだったこともあるのだが、今のヴィオリーチェに対しても \推せる!!!/ という強い感情が私の中に芽生えていたのだ。


「…ね、ヴィオリーチェ」

「どうかしましたの?」


 私は自分で思うよりも真剣な表情をしていたらしい。

少し身構えるような表情になってヴィオリーチェは聞き返してきた。

改まって聞かれるとちょっと言い難いな…と思いつつ、私は言葉を続ける。


「ヴィオリーチェのこと、お姉さまって呼んでもいい?」

「え?」


 彼女は頭の上にハテナマークを浮かべているような顔をした。


「だから、えっと お姉さまって…」

「ふふ。アルカったらおかしなことを言いますのね」


 急に笑いを零したヴィオリーチェに、今度は私の方がハテナマークを浮かべてしまう。ヴィオリーチェはそんな私を気にも留めない様子で言葉を続ける。


「私たちは確かに立場上では先輩後輩ではありますけれど、もう私と貴女の仲でしょう?仲間と言うか、戦友と言うか…そういうものだって思っていますの。…だから、そんな風に気を遣ったりすることありませんわよ」


 ヴィオリーチェがあまりにも優しく微笑むものだから、私までついつい笑顔を浮かべて「そっか!」と頷いてしまった。


 その後、個人授業レッスンの時間を終えて寮に戻り、自室のベッドに横になってごろごろとその場面を思い返しつつずっとハテナマークを浮かべ続けていた私。


 彼女の中で"お姉さま"って言うのは、気を付かった敬称だったってこと…???

 …って言うか、私もしかしてフラれた!!???????????


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