第10話:俺たちの悪徳は多分きっとこれから

 そして、はい。

 5日が過ぎました。


 俺はフォルネシアと共に村の外にいた。

 近くの街につながる山道を2人で歩いていた。

 穏やかな日だよな。

 日差しは暖かく、風は肌に心地よい。

 なのに……ぬわー。

 俺はどうにもこうにも。

 胸中に穏やかさは欠片も無く、爽やかさとも一切無縁だった。


「……ぐわぁ……ぬわぁ……あー……」


 俺はうめき声を止めることが出来なかった。

 足取り重いなぁ。

 辛いなぁ。

 苦しいなぁ。

 フォルネシアも俺と似たようなものだった。

 生気の無い瞳をして、ふらふらとしながら歩みを進めている。


 俺たちは何故こんな醜態をさらしているのか?

 そんなの、理由は1つしかなかった。


「……まただなぁ」


「……じゃのぉ」


「……儲けなぁ?」


「……じゃのぉ」


 つまり、そういうことだった。

 儲けね。

 無かったの。

 1エゼルの儲けも得られなかったの。


 まぁ、うん。

 俺たちは悪くなかった。

 俺たちに非なんて一片も無かった。


 ただ、リズね。

 村長の娘さんである彼女ね。

 めちゃくちゃ俺たちに懐いてきたんだよね。

 残党狩りの合間合間に、俺たちに手料理をご馳走してくれたりしたんだよね。

 

 村長を始めとして、村の連中もめちゃくちゃ優しかったよなぁ。

 山賊崩れ共のせいで、厳しい生活を強いられてきたのにさ。

 排除が終わってもなお、アイツらのもたらしてきた傷跡に苦しめられているのにさ。

 親身に俺たちをもてなしてくれて、それでアレだ。

 300万は法外だって1度も言わなくってさ。


 そして、気づけばである。

 村を後にした俺たちの手に、金貨の革袋はありませんでしたとさ。

 村長の家の応接間にでもあるんじゃないかね? 多分。


(こ、こんなはずでは……)


 俺は頭を抱える。

 本当、こんなはずでは無かったのだ。

 悪徳の末に、大金を手に入れてウッハウハのはずだったのだ。

 しかし、現実はコレだ。

 いつも通りにコレだ。

 手元には何1つ残ることは無かった。


「……向いてないのかなぁ」


 思わずそう漏らすことになった。

 だって、本当いつも通りだし。

 満足な儲けが得られたことなんて1度として無いし。

 悪徳勇者として、何か不足しているのではないか?

 そんなことを思わざるを得なかったのだが、


「……ヤナ」


 俺は隣を見つめることになる。

 そこにいるのは当然フォルネシアだ。

 彼女は優しい笑みをして、俺の肩を軽く叩いてきた。


「辛気臭い顔をするでないわ。我らこそ、真性なる悪徳勇者である。そこに疑いの余地などあるまい?」


「フォルネシア……でも、実際……」


「仕方なかろう? これは相手のあることじゃからな。相手が一枚上手だった……それだけのことだろうてな」


 俺はハッと目を見開くことになった。

 そ、そうか。

 確かにそうだ。

 フォルネシアの言う通り、相手があることなのだ。

 俺にどれだけ才能があったとしても、相手が上手うわてではそうそう上手くはいかないものだ。

 今回もそうに違いなかった。

 例えば、リズとかね。

 ちょっと具体的にどうだって言うのは難しいが、多分上手だったのだろう。きっと。

 

 ともあれ、あ、危なかったな。

 俺は額の冷や汗をぬぐうことになる。


「ふ、ふふふ。危うく廃業まで考えるところだった。ありがとな、フォルネシア」


「かまわぬが、あまり迂闊うかつは困るぞ。それではヤツらの思うツボだ」


 ヤツらって誰? リズ?

 そんな感想を抱かざるを得なかったが、まぁ、いっか。

 その点について言及したい気分じゃないし。


「よし!! 次いくか!!」


 俺が気勢きせいを上げると、フォルネシアは笑みで頷きを見せてくれた。


「その意気じゃ!! 次こそは我らが本領ほんりょうを見せつけてやろうぞ!!」


「あぁ。俺たちの悪徳勇者としての実力のほどをな!!」


 ということで、俺たちは山道をひた進む。

 次なる獲物を求めて。

 悪徳勇者として、悪逆あくぎゃくの限りを目指して──っ!!

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