その悪徳勇者、あっまあま過ぎて結局善行を積み上げてしまう。

はねまる

プロローグ:悪徳勇者のお仕事

第1話:恨まれて酒が美味い

 仕事終わりってのは、そりゃ気分が晴れやかになるものだった。

 ましてや、良い仕事が出来たのならば。

 に沿った仕事が出来たのであれば……なぁ?

 

「くくくく……」


 とある村の小さな酒場だ。

 そこに俺はいた。

 テーブルの1つに着き、夕日が差し込みつつある中で酒杯しゅはいをかたむけていた。


 まぁ、愉快だった。

 笑い声が抑えられないぐらいには愉快なんだが、その理由は目の前にある。

 テーブルの上には、つまみの干し肉と革袋が置かれている。

 重要なのは革袋の方だな。

 ただの革袋じゃなかった。

 両手では包みきれないほどに大きく、袋の口からは金色の輝きがのぞいている。


 まぁ、見ての通りである。

 まごうことなき金貨の詰まった革袋だ。


 その革袋に伸びる指があった。

 俺のじゃ無い。

 対面に座る彼女──フードを目深まぶかに被ったエルフのものだ。

 浅黒い肌をした、いわゆるところのダークエルフ。

 彼女はつややかな指で表面をひと撫でする。

 端正な顔立ちにニヤリと笑みを浮かべる。


「……くくくく。まったく、良い仕事だったのぉ?」


 その愉快げな問いかけに、俺は「まぁな」と笑顔で頷きだった。

 彼女の言う通りだった。

 実に良い仕事だったのであり、良い結果を得られたのであり……ふふふ。


 俺はニヤリと周囲をうかがう。

 まったく良い表情をしてるよな。

 客は俺たちばかりじゃなかった。

 10人ばかりの村の男たちが、それぞれの場所で酒杯をかたむけている。

 彼らの表情は見事なまでに一致していた。

 どの顔にも、侮蔑と怒りの表情が浮かんでいる。

 そして、その感情が向かう先は……当然、俺たちということになるだろうな。


(……ふふふ。ははは、はっはっはっ!!)


 俺は爽快な気分で酒杯にあるエールを飲み干す。

 対面の彼女もまた愉快げだった。

 ニヤニヤと、心底楽しそうな顔をしてぶどう酒を味わっている。


 そうである。

 これが俺たちの得られた成果だ。

 金貨の革袋と彼らの怒りの表情。


 俺──ヤナと、相棒であるダークエルフのフォルネシア。

 2人で得ることになった悪徳の成果だ。

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