君は天才画家〜君は誰よりも絵を愛し誰よりも綺麗な目をしている〜

柏陽シャル

画家と呪いの子

第1話 憧れとの出会い

 愛しても愛されることは無かった。


どれだけ望んでも願っても届かないのだと分かった。


自分には消えない傷が何個も刻まれているという事も…。


 第三皇子だいさんおうじでながら政治に参加させてもらう権利も与えられなかった自分に腹が立った。


その分努力不足だと何度も思ったでも、違った。


ある一つの絵に会ってから俺の人生に光が舞い降りた。

 その絵は俺にをかけてくれたのだ。




 「ロイ…お前さえ居なければ私達皇帝は民に崇められ神をも超える存在になれたのに!」

「グハッッ!」


俺の髪の毛を握り持ち上げ怒鳴りながら壁に打ち付けるのは皇后こうごうであり母上のレリアンだった。


壁に打ち付けられた瞬間口から赤いものが出たのが見えた目で追いかけ地面を見ると赤いもの、それは血だった。


母上は血を見て更に怒り狂い鞭を取り俺の背中を叩き続けた。


 反抗するという思考はいつの間にか消えていて、ただ従うだけの人形と何等なんら変わりない生活をしていた。


 日が経てば俺を殴る人は変わっていて父上や兄上など親戚の人も俺を人形のように殴っていった。


一時期はナイフを持ってきて刺そうとしている人もいたが第三皇子だからか途中でやめる人も出てきていた。


 ある日、母上が皇族皆こうぞくみなで美術館に行くと言い出した。皇族である以上俺も出なければならなかったそれ故に俺は怪我を隠すために長袖のシャツに長ズボンを履くことになった。


 始めてまともな服を着たからか落ち着かなかった。


馬車の中で外を見て日を浴びるなど何年ぶりだろうか、ましてや初めてと言ってもいいのでは無いだろうかというほど記憶が無かった。


馬車はとても速くて数分で美術館に着いた。


 馬車から降りて歩きながら美術館に向かい中に入るとそこには沢山の絵が飾ってあった。


人は居らず貸し切りのようだった。


絵は花を描いているものや果実を描いているものまたは皇族を描いているものも。


それらを見ても俺の目には入らなかった。


皇族の絵や花の絵は姉上や兄上、母上、父上が喜びながら見ていた。


豪華な花の絵は皇族を象徴しており皆はそんな絵を買おうとしていた。


 俺は一人でに美術館を歩き回り様々な絵画を見ていた。ふと目に入った絵画があった。


 それは落ち着いた色で描かれており、天使が枯れた花に梯子はしごをかけているものだった。


一瞬なぜ、梯子なのだろうと思っていたがそれが枯れた花にとってはで楽になれる方法なのだと考えた。


周りの豪華な絵画とは違い、この絵画だけ落ち着きのあるそして気になった作品だった。


 「ロイ様も好きなんですか?レナ様の作品」


後ろから声をかけられ振り返ると、俺の専属メイドリイナが居た。


リイナは唯一俺のことを人間として見てくれる存在だった。


 レナ…この絵画を描いた人の名前か。どうやらリイナはレナの作品を何度も買っており常連という名が付くくらいらしい。


 「…初めてみただけだけど。何となく惹かれるんだ。この作品に…」

「分かります分かります!私もレナ様の作品には幾度いくどと無く救われましたから…にしても何故周りの人はレナ様の作品を駄作と言うのでしょうかね」

「駄作?」

「はい、レナ様は目が不自由という事から周りの人からいちゃもんを付けられているんですよ」


目が不自由…そうとは思えないほど、彼女はを何個も作ってきた。


美術館には彼女の作品が複数個ありそれは全て色付きだった。


そして創りが細かいものもあり彼女が目が不自由とは思えない…根拠になっていた。


「にしても、欲しいんですか?レナ様の作品」

「欲しい…か。母上が許してくれるだろうか」

「きっと許してはくれないでしょうね…でも、安心して下さい!わたくし、リイナきちんとお金持ってきましたから!」

「買って…くれるのか?」

「はい!ロイ様は欲が無いですからね、そんなロイ様が欲しがるなんて珍しいですもの」




 リイナは母上が帰ると申したその後に遅れて馬車に乗った。


それは絵画を買うため、バレないようにリイナは俺の荷物と一緒に乗せた。


父上と母上は仕事があるため途中で降り、姉上と兄上は馬車で後宮こうきゅうまで運ばれた。


俺は離宮で隔離され静かに買った絵画を眺めていた。


 あの後リイナに聞いた話によるとこの近くにレナは住んでいるとの事。


それと同時に執事から俺は離宮から追い出されると聞いた、まぁあんだけ嫌悪感けんおかんを抱かれているなら当然だろう、普通なら皇子が追い出されるなんて大問題だ。


でもそれが呪い子であるなら別だ、呪い子は生贄か奴隷そんなものにしかならない。だからこそ反感はおろか問題は無い。


 リイナはどうなるのかと聞いたらリイナはそのまま離宮で生活するそうだ、生きるための金だけ渡され俺は離宮を追い出された。


追い出された俺は金を持って街を歩いていた。


一先ひとまずは宿を探さなくてはならない…な。


そう思っていると目の前で雨の中を走る少女に目をつけた。


絵画一枚分だろうか、そんな大きさの物を持ちながら走る少女。


ちらっと見えた中身はレナの作品だった、同志どうしがいたという喜びからか俺は自然と彼女を追いかけていた。


「す、すまない!」

「ん?」

「君は…その、レナ殿の作品が好きなのか?」

「うーん、そういう訳でもないね。自分の作品を好きという感情で表す事は無いよ」


そう言った少女は微笑んだ、自分の作品?そこが引っ掛かった。もしかして…


「君はレナ殿なのか?」

「そうだよ。私はレナ・アートラ、もしかして君は私の作品が好きな者なのかな」

「…何個か買っている」


俺は一度買った後、何度も彼女の作品を買った。


リイナの言う通り俺も彼女の作品に救われていた。


「ふふっ、そうかそうか。こんな所で話すのも何だ。私の家は近い、中に入って話そう」


彼女は目が不自由な筈なのに、まるで道が見えているように歩き出す。


俺が少し足を遅めれば彼女も足を遅め、速くすれば彼女も速くする…まるで視えているようだ。


 家に着くと彼女は椅子に腰掛け、魔法を使いお茶をいれた。


「んで、私から君に質問をしてもいいかい?」

「あぁ」

「君はなんで雨の中、傘もささずに歩いていたんだい?」

「家が無いから…」

「追い出されたという感じだね」

「分かるのか?」

「何となく、君から感じる匂いと言うか…まぁそんな感じだ」


レナは少し困ったような顔をしながらこちらをみた。


「なら、私の所で住まないか?盲目な私一人では過ごしづらくてね。君が良いならの話だが…どうかな?」


もし、この話が夢じゃないのなら俺は喜んで受けよう。


憧れと出会い憧れの家に住む、そんな幸福な事、あんな地獄では一度も味わえないだろうな。


「喜んで…。」

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