母のミートボール🟤

「もしもし、お母さん?」

「ああ、どうしたん。元気にしとる?」

「うん。元気だよ」

「ちゃんと食べとる? コンビニ弁当とか出来合いのもんばっか食べてたらあかんよ」

「大丈夫だって、ちゃんと自炊してるよ」

「ちゃんと?」

「ええと、ご飯は毎日炊いてます」

「……まあ、ええか。どうしたん?」

「お母さんの作るミートボールあったでしょ?」

「ミートボール?」

「甘酢あんがかかったやつ」

「ああ、あれな。それがどうしたん」

「作り方教えてほしくて」

「作り方? そんな大層なもんではないけど……、急にどうしたん?」

「……ちょっと、食べたくなったのよ」

「ふーん。でもネットとかでいっぱい作り方あるんと違うの?」

「あるけど、あのミートボールが良いのよ」

「そうなん?」

「そうなの。いいでしょ、教えてよ」

「まあいいけどね。ええとまず合い挽きを1kgでしょ」

「1kg?!」

「あんたらがよく食べるから、毎回そんくらい作ってたよ。で、あとは玉ねぎ2個くらいと青ネギと……」

「ちょっと待って、お母さん。分量は?」

「え? そんなの計ってないから知らんよ」


🟤🟤🟤🟤🟤🟤


 キッチンで玉ねぎを刻んでいると、バタバタと息子が帰ってきた。

「ただいま。今日の晩ごはん何?」

「ミートボール。ちゃんと手を洗ってきなさい」

「やった!」

 ドタドタと足音を響かせて、洗面台に向かう息子の背中を見て微笑ましくなる。

 そういえば、私も家に帰ってくるなり、今日のご飯を聞いてたな。こういうのは遺伝するんだ。でも、夫も帰るなり聞いてくるので私だけではなさそうだ。

 耐熱のボウルに牛と豚の合い挽き肉、玉ねぎ、青ネギ、パン粉、調味料を入れる。そういえば、このレシピは昔、母から教わったものだ。学生の頃に電話で聞いたけれど分量がわからなくて、後で手紙で送ってきた。流石に1kgではなく、500gのレシピだった。おそらく私に伝えるために、わざわざ計りながら作ったのだろう。

 今では、そのレシピに少しアレンジして、豆腐などを入れている。かさ増しとちょっとでもヘルシーになれば、と。

 なめらかに混ざったタネを一口大に丸めていく。やがてボウルの中にいっぱいになったミートボールにラップをかけてレンジに。

 手早く甘酢あんをこしらえた。砂糖と醤油、それに酢を加えて片栗でとろみをつける。

 このミートボールは夫や子ども達にも好評で月に一度は作っている。お弁当に残そうと思っても残らない盛況ぶりで、私の取り分は一つがせいぜい。

 今日も美味しいと食べてくれるだろう。それはとても嬉しいことだ。

 

 レンジで加熱される耐熱ボウルを見ながら、久しぶりに母が作ったミートボールを食べたいと思った。



2023年5月14日 母の日に

すべての母たちへ。ありがとうございます。

島本 葉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母へ 島本 葉 @shimapon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ