魔王に忠誠を誓うルーヴェンディウス様を説得させることができるでしょうか?
東大陸は『北高南低』と言われるように、北部は山がちで、南に下るほど標高が低くなり、南部一帯はいくつもの大河によって広大な平原が広がっている。
今、南部の海岸沿い、人の住まない荒れ果てた土地を白い影が疾走していた。
広大な平原の中にあって大きさが掴みにくいが、それは人間の身体と比較してあまりに巨大な白い狼だった。
フェンである。
フェンはその背に三人の女性――リリム、アマンダ、カマンダを乗せて草原をひた走る。
「フェン、あまり無茶をしないで下さい。そろそろ休憩を」
フェンの背に乗り、その白くて長い毛にしがみついているリリムが風の音に負けじと大声をあげた。
――だいじょうぶ。まだ走れます。
北部リヴィングストンを発ったフェンは、アガリアレプト領を出ると人気のない地域を慎重に選びながら東大陸の海岸線を反時計回りに走っていった。
白い狼の底なしの体力に支えられ、一行は快調に道を歩んでいた。
目指すはヴァンパイアロード・ルーヴェンディウスが暮らす居城、ブラッドフォード。
「ヴァンパイアロード・ルーヴェンディウスさまのもとへ向かいます」
リリムの宣言に、一同は驚きを隠さなかった。――ただ一人、フェンをのぞいて。
「ばんぱ……ろーど?」
頭の周囲に『?』を浮かべるフェンを見て、リリムは優しく微笑んだ。
「ヤックさん、フェンにもわかるように教えてあげてください」
「は、はい……!」
ヤックは手に持っていたファイルをめくり、説明し始めた。そのファイルは確か謁見者のリストが書いてあるだけのはずだが、こうすると落ち着くようだ。
「ルーヴェンディウス様は『ヴァンパイアロード』とも呼ばれています。その名の通り吸血鬼族の王であり、また最初の吸血鬼『始祖』であると言われるかのお方は――」
ルーヴェンディウスがいつこの世に生まれ落ちたのかは明らかになっていない。本人に聞いても答えてはくれないだろう。
しかし、数百の時を生きているのは確かである。
かの吸血鬼が歴史書に初めて現われるのは帝国が成立するよりも前の話であるからだ。
それもそのはずだ。帝国を興した『初代魔王』サタン一世を輩出したのがルーヴェンディウスが治める領地だったからだ。
その時東大陸――当時は西大陸は見つかっていなかったので、ただ大陸と呼ばれていただけだったが――を支配していた古代王国をサタン一世とともに滅ぼしたとも言われるルーヴェンディウスは、その功績によって大陸南東部の広い地域を与えられたという。
以降、代々の魔王に忠誠を誓い、『魔王の後見人』と言われている。
そのような歴史的経緯による権威に加え、帝国でも有数の軍事力を持ち、さらには年の功とでもいうべきおそるべき政治的手管を持つ『ヴァンパイアロード』と同盟を組むことができればこの戦争のパワーバランスを大きくこちら側に傾けさせることができるであろう。
「しかし……いくら正義は我らにあるとはいえ、魔王に忠誠を誓うルーヴェンディウス様を説得させることができるでしょうか?」
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