それがリリム様の指示だ
アガリアレプト領は帝国が支配する東大陸の中でも北部に位置する、山がちだが良質の鉱山を多数擁する土地として知られている。
中心都市であるリヴィングストンはその中でも北部海岸沿いに位置していた。平野や盆地に都市を建設するより、背後に海を構えていた方が防衛しやすいからである。
それは歴代領主の――そしてアガリアレプトの立場をよく表わしていた。
しかし今、リヴィングストンはその防御のしやすさを逆手に取られていた。
アガリアレプト領の重臣達が主の死を知らされるよりも前に展開したフラウロスの軍勢によって、三方を包囲されてしまったのである。
指導者を欠くリヴィングストンはこれに対して打って出ることはなく、籠城の構えを取った。
しかし、もともと食料生産の多くを外部に頼っていたアガリアレプト領では全体的に食料の備蓄は少なく、それはこのリヴィングストンも例外ではなかった。
そもそも、籠城戦とは外部からの援軍を期待できる状態で援軍の到着までの間持ちこたえるための戦術である。すべての皇子皇女が敵であり、さらに領主を失っているリヴィングストンに増援のあてはなく、このまま飢えるのを待つだけだと皆わかっていた。
それでも降伏するというのはあり得ない選択だった。
そのリヴィングストンに今、リリムの軍勢およそ四五〇がやってきた。対するフラウロスの軍勢は二万二千。
「オイ。オレ達、本当ニココニイテイイノカ?」
リヴィングストンの街から南東に少し離れた、地図にも書かれていないような狭い峠道に、長く列を作るようにリリムの軍勢は配置していた。その先頭に立つヴェーテルが隣に立つグロムに聞く。
「俺たちは合図があるまでここで待機。それがリリム様の指示だ」
「ウガ……オレ、待ツノ苦手……」
そうは言いつつも、岩に腰掛けておとなしく待つグロムだった。時折ちょっかいを出しに来るフェンをうるさそうにあしらっている。
およそ四五〇人にまで増えたリリムの軍勢は、半日前からこの場所に布陣して進軍のタイミングを見計らっている。行動を起こすのはこの日の真夜中。ここから見える岩山の頂上が満月を突き刺すタイミングだ。
そう。今この軍勢の中に最高司令官であるリリムはいなかった。
彼女だけが行動を別にしていたのだ。
リリムは今、リヴィングストンの北側にいた。
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