新たなる英雄の誕生なのかーっ!
「こ、これは跡形もなく溶けてしまったのではないでしょうか……」
焦る実況とは裏腹に、周囲のボルテージは上がる一方だ。観客たちはとにかくファイターが残虐な死に方をすればそれで満足なのだ。
と同時に、コロシアム全体を炙るかのように燃えていた超高温の炎が一瞬にしてかき消えた。
そこには、リリムが立っていた。
「こ、これはーっ! リリム、全くのノーダメージだ! 一体何が起こっているのか!」
リリムは自分がダメージを受けていないことを確認すると、
「いい感じです。〈魔王因子〉によって得られた魔法に対する知見から、受けた魔法に対して反対属性を自動的に生成することによって無効化させることに成功しました。これで耐魔法については完璧ですね」
そんな考察をしていると、自身の必殺の一撃を食らってなおも無傷だったという事実に対する衝撃から立ち直ったエルフが次の行動に移った。
「ならば、これでどうだ! ファイエル!」
エルフが今度は彼の頭くらいの大きさの火球を十数発連射してきた。
「その魔法は――というか、魔法はもうわたしには効きません!」
リリムは観客に見えるくらいに速度を調整しながらエルフに向けて走り出した。
飛んでくる火球はリリムが手で払うとまるで空気の抜けた風船のように萎んで消えていった。
「ば、バカな……!」
エルフは焦ってさらに火球を出してくるが、リリムに毛先ほどの傷を付けることもできない。
「おしまいです」
エルフの目の前までやってきたリリムはそうエルフの耳元で囁いたあと、エルフの背後にまわり(エルフにも観客にもリリムが消えたように見えたろう)、彼の首筋を軽く撫でた。
トン、という音とともにエルフの意識は刈り取られ、エルフはそのままコロシアムの土と抱擁を交わした。
一瞬の出来事にその場の誰もが何が起こったのか理解できず、コロシアム全体が静寂に包まれる。
「しょ、勝利――!! リリムがまたも一撃で勝利! これでデビュー戦以来六連勝です! 新たなる
実況が叫ぶと、観客たちは我に返ったのか、先ほど以上の熱狂でリリムを包み込んだ。
リリムは無表情のまま手を上げてそれに応える。
今日の戦いで力の使い方に関してはおおむね身につけたと言ってもいいだろう。そういう確信があった。あとは――
リリムはじっと無人の貴賓席を見た。
それから三日後、リリムにとって待ち望んだその時がやってきた。
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