第43話 責任の取り方
「桐山美羽がさらわれたって……、どういうことですか?」
体育館でぼんやりと仁内と生徒の戦いを見ていた杉村光にとって、仁内からの報告は身を震わせるほどの威力があった。
「桐山くんと相田くんを襲った強盗が手に入れたかったものは限定アイテムじゃなくて、あの子達のスマホだよ。君、ただの無能な転売屋だと判断して、彼女たちのスマホをチェックしなかったね?」
「う」
体育館の巨大スクリーンには、左手で電話をしつつ、右手でボールを操って生徒を倒していく仁内の姿が映し出されている。
「あの子らのスマホは第三者の手によってハッキングされていた。それぞれに複数の写真が抜き取られていたこともわかっている」
「うう」
やらかした。これはもうやばいくらいにやらかした。
さっきまでニコニコ顔でパスタ食ってた自分が憎らしい。
「コピーされた写真のすべてに、一人の女子高生の姿があった。わかるかな?」
「いちもんじまこ……」
「正解。君に10ポイント上げよう」
「……いりません」
さすがにここまで来ると杉村光もわかってくる。
「転売屋を雇ったのはマオーバの残党で、あいつらはあの日旅館で大暴れした黒ずくめの正体が一文字真子だと気付いたってことですか」
だろうねと、仁内は言った。
「自分たちが使っていた技術があの女子高生の体に惜しみなく埋め込まれていると奴らは気付いたはずだ。桐山美羽を誘拐し、一文字くんをおびき出し、そこで彼女の詳細なデータを手に入れることができれば、これは我々にとって問題になるよ」
「うううう」
マオーバで一番たちが悪かったマッドサイエンティストは今だ逃亡中で、所在もつかめない。シルヴィだけでなく世界中がこの男を捕らえたいと思っている。
そんなときに奴の手に一文字真子の情報が流れたら、誰もが不可能だと思っていたマオーバ復活が現実味を帯びてくる。
「ただの転売屋だと判断して、罠にはまったのは私です。責任は取ります」
「もう少し小さい事件ならそれで良いけど、今回は失敗が許されない。既に大神を向かわせてる。君も合流しなさい」
「わかりました」
「ついでに一文字くんも現場に向かったから、彼女と一緒に頑張ってくれ」
その言葉に杉村は嫌悪感をあらわにした。
「……行かせたんですか」
敵の目的が一文字真子なら、彼女を行かせるのはリスクが高い行為だ。
それにまだ気に食わないことがある。
そもそものきっかけが自分のアホさからなのは認めるが、彼女たちのスマホがハッキングされているとわかった時点で、相田と桐山はしばらく学校に来させるべきではなかった。
仁内も大神も、多分風間さんも、マオーバが暗躍していると知っていたのに泳がせたのだ。
桐山が危険な目に遭うとわかっていた上で、そうしたのだ。
一人のプロとして、本業にカタギの人間を関わらせたくない杉村にとっては気に入らないやり方ではある。
彼女の苛立ちを仁内も感じているだろうが、彼は悪びれることもない。
「君ねえ。自分たちだけで世の中綺麗にしようなんて考え方は逆にごう慢だよ。いい国も、いい街も、いい学校も、みんなで作ってくもんさ」
「……わかりました」
杉村はサバサバした表情で体育館を出て行った。
杉村に指示を出した仁内は電話を切り、もう一度地図を表示させる。
制限時間まであと10分。
残っている生徒は六人に絞られていた。
その一人に本郷琉生がいる。
「おやおや、一人になった途端にダメダメになっちゃって……」
あっちふらふら、こっちふらふら。
頼りない動き、垣間見える疲労。
これはもう相手にならないなと、残りの五人を調べてみる。
さすがに最後まで残った生徒は優秀だ。
学力上位であったり、運動神経がいい生徒はやはり最後まで居残っている。
そして彼らは今いる場所から動こうとしない。
「ここまで来るとさすがに動いてこないか」
本郷琉生を除けば、後の五人は無理して屋上に行こうとは思っていないようだ。
そりゃそうである。
一兆ポイント手に入れて、クラス替え選手権に勝ち、クラスの人員を自由に決めることにそもそも関心がなければ、時間まで逃げ切って豪華なカタログギフトを手に入れるほうがよほど良い。
「風ちゃん、シルヴィが使ってるカタログギフトってだいたいいくらだっけ」
「一万円から十万円分くらいまで、いろいろあるけど?」
「残った生徒には一万円のカタログで良いよね」
「あ。ごめん、十万円分のやつ用意しちゃった。それでやって」
ぶちっと通信が切れた。
「今いる生徒が逃げ切ったら最高で60万自腹か……」
おまけに予想以上に参加者が多く、彼らの分の文具券5500円分もそれぞれ用意しなくてはならない。
自費で。
「みんな勝負は終わってないぞ! 私は一人の生還者も許さん。皆殺しだ!」
突然現実に襲われ、仁内は一気に本気モードになった。
クラス替え選手権最終日、最高の盛り上がりを見せようとしている。
一方、黒魔子は走っている。
桐山美羽を乗せた車目指して。
全速力ではない。
本気を出すと人の限界を超えてしまい目立ってしまうので、彼女からすれば、ノロノロ走っていた。
「ヤッホー、一文字さん」
スクーターにまたがった杉村光が一文字真子の真横に貼りつく。
「……何のよう?」
杉村の方を見ず、せっせと走り続ける黒魔子。
「わかってるんでしょ? 私もあの子を助けたいの」
足下に置いていたヘルメットを放り投げ、見事、黒魔子の小さい頭に乗せた。
「……」
走るのを止め、じっと杉村光を見つめる黒魔子。
「手伝って。お願い」
その声に必死さが隠されているのを感じ取った黒魔子はすぐさまスクーターに近づいていった。
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