第19話 あやめんを探せ!
風間あやめはシルヴィの中でただひとり、普通の人間である!
超能力もなければ、何かの薬を飲んで最強になったわけでもないし、どっかの組織に改造されたわけでもなく、遠くの星の超人と一体化してるわけでもない!
にもかかわらず、彼女はシルヴィで最強といわれる存在だ。
答えは簡単。
シルヴィの二大巨頭として知られる稲葉フレンと仁内大介に、唯一意見が言えて、しかもそれが通るから。
むしろシルヴィは何をするにも風間あやめの許可がなければ物事が動かないとすら言われていた。
シルヴィが巨大IT企業と肩を並べるほどの存在になっても世界から「正義の味方」として親近感を持たれているのは、風間あやめの良心が上から下まで浸透しているからだという者もいる。
とまあ、彼女の存在の大きさは全世界に知られているが、当の本人は一人のアラサー女性として、素敵な大人になろうと日々頑張っているだけの、素朴で清楚な人物なのだった。
「生徒の皆さん、こんにちは~。シルヴィの風間あやめです! 今日の授業はどうだったかな? 眠くなかったかな?」
自撮り棒片手に生徒たちに手を振る風間。
「今日はみんなの地元をぶらぶらしてまーす」
との言葉通り、存在は知ってるけど地元民は足を運ばない観光客目当ての喫茶店で紅茶を飲み、チーズケーキを食べ、うわー、噛む必要ない、溶けてく~としか言わない食レポが延々と続く。
YouTubeで山ほどある、何の特徴もない、倍速で見る価値もなさそうな観光動画を延々見せられる生徒たち。
「俺たち、何やってんだろう」
誰かがとうとう呟いた。
家に帰らず、部活も塾も後回しにして、どうでもよさげな動画を見続けることに価値なんかあるのか。
生徒たちの人生において最も無駄な十分が流れたのち、
「さあてここで問題です。今、私はどこにいるでしょう! 私がいる場所に会いに来てくれた人には順番でポイントをあげまーす!」
この言葉で生徒の集中力が一気に増す。
「そんなことする暇ないよって人は、3分後に今日の授業の内容を元にした問題がアプリに表示されるからそれを解いても構わないよ~」
じゃあ待ってるね~と動画が終わると、一気に調査が始まる。
しかし、この動画、一度再生するともう見られない仕様になっていた。
「だめだ! 全然見てなかった!」
「スクショした奴いる?」
「見ろ! ここだここ!」
偶然スクショしていた生徒のもとに皆が駆け寄るが、その生徒が機械に強かったおかげで、その画像はクラス全員に瞬く間に共有された。
「どこだ……?」
皆、首をかしげる。
大きくて正方形な窓から見えるのは美しい富士山。
清潔感のある建物。
これだけではわからない。
あーだこーだ不毛な推理が繰り広げられる中、琉生はそっと真子の肩を叩いた。
「行こう」
「わかったの?」
小声で聞いてくる彼女に小さく頷き、静かに教室を出る。
この問題、琉生にはあまりにも簡単だった。
「県立美術館だよ。特別展と常設展の間にある、富士山がよく見えるって触れ込みのおっきな窓がある場所」
年パスを持っている琉生は足繁く美術館に足を運んでいたから、見間違いようがない。しょっちゅう目の前を通っている。
「さすがだね、琉生くん」
ここぞとばかりに密着してくるが、
「凄いというか……」
琉生は戸惑っている。
ピンポイントで狙われた気がしてならない。
まるでこっちに来いとおびき出されているようだ。
それに懸念点がもうひとつあった。
「月曜日だから美術館、休みなんだけど……」
とはいえ、行ってみる価値はある。
本心ではつきあいきれないと思いつつ、ここまで来たら一番乗りしたいという欲も湧いてくる。
ここで高得点をゲットすれば、真子さんもさらに優位になるだろうし。
自分らが正解に気付いたと思われると嫌なのでこっそり歩くが、ここでは真子さんの能力が大いに役立った。
視力聴力ともに段違いだから、気配と足音を敏感に感じ取って、誰にも見つからず目的地までスイスイ。
あれよあれよと美術館にたどりつくことができたが……。
「やっぱり休みだよね」
正面玄関は鍵が閉まっていて開かず、これ以上奥に進めそうにない。
「私に任せて」
いきなり助走をとり屈伸する真子さんに琉生は慌てた。
「壊しちゃダメだよ!」
「でも……」
その時、後ろから声がかかった。
「ありゃま、先客がいたよ……」
「そりゃいるでしょ」
男子と女子、一人ずつ。
名前は知らないが、胸元のネームプレートの色を見る限り同学年で間違いない。
「おっ」
琉生は思わず笑顔になり、玄関を蹴破るタイミングを逸した黒魔子は残念そうに琉生の背後に移動した。
「やっぱりここだよね」
間違いないよねとふたりに確認する琉生。
「おお。一目でわかったぞ」
「ってか、他はなんでわかんないかな」
小柄で、だらしない制服の着方をしたやんちゃそうな男子と、腕組みしたまま他の生徒の無知を嘆く気の強そうなメガネの女の子。
彼らに会えたことを琉生は喜んでいる。
追いつかれたことなんかどうでも良い。
同じ趣味を持つ同年代の子と接触できたことがこの上なく嬉しいのだ。
男子の名前は
女子の名前は
琉生と黒魔子にとってかけがえのない友人となる二人との、最初の出会いであった。
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