シルヴィは正義の味方である!
第17話 仁内、あばれる
校門に、見たことがない教師と係員が集まっていた。
「体育館に集合してください!」
「全校朝礼をします。教室ではなく体育館に向かってください!」
学校を支配していた教師たちの姿がない。
一人も見当たらない。
シルヴィが学校を買収したことで橋呉は私立になったから、私立の教員資格を持ってない教師はこの学校にいられないということだろうか。
詳しいことはわからないが、琉生が苦手にしていた、というより嫌っていた、威圧的で、常に上から目線の教師らがいなくなったのは、喜ばしいことというか、幸運に思って良いかもしれない。
そして体育館にはあの仁内がいた。
「やあみんな、よく来たね~!」
壇上から両手を振って生徒たちを迎える。
雑誌の表紙になるほどの著名人が目の前にいるので、興奮を隠せない生徒もいた。
特に仁内は顔が良く、背が高く、足が体の半分くらいあるほどスタイルが抜群なので、キャーキャー騒ぐ女子も増えてきた。
たしかに、上下白のスーツをこんなにかっこよく着こなす日本人はいない。
「あ~、並ばないで良い。適当な場所に、適当に座って。寝ても良いし、踊ってもいい、逆立ちしても良いぞ」
ややウケ狙いのマイクパフォーマンスで戸惑う生徒たちをほぐし、騒ぎがちな朝礼を自分の支配下に置く。
シルヴィが学校を我が物にしたことはもう真子も知っており、疑うような眼差しを仁内にぶつけていた。
「本当に私が狙いなの?」
「それくらいはするって桜帆ちゃんも言ってたし、あの杉村って子もきっとそうだよ。こちらが嫌がることして何かを探ってるんだ」
そのために転校までしてきた杉村光も、仁内ほどではないが有名人だ。
さっそく大勢の生徒に囲まれ、サインをねだられたり、写真を一緒に撮るようせがまれており、すべての要求に満面の笑顔で応えていた。
時々、こちらを見て不敵に笑ってくるときもあり、その度に真子さんはそわそわしたり、イライラしたりと、琉生を焦らせた。
「さて、みんな。既に承知のことと思うが、今日からこの学校の経営権は山梨県から我々シルヴィに移った」
やっぱりそうなのかと、息を飲む生徒たち。
「もともと学校を作りたくて前から準備してたんだけど、なかなか実現が難しくて困ってたところに、タイミングが上手く噛みあって山梨県のお偉いさんといい話し合いができた。つまり何が言いたいかというとね。私らは真剣だってことなんだね」
そして仁内は片手を高く掲げる。
「今日から校長はこの私、仁内大介がするから、早速、校長になったら言おうと思っていたことをガチで叫ばせてもらおう」
すうっと息を吸い、皆の視線を集めて、
「今から君たちには殺し合いをして貰う!」
渾身のジョークをぶつけてみたが、これ以上ないくらい冷たい空気になった。
「……やっぱり私が言うと冗談だと思ってくれないね」
捨てられた子犬のような顔をする仁内と、凍り付く生徒たち。
各地の紛争地帯に力攻めで介入しては強引に物事を解決するシルヴィのやり方には疑問を覚える者も少なからずいた。
まさか自分らも兵隊にされるんじゃないか。
そう脅える生徒がいても無理はなく、この沈黙は彼らの不安そのものだった。
しかし仁内は穏やかに語りかける。
「これだけは言っておく。我々は君たちの邪魔をするつもりはない。元々の志望校、志望職種、それぞれの目標、ゆめ、ドリーム、パッション、焦燥、うらみ、つらみ、衝動、ラブ、ドリームはさっきも言ったな、とにかくなにもかも、今まで通りに育てていけば良い。その上で私は君たちに約束しよう」
笑顔に満ちていた仁内の顔が、一瞬、息を飲むほど精悍になる。
「卒業したとき、ああ楽しかったと言わせてみせる。ただの一人も欠けることなく。必ずだ。それは誓う」
そしてすぐおちゃらけモードに戻った。
「勉強したいから早く自由にしろって子もいるだろうから、朝礼はここまでにしておこう。ただ、せっかく縁が生まれたわけだし、これから三日間、放課後の時間に遊んでみないかな? 私らが出すお題をクリアしたら、なんでも欲しいものあげるとか」
おお……。
まじで……?。
ざわつきはじめる生徒たち。
「何か欲しいものないかな、言ってごらん。ほら、そこのヒゲの子」
ヒゲの子。
この学校にヒゲ生やしてる生徒はいなかった気がするので、生徒の顔があっちこっち動く。
「そんなにすぐ思い浮かばないか。じゃあ右の方にいるヒゲの子。君はどう?」
別のヒゲの子。
ふたりもいないだろ。
いるのか? 皆、きょろきょろきょろきょろ忙しい。
「なんだよ照れちゃって。じゃあそこから右に三人行って、上に五人行って、そっから右に十五人行って、そこから下のヒゲの子。君はなんかある? え、なんだって? もっと大きな声で言ってくれ。ん、クラス替え? クラス替えをしたい? よしわかった! クラス替え実行委員を決めろってことだな!」
しょうもない茶番が終わって、凄い決定が下された。
「では決まった。今のクラスは三日後に解体する。新しいクラスの人員を決めるのは君たちだ。放課後、私達から課題を出そう。そいつをクリアすればポイントが付く。三日後、学年ごとの上位四人に、誰を自分のクラスに入れるか決定してもらおうじゃないか」
「おおおお?」
「マジで?!」
喜ぶ生徒もいれば、
「なんだかなあ」
「放課後まで学校にいたくないよ……」
こんなんありかと逆に冷める生徒もいる。
「こんなことを勝ち負けで競うなんて……」
黒魔子は否定的だ。
怒りすら覚えているように思える。
「良くないと思う。私は認められない」
琉生も同じだ。
「生徒が決めることじゃないよね。誰がどうやったって絶対揉めるのに」
しかし仁内は高らかに宣言する。
「言っとくけど制限はないぞ! 何人選んでもいい! 自分以外みんな女の子にしてもいいし、その逆も構わない! ぼっちがいいなら一人だけでもいい。そういう子は私も大好きだ!」
「おおおお!?」
何でもありならこれは凄いことになるぞと盛り上がる生徒たち。
「無茶苦茶だよ……」
琉生は呆れるばかりだ。
もうこんな所から出て、教室に戻りたい。
なんなら今日は疲れているから早退したいとまで考えている。
だから、黒魔子の様子が変わったことに気付かなかったらしい。
「何人でもいい……?」
思わず声に出す黒魔子。
ぼっちでもいいというなら、ふたりでもいいということ。
自分と琉生くん以外、誰もいないクラス。
見つめ合い放題。
触りたい放題。
一緒に教科書を読み、一緒に問題を読み、ここがわからないんだと聞かれたら、私が教えてあげて、凄いなあと言われて、じゃあ褒めて触ってって言って、え? こんな所じゃ恥ずかしいよと照れる相手に、大丈夫、二人以外誰もいないんだよ……、あそうか、じゃあ……(以下、自主規制)
想像したらニヤニヤしてきたらしく、口元を抑えて見られないようにする。
「こ、校長待ってください!」
真面目な上級生の女子が勇気を振り絞って声を出す。
「お、勇敢な君にはさっそく50ポイントあげよう」
どこからかピンポンと音が鳴った。
「そ、そんなことより、選ばれなかった生徒はどうなるんです? 退学ですか?」
おいおい、冗談言っちゃ困るぜ~、と、海外のコメディアンのようなオーバーリアクションを見せる校長。
「遊びでそこまでしたら可哀相じゃないか、だろ?」
とりあえず皆を安心させる。
「一学年につきクラスは五つ。その内の四つがスカウト制で、残りの一つはスカウトに選ばれなかった生徒が自動的に入ることになる。だから五組になったということは誰からも選ばれなかったはぐれ者なわけで……、そう考えると結構きついもんがあるなあ」
ようやくその事実にたどりついた校長は一瞬考え込んだが、
「よし、五組に入っちゃった子には全員、アマゾンギフトカードを五万円分あげよう! 一万円じゃなくて五万円ってところが生々しくて良いだろ!」
「おおおおお!」
もはや体育館はお祭り状態。
仁内、仁内と新しい校長をたたえる声がしばらく鳴り止まなかったという。
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