歪んだ縁の先 4人用台本

ちぃねぇ

第1話 歪んだ縁の先

【登場人物】

宮原沙織:腹黒ぶりっ子女。

星川鈴:引っ込み思案な女。

渡辺良哉:何も考えてないばか。

大原聡:真面目な男。




0:合コンにて。


良哉:沙織ちゃんほんと可愛いねー

沙織:やだもー良哉くんってば!…はい、サラダ取り分けたよ

良哉:おーありがとう!

沙織:聡くんも、はいどーぞ

聡:ああ、ありがとう

沙織:あーすずちゃんごめん、サラダほとんどなくなっちゃった。沙織のと交換する?

鈴:…ううん、大丈夫…沙織食べなよ

沙織:ありがとー!すずちゃん優しいっ

鈴:はは…

鈴(M):はなから交換する気なんてないくせに…レタス数枚と…あ、カケラトマト。笑うわぁ…

聡:…俺の、少し持ってく?まだ箸つけてないから

鈴:あ、大丈夫です。ありがとうございます

鈴(M):あー…大原さん優しいな…けどやめてほしい…後で沙織にねちねち言われるんだよなぁ…

沙織:二人は休みの日、何してるのー?

良哉:俺ら?俺らはキャンプが趣味なの。なー?

聡:うん、二人でよく釣りしたりテント張ってアウトドアしてるんだ

沙織:やん素敵っ!沙織も一緒に行きたいなぁ

良哉:ほんと?じゃあ来週良かったら一緒に行かない?ちょうど来週もキャンプ行こうぜって話してたとこだし。…だよな、聡!

聡:ああ、うん。宮原さんと…星川さんさえよければ

鈴:え

鈴(M):私も?やだなぁ…今日の合コンですら沙織に騙されて連れて来られたのに、キャンプなんて…

沙織:いいねいいね!行こう、4人で!ね、すずちゃん!

鈴(M):あ…すんごい目してる…これ断ったら後々めんどくさいやつだ…

鈴:うん…わーい…楽しみだなぁ


0:翌日。


沙織:昨日の合コン、当たりだったわ!

鈴:え

沙織:どっちも医大生!顔もそこそこ整ってるし…これは週末のキャンプで女子力見せつけなきゃ!

鈴:あー…そう

沙織:あ、あんたは余計なことしないでよ?すずは今まで通り、私の引き立て役してくれればそれでいいんだから

鈴:うん、わかってる…

沙織:ふふっ。なーに来てこうかなぁ?

鈴(M):小学校からの腐れ縁。高校は違ったからそのままフェードアウトできると思ったのに…大学でまさかの再会

鈴(M):拒否るのも面倒だし、こちらもこちらで人脈の広い沙織を利用してる側面はある。ある、けど…疲れる…もうホント疲れる

鈴(M):ナチュラルに下に見てくるあの態度…ああ…キャンプ、行きたくないなぁ…雨降らないかなぁ…


0:日曜日。


良哉:いやぁ~キャンプ日和の快晴だな!

沙織:ふふふ。私てるてる坊主作って吊るしておいたのよ~

良哉:天気予報じゃ怪しかったからなぁ~沙織ちゃんのおかげだな!

沙織:えへへっ

鈴(M):私の逆さてるてる坊主は負けたか…まあ沙織の怨念に勝てるわけないか…

聡:今日、どうする?いつものポイントで釣る?

良哉:そうだな、あそこよく掛かるし

沙織:沙織、釣り初めてだからとっても楽しみ~

良哉:俺が教えてあげるよ

沙織:きゃー嬉しいっ!

聡:…黒瀬さんは釣り、初めて?

鈴:あー…何度かやったことあります

聡:…そう

沙織:すずちゃんはそういうの得意そうだよね!沙織、初めてだから…聡くんも教えてね!

聡:ああ、うん

鈴(M):沙織ってホント…みんなにちやほやされないと気が済まないのよね…はぁ…


0:釣り場にて。


良哉:んでー針にこのエサ引っかけてー…

沙織:ええ?この玉みたいなの付けるの?ねちゃねちゃしてて、沙織触りたくなーい

良哉:ええ?一応初心者用のエサ選んできたんだけどなあ

沙織:ルアーとか無いの?

良哉:あるけど、ここらじゃ使えないよ。魚自体小さいのばっかだし

沙織:ええ?じゃあ良哉くんつけてよ!それで沙織にちょーだい?

良哉:仕方ないなぁ~

聡:星川さんはエサ、つけられる?

鈴:あ、はい。練り餌(ねりえ)なんですね。扱いやすくて助かります

聡:初めてじゃないって言ってたけど、こういうところよく来るの?

鈴:昔よく父に連れられて来てたんです。腰痛めてからは釣り、やらなくなっちゃいましたけど

聡:そっか

良哉:そっち付け終えた?

聡:うん。…あ、浮きある?

良哉:ちょい待ち、確かこっちのボックスに…

沙織:(ボソッと)ちょっとすず

鈴:なに

沙織:あんた聡くん狙いなの?

鈴:は?

沙織:やめてよねーあんたみたいなトロ女、医大生狙うとかバッカじゃないの

鈴:そんなつもりないよ

沙織:だったら大人しくしといてよね

鈴:…沙織、2頭追う者は1頭も得ずって言葉知らない?

沙織:はっ!アタシくらい可愛かったら2頭どころか100頭くらい同時に狙えんのよ!

鈴:…そう

沙織:いいからあんたは余計なことしないで!

鈴(M):じゃあ連れて来ないでよ…


0:1時間後。


良哉:結構大量じゃん?

聡:だね

沙織:えへへ~沙織頑張っちゃいました!

鈴(M):よく言うよ…掛かった竿ばっか持ってって…

良哉:こんだけあったら…焼き魚と刺身両方行けるな

沙織:わ~沙織お刺身大好きっ。良哉くんさばける?

良哉:おう!

沙織:すごーい!見てていい?

良哉:もちろん!

鈴:あ、私ちょっとトイレ

聡:場所分かる?

鈴:はい、来るとき見かけたので

聡:気を付けて

鈴(M):ついでに枝拾ってこようかな…焼き魚するなら要るよね…


0:20分後。


鈴(M):ふぅ。…こんなものかな?

聡:…星川さん?

鈴:あれ、大原さん

聡:よかった、ちょっと帰りが遅かったから迷ってるのかなって探しに来て

鈴:あ、ごめんなさい

聡:それ枝?もしかして、集めてくれてたの?

鈴:あー…焼き魚やるって言ってたから

聡:ありがとう。俺もそろそろ拾わなきゃって思ってたところなんだ。でも、みんなで手分けしたら早いのに

鈴:あー…沙織、魚さばくの見たいって言ってたから…

鈴(M):一昨日ネイルしたばっかとか言ってたし…枝拾いなんて沙織絶対嫌がりそう。一人の方が早いし気楽だわ

聡:……星川さんと宮原さんって仲いいの?

鈴:え?

聡:ああ、ごめん…タイプが違うから、なんで一緒にいるのか不思議で

鈴:…そう…ですね

聡:…薪、持つよ

鈴:あ…ありがとうございます。ああそれと…それ、拾ったの大原さんってことにしてもらえませんか?

聡:え?

鈴:お願いします

聡:…分かった


0:合流。


沙織:あーすずちゃん!どこ行ってたのー?全然戻ってこないから心配したんだよー?

鈴(M):正確には大原さんをどこにやってたって聞きたいんだろうなぁ…

鈴:ごめんごめん、ちょっと道に迷っちゃって

沙織:も~すずちゃんはほーんとドジなんだからぁ

良哉:お、細枝じゃん。なに聡、拾ってきてくれたの?

聡:ああ…うん

沙織:やーん、聡くん優しー!

良哉:燃えやすそうなやつばっかり…流石だな

聡:はは…

良哉:こっちも魚さばけてんぞ

沙織:良哉くんすごい手際よかったんだよ~!

良哉:まーな!

鈴(M):これだけの刺身ができたってことは…

鈴:あの

良哉:ん?

鈴:頭とか尻尾ってどうしました?もう捨てちゃいました?

良哉:いや?まだそこに残ってるけど

沙織:ええ~?すずちゃんもしかして食べる気なの~?魚沢山あるのに変なの~

鈴:……

良哉:それより、早く火ぃ起こしちまおうぜ

聡:そうだね、魚焼こうか

沙織:沙織、マシュマロも焼きたーい♪

良哉:え、流石に買ってきてないよ?

沙織:じゃじゃーん!こんなこともあろうかと持ってきました!

良哉:おお!女子力っ

沙織:えへへっ


0:キッチンに残る鈴に気づく聡。


聡:星川さん、どうかした?

鈴:…魚の頭、捨てるのもったいないなって

聡:え?

鈴:あの…塩とお酒とお鍋、借りられますか?

聡:構わないけど…何するの?

鈴:もったいないので、あら汁を作ろうかと

聡:あら汁

鈴:父がよく作ってくれたんです。意外と簡単なんですよ

聡:へぇ

鈴:あ…そうだ。あら汁作り、手伝ってもらえませんか?…というか、大原さんが作ったってことにしてもらえませんか?

聡:ええ?…また?

鈴:はい

聡:いいけど…どうして

鈴:お願いします

聡:……わかった。いいよ、手柄頂戴

鈴:はいっ!じゃあまず、頭と尻尾に塩を振って…


0:二人の様子を見ていた沙織。


沙織:(ボソッと)…でしゃばんじゃねーよ地味女


0:1時間後。


良哉:いや~食った食った!聡のあら汁もめちゃめちゃ旨かったなー!お前、いつもはあんなの作らねぇじゃん。なーに?女の子たちにサービスかよ

聡:あはは…まぁ、そんなとこ

沙織:良哉くんも聡くんもお料理上手なんだね!

聡:…宮原さんは普段料理とかするの?

沙織:するよ~今度食べに来るー?…なんちゃって

良哉:あー!聡ばっかりずりぃぞ。沙織ちゃん、俺も食べに行っていい?

沙織:もっちろん!歓迎するよ!

鈴(M):…これは…近いうちに呼び出されるパターンかなぁ…作り置き渡すのは構わないけど…いちいちケチ付けてくるからあんまり作りたくないんだよなぁ

良哉:すずちゃんは?普段料理する?

鈴:あ、私は

沙織:すずちゃんは全然ダメ!食べる専門だもん。…だよね?

鈴:あー…うん、そうなんです…

良哉:ええ?じゃあ沙織ちゃんに教えてもらわなきゃだな!

鈴:あはは…ほんとに…そうですね…

良哉:んじゃそろそろ、片付けるか

沙織:えへへ~片付けたらいよいよ、本日のメインイベントだね!

鈴:え?何かするの?

良哉:え?

沙織:やーだ、すずちゃん何言ってるの?食べ終わったら川遊びって言ったでしょ?沙織、今日の為に水着新調したんだよ?

鈴:え?

沙織:やだもー忘れちゃったのー?水着持ってきてって言ったじゃない!…もしかして、持って来るの忘れちゃった?

鈴(M):あ…やられたわコレ

鈴:あー…!そうだったそうだった、ごめん忘れてた

沙織:やだもーすずちゃんったら!…じゃあしょうがないからここで待ってて?荷物見ててくれると嬉しいなぁ?

鈴:そ…そうだね…わかった…

沙織:さ、二人とも行こ?…沙織、朝からずっと下に着てたんだよぉ?

良哉:マジ?気ぃ早ええな!

沙織:えへへ~早く見てほしかったんだもん♪だから…ね?行こっ?

良哉:お、おう!じゃあすずちゃん…ちょっと待っててね!

鈴:はい、気にしないでください

聡:(ポツリと)…俺も残るよ

鈴:…ありがとうございます。でも…大丈夫ですから

聡:でも

鈴:…むしろ残らないでくれると助かります

聡:………わかった


0:3人が川へ。


鈴:疲れた…帰りたい…


0:30分後。


聡:退屈してない?

鈴:あ、いえ

聡:…むしろ一人になれて助かった?

鈴:え?

聡:川遊びの話、ほんとは知らなかったでしょう

鈴:あ…いや

聡:見てれば分かるよ

鈴:…そんなにわかりやすいですか

聡:うん。…ああでも、良哉はまるで気づいてないけど

鈴:そうですか。…大原さん、そろそろ戻らないと

聡:…お姫様が機嫌を損ねて大変?

鈴:…はい。とばっちりを受けるのは嫌です

聡:随分はっきり言うね。…ねえ、さっきも聞いたけど…なんで二人は一緒にいるの?

鈴:なんででしょうね

聡:星川さん、大人しそうだけど言いなりになるタイプってわけでもないでしょ?ほんとに絶対服従の子なら、枝拾ったりあら汁作ったり…あんなに自発的に動かないよね

鈴:…………離れるのって、体力いるじゃないですか

聡:うん?

鈴:従ってた方が楽って言うか…

聡:それでいいの?

鈴:よくはない…んでしょうけど、もう大学4年だし…このままフェードアウトできないかなって…

聡:…なるほど。星川さんは卒業したらどうするの?内定もう貰ってる?

鈴:一応は。大原さんは院に行くんですよね?お医者さんになるんでしたっけ

聡:そう。……子供の頃から「医者になれ」って言われてきて、そのまんまレールに乗った

鈴:乗れるだけカッコいいですよ。そのレールは努力しなきゃ乗れないレールだと思います

聡:……初めてそんなこと言われたよ

鈴:生意気言ってすみません

聡:……ねえ、星川さん

鈴:なんですか

聡:……鈴ちゃんって呼んでもいい?

鈴:いいですよ。というか渡辺さんも飲み会の時からずっと呼んでますし

聡:そうじゃなくて…二人きりの時に呼びたいんだ。…グループラインから個人ライン、追加してもいい?

鈴:大原さんは律儀な人ですね

聡:堅苦しいって言われるよ

鈴:…私は好きです、その堅苦しさ

聡:…ありがとう


0:二人が話す姿を遠目で見ていた沙織。


沙織:(ボソッと)…は?なにあれ…鈴のくせに……!


0:1時間後。


良哉:あー遊んだなぁ

沙織:楽しかったー!

聡:そろそろ着替えるか

良哉:だな!

沙織:じゃあ沙織、あっちで着替えるから~…あ、見ちゃダメだよ?

良哉:もちろん!

沙織:ふふっ。後でねー


0:聡と良哉退場。


沙織:さ、てと…。すず

鈴:何?

沙織:ちょっとこっち来て

鈴:なんで?

沙織:いいから


0:沙織に連れられて、二人は草むらをかき分けていく。


鈴:ちょっと、どこまで行く気よ

沙織:いいから着いてきて

鈴:…沙織?なにもこんな奥まったところで着替えなくても…土、ぬかるんでるし…

沙織:あんた、ムカつくのよ

鈴:え


0:瞬間、沙織が鈴の腕をグイっとつかみ、ぬかるんだ地面に叩きつけた。


鈴:なっ

沙織:やだーすずったら泥まみれ~!

鈴:沙織、あんたっ

沙織:そんな泥まみれじゃあ、車乗れないね?着替えなんて持ってないもんね

鈴:あんたわざと

沙織:あんたが悪いのよ、すず。大人しくしとけって言ったのに…聡くんに色目(いろめ)使って

鈴:私そんなこと

沙織:あんたは急用で帰ったってことにしといてあげる。だからさっさと消えてくれない?

鈴:…最寄りの駅まで1時間はかかるのよ。それを歩いて帰れって言うの

沙織:言うわよ。邪魔だから今すぐ消えて

鈴:沙織…私、沙織に何かしたの?毎回毎回こんな扱い…

沙織:何かしたぁ~?あんたみたいな地味なイモ女、視界に入れるだけで不愉快なのよ!あんたは私の引き立て役してればいいのに、いっちょ前に男あさりとか…ウケるんだけどw

鈴:…沙織

沙織:二人にはうまいこと言っておくから、さっさと帰って。どうせ二人とも、あんたが消えたって何とも思わないんだから

鈴:…わかったわ

沙織:じゃあね~バイバーイ


0:1人で聡と良哉の元へ戻った沙織。


沙織:お待たせ~

良哉:おかえり~

聡:あれ…星川さんは?

沙織:実は…すずちゃん…「先に帰るね」って言って彼氏の車に乗って帰っちゃったの…

良哉:は?彼氏?

沙織:そうなの!沙織も知らなかったんだけどね~すずちゃん実は彼氏がいたみたいなの。で、さっき川遊びしてる間に「つまんないから迎えに来て」って連絡してたみたいで

良哉:はぁ?んだよそれ

沙織:私もあったま来ちゃって!そんなの二人に悪いからやめてよっ!って言ったんだけど、そのまま…

良哉:最っ悪

沙織:ごめん!ほんとごめんね!

良哉:沙織ちゃんが謝ることじゃないよ!んじゃもう、俺らもさっさと引き上げようぜ

聡:……荷物も置いて帰ったの?

沙織:そうなのー!私も止めたんだけど~

聡:財布も入ってるのに?

沙織:…そーみたい。よっぽど彼氏に会えるのが嬉しくて忘れたんじゃない?

聡:そんなことある?

沙織:あったのよ!だから、ね?私たちもそろそろ帰ろう?沙織、泳いだらお腹空いちゃった。どこか寄って帰ろうよ

良哉:…だな!

聡:……ごめん、俺はパス

沙織:え

聡:俺には星川さんがそんな子には見えなかった。悪いけど、帰るなら2人で帰って

沙織:え…ええ…?どこ行くの…?すずちゃんはもう彼氏の車で帰っちゃったんだよ?

聡:ここら辺で車のエンジン音なんて聞かなかったけど

沙織:それは…聡くんの耳に入らなかっただけだよっ

聡:うん。だから俺は、星川さんが帰ったところを見てないし聞いてない

沙織:な、によそれ……沙織が嘘ついてるって言いたいの?…っひどい!沙織、嘘なんてついてないのに…!

良哉:おい聡!お前沙織ちゃんに失礼だろ

聡:うん、ごめんね。僕は宮原さんよりも星川さんを信じることにするよ

良哉:お前っ

沙織:(低い声で)……なんで?

良哉:え

沙織:なんで?なんでなんで?私が見たって言ってるじゃん!すずは彼氏と二人で帰ったの!彼氏がいること黙って合コン参加してみんなを騙して、挙句飽きたからって彼氏呼び出して帰ったの!

聡:僕はそうは思わない

沙織:なんでよ!…ねえなんで?あんな子の言うことより私のことを信じてよ?

良哉:さ、沙織ちゃん?ちょっと落ち着いて

聡:……あら汁を作ってくれたの、星川さんだよ

沙織:…は?

聡:料理できないの、宮原さんの方でしょ。僕は僕の信じたい方を信じるよ

沙織:……はぁぁぁぁぁ!?ちょっ…待ちなさいよっっ!!!


0:荒ぶる沙織を置いて聡は鈴を探しに行った。


聡:星川さん…携帯持ってるかな……掛けてみるか…(着信音)

鈴:もしもし

聡:っもしもし!?ああ、よかった…

鈴:大原さん…どうしたんですか

聡:星川さん、今どこ

鈴:えっと…どこだろうここ…キャンプ場のすぐ近くだと思うんですけど…ちょっとした湿地帯みたいな場所で

聡:やっぱり

鈴:え?

聡:ああいや…宮原さんが星川さんは彼氏と帰った、って言ってて…僕にはそんなことする人には思えなかったから

鈴:…私のことを信じてくれたんですか

聡:もちろん

鈴:…ありがとうございます

聡:携帯持っててくれてよかったよ

鈴:…ちょうど、スタンプ送ろうと思って手にしてたんです……その…個人ラインに

聡:……良かった。すぐ迎えに行くから待ってて

鈴:はい。…あ、あの

聡:なに?

鈴:私今、泥だらけで

聡:なんで?

鈴:……その…転んじゃって

聡:…本当に?

鈴:…………沙織に…やられました

聡:…こんな時でも宮原さんを気遣うんだね

鈴:もう癖みたいなものですね

聡:…どうして離れないの?

鈴:……私もそれをずっと考えてて……ついさっき、思い出しました

聡:なにを?

鈴:小学生の頃、私いっつも隅で本を読んでたんですけど…沙織が「それ面白い?」って覗き込んできて。「面白いよ」って返したら「じゃあ沙織も読んでみる」って言ってくれて

鈴:私、それまでずっと自分の言葉で誰かが何かをしてくれるっていう体験をしたことが無くて…

鈴:3日後に本当に本を買ってもらって読んだらしく「面白かった」って言われたとき、すごく嬉しくなっちゃって…この子と友達になりたいなって……そう思ったんです

聡:…そう

鈴:…バカですよね…もっと早く、縁を切る機会なんていくらでもあったのに

聡:…縁を切るって…言葉にしたら簡単だけど、実際すごく疲れると思うよ。特に…初めて出来た友達なら

鈴:…そうですね。沙織は大原さんがこっちに来ちゃって…怒ってませんでした?

聡:あー…なんかすごく騒いでたけど…良哉に丸投げしてきたから

鈴:…渡辺さん大変そう。怒った沙織は手に負えないんですよ?

聡:心配してる?声が楽しそうだけど

鈴:…バレました?

聡:…バレました。(通話を終えて)…迎えに来たよ

鈴:……はい。待ってました

聡:ほんとに泥まみれだね

鈴:はい

聡:でもなんか…すっきりした顔してるね

鈴:はい。憑きものが取れました

聡:そう。……ああそうだ

鈴:はい?

聡:改めて。…鈴ちゃんって、呼んでもいい?

鈴:……はい


0:1週間後。


鈴:聡さん、お久しぶりです。

聡:久しぶり。あれからどう?その…宮原さんとは

鈴:一度も口をきいてません。意外と変わらない日々を過ごせるんだって驚いてます

聡:そう

鈴:そっちはどうですか?その…渡辺さんと沙織って

聡:ああ…激高した宮原さんに良哉がドン引いて、結局何もなかったみたい。二人で帰った車内でもひたすら鈴ちゃんへの愚痴を言ってたみたいだから

鈴:沙織ったら…医大生ゲットするって意気込んでたのに

聡:へぇ?そうだったんだ

鈴:はい。…‥ああそうだ、忘れないうちに…はい、これ

聡:ん?

鈴:この間のタクシー代です

聡:ええ?いいよそんな

鈴:奢られっぱなしは性(しょう)に合いません

聡:ええー?

鈴:…可愛くないでしょうか

聡:…いや。とても可愛いと思います。じゃあ遠慮なくいただくね

鈴:はい

聡:………良哉から聞いたんだけどさ

鈴:はい?

聡:宮原さん、道中ずっと「いつもいつも私の邪魔ばかりしていいとこ取りして」って言ってたみたい

鈴:それ、私のことですか?全く身に覚えがありません。邪魔していいとこ取りって…私、私の知らないところで沙織を傷つけていたんでしょうか

聡:んー…そういう事じゃないと思う

鈴:というと?

聡:多分…宮原さんは鈴ちゃんにコンプレックスがあったんじゃないかな

鈴:え?沙織が?私に?…ないですよー

聡:なぜそう言い切れるの?

鈴:なぜって…沙織は同性の私から見ても可愛いし、愛嬌があるし、コミュニケーション能力だってすごくて

聡:……人間ってさ、知らず知らず人と比べちゃう生き物だから

鈴:え?

聡:例えば…料理とか、勉強とか…いろんなことを…自分だけじゃなく、親とか周りからも比べられて…少しずつ、少しずつ羨ましいって感情から妬ましいって思いに変化していくこともあると思うんだ

鈴:沙織が…私に嫉妬?

聡:もしかしたらって話。…とはいえ、いくら何でもキャンプ場から歩いて帰れ、は流石にやりすぎだけどね。鈴ちゃんが携帯持ってなかったらって考えると…ぞっとするよ

鈴:…私、沙織に対して…あんなことをされたのに、まだ情が残ってるんです。怒りと同じくらい寂しさを感じていて…変ですよね

聡:…変でもなんでもないよ。ずっと一緒にいた人を、人はそんなに簡単に嫌いきれない…それが普通の感覚だと思うよ

鈴:ありがとうございます。…高校三年間は離れてましたけど…その期間を含めても、沙織以上に私を困らせて連れ出してくれた人はいなかったから…だから、寂しく感じるのかもしれません

聡:……じゃあこれからは…宮原さん以上に連れ出さないとね

鈴:ふふっ。…よろしくお願いします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歪んだ縁の先 4人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ