わし、泣くぞ 4人用台本
ちぃねぇ
第1話 わし、泣くぞ
【登場人物】
爺さん、婆さん、孫、看護師
(男1・女3)
0:病院の一室にて
爺さん:ばあさんや・・・今まで、ありがとうなぁ
婆さん:なんですか急に
爺さん:わしは口下手じゃから・・・今までずっと素直になれず、感謝の一言も言えなんだ
婆さん:おじいさん・・・
爺さん:わしゃ、婆さんと結婚できたことが何よりの幸せじゃった
婆さん:やめてくださいよ、縁起でもない
爺さん:あっちに逝ってしまう前にどうしても伝えたかったんじゃよ
婆さん:・・・おじいさん
爺さん:なんじゃ?
婆さん:なら、最期に一つだけ、聞いてもいいですか?
爺さん:なんじゃい?
婆さん:4ケタ。
爺さん:はい?
婆さん:銀行のキャッシュカードの暗証番号。いくつですか
爺さん:ちょ、ちょっと待ってくれ婆さん
婆さん:はい?
爺さん:婆さん、シチュエーションわかっとる?ここ、病院。わし、病人。80過ぎのよぼよぼの爺さん
婆さん:そうですね、去年くしゃみ一つで骨折しちゃったよぼよぼジジイですね
爺さん:婆さん!?事実だけども!事実だけども言い方!言い方があるじゃろう!ひどくない!?
婆さん:ひどいのはどっちですか!爺さん勝手に死んだら残された私どうなります?二人で年金暮らししてきたのに収入が半分になるんですよ?
爺さん:だから言い方!
婆さん:しゃべれる今のうちに4ケタの暗証番号吐いちゃってくださいよ。あ、あと死んだあと葬儀に呼びたい方のリストアップも
爺さん:最期の最期に聞くのそれなの?そうじゃなくて、もっと聞かなきゃいけないことがあるじゃろう!?
婆さん:はて?なんでしょう?あ、爺さんが隠してるへそくりの場所ならとっくに見つけて、私の口座に移してありますよ
爺さん:そういうことじゃなくて!っていうかいつの間に!?あと勝手に移したの!?
婆さん:あら、あの世に持ってくつもりだったんですか?閻魔様だって今の時代、キャッシュレスですよ、きっと。爺さんがこつこつ集めたシワシワの夏目漱石なんて鼻で笑われちゃいますよ
爺さん:辛辣!今から逝っちゃうかもしれない最愛の夫にめっちゃ辛辣!
0:孫登場
孫:何言ってるのおじいちゃん。たかだか検査入院くらいで
婆さん:あら、あきこ。あんたも来てくれたの?一日限りの入院にお見舞いもなにもいいのに
孫:だっておじいちゃんが「わしはもうだめじゃ・・・死ぬ前に一目お前に会いたい」とかライン送ってきたんだもの
婆さん:まぁ!あきこにも死ぬ死ぬ詐欺してたんですか、あなた!
孫:しかも5分おきにスタンプの連打。それも課金しないと手に入んないアニメのスタンプなんて、どこで買ったのよ
爺さん:さ、詐欺じゃない・・・もん・・・あきこが既読スルーするから悪いんだもん
孫:もん、じゃないわよ。可愛くないわよ
爺さん:あきこまで辛辣!なんじゃぁ~!二人して~!こんな時くらい優しくしてほしいのー!
孫:子供じゃないんだから。あ、電話だ、ちょっと外出てくる
0:孫退場
婆さん:ラインの課金の仕方なんていつ覚えたんですか?全く。まさか、ほかにも死ぬ死ぬ詐欺してませんよね?
爺さん:べ、別に他には・・・あと5人くらいしか・・・
婆さん:5人も!?なにやってるんですか!!
爺さん:だ、だって・・・ほんとに死ぬかもしれんじゃろう?ほら、看護婦さんが液体入れ間違えてとか
0:看護師登場
看護師:あら、そんなこと言ってるとほんとに冥土送りにしちゃいますよ、田中さん。
爺さん:あ、か、看護婦さん、いらしてたんじゃな
看護師:今の時代は看護師って呼んでくださいね。
看護師:田中さん、採血するだけで「わしの血が・・・血が・・・」って騒ぐんですもの。遅すぎる中二病にお薬出したくなりましたよ
婆さん:ああもうほんとにこの人は・・・!すみません、よければ遠慮なく冥土送りしちゃってください
爺さん:ばあさぁぁん!?
看護師:あら、ご家族から安楽死の提案頂いちゃいましたね
爺さん:笑顔で怖いこと言わんでくれぇ!
看護師:大丈夫ですよ、田中さん。若い看護師に片っ端から「このスタンプ可愛いじゃろう?プレゼントしようか」って口説きに行ける元気があれば、冥土も旅行感覚で帰って来れますから
婆さん:へぇぇ?おじいさんそんなことしてたんですね?ああ、それで課金したんですか。へぇ・・・?
爺さん:ひっ!いや、これはその・・・あれ、おかしいな、なんか急に汗が
看護師:大丈夫ですよ、それは冷や汗って言って病気でもなんでもない汗ですから
爺さん:全然大丈夫じゃないんじゃが・・・
0:孫再登場
孫:電話終わった・・・ってあれ、どうしたのおじいちゃん。顔真っ青だよ
婆さん:あきこ、いつでも葬儀の手配掛けられるように、葬儀屋さんに相見積もりとっといてくれるかい?
爺さん:そんなぁ
孫:なにがあったし。・・・って、え、あれ、ひなの?
看護師:あれ、あきこ?どうしてここに
孫:そっか。ひなのの働いてる病院、ここだったんだ。
看護師:あれ、もしかしてあきこ、田中さんのお孫さんなの?
孫:そうそう。おじいちゃんが「入院怖い!見舞ってくれ~!」ってしつこくて
爺さん:しつこいってなんじゃぁ・・・!
孫:しつこいでしょうが。5分おきに「もう会えなくなるかもしれない」「聞いてる?」「返事して~」って泣きのスタンプと一緒にピコンピコン通知飛ばしといて何言うの。
孫:お母さんは「おじいちゃんは昔から大げさでうるさかったから、当分ブロックしときなさい。私はもう設定済み」って言ってたけど
爺さん:智子ひどい
婆さん:智子が正論ね。こんなののお見舞いによく来てくれたわね、あきこ
孫:たまたま近くに来る用事があったからね。あ、あと「医療ミスとかで新聞に載ったらどうしよう」とかも送ってきてたなぁ
看護師:へぇ?医療ミス、ねぇ・・・?
爺さん:あ、なんか、冷や汗が増えたような・・・
婆さん:あきこ、看護師さんとお知り合いだったの?
孫:うん、私の彼女
爺さん:え?
婆さん:あら、あなたが?智子から話は聞いてたのよ~
爺さん:え?えぇ?
看護師:はじめまして、こんな偶然にお会いするとは思ってなくて・・・改めまして、あきこさんとお付き合いさせていただいてます、水野ひなのと申します
婆さん:まあまあご丁寧に。それにしても、あきこもやるじゃない~こんな綺麗な方とお付き合いしてるなんて
孫:えへへ~
爺さん:え、待っ・・・え?
婆さん:ひなのさんは看護師さんだったのね。かっこいいわね
看護師:ありがとうございます
爺さん:ちょ・・・ちょっと待って
孫:おじいちゃんのお見舞いきて正解だったわ~ひなのの制服見られるなんてめっちゃラッキー
看護師:ほんと、すごい偶然よね
爺さん:ちょっと待ってくれ!!
孫・婆さん・看護師:え?
爺さん:え、えっと・・・水野さんは・・・孫の・・・その・・・彼女?彼女って・・・彼女?
婆さん:ああ、そういえばまだあなたには話してなかったわね。あきこ、今女性の方とお付き合いしてるのよ
爺さん:えええ!?ま、待って、ええ!?というかなんで婆さんは知っとるんじゃ!?
婆さん:そりゃ、智子から聞いてましたから
爺さん:えええええ!?なんで婆さんだけ!!
孫:だっておじいちゃん、リアクションめんどくさそうだし。だからお母さんも伝えなかったんだと思うよ
爺さん:えええええ!?そんな理由!?そんな理由で!?
婆さん:声が大きいですよ、個室とはいえ病院なんですから
爺さん:だ、だって・・・だって
婆さん:ごめんなさいね、ひなのさん。令和の時代にもこんな頭の固いジジイがいるんだなと思ってスルーしてちょうだい
看護師:いえ、いいんです。驚かれるのも無理はありませんから
爺さん:あきこが・・・ええ・・・?そうなの?驚くのがおかしいのか?ええ?あ、なんか、くらくらしてきた
看護師:あれ?・・・田中さん?
爺さん:あれ、なんか、ふらふら・・・す・・・
看護師:田中さん?田中さん!?
婆さん:ちょ、あなた、しっかり!
爺さん:なんか、もう・・・だめ・・・
孫:おじいちゃん!!
爺さん:あ、あきこ・・・幸せに・・・
婆さん:あなたー!まだ逝っちゃだめ!!
爺さん:ばあさん・・・
婆さん:私っ・・・!まだっ・・・!!4ケタ聞いてないわよー!
爺さん:ひどっ・・・
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