変化しない状況

とりあえず、すぐには正体がばれないことはいいことだ。


ちなみに発表からしばらくして、ネットでは俺の事は人生の勝ち組と言われているらしい。理由は美少女になれるから一択である。


外見で得する事は確かにあるんだろうけど……正直今の俺はあまり恩恵を受けているとは言い難いんだがな。


例えば会社で。一部の男性社員とかに妙に気を使われるようになったけど、それが有難いとか言われると頭を捻るところだ。なにせこっちの中身がおっさんだと皆しっているから、なんともいえない距離間だったりするわけで。後一部の連中は明らかな下心が見える。中身が男、しかも顔見知りなのにそんな意識向けられるのさすがに強すぎないか?


ちなみに女性陣からはどんどんマスコット扱いが進んでいる気がするし、やたら構おうとしてくる気配がある。これもなー、俺がストレートに女性との接触を喜べるタイプなら滅茶苦茶幸せなんだろうけど、俺としてはちょっと困るんだよな。少し過剰に反応したりすると揶揄われるし……


美少女になって勝ち組になれるのって、あくまでそれまでの人生を捨てて"新しい人生を送る事"になった場合だけだと思うよ……元が普通に女の子とか子供だったならいいだろうけどさ、おっさんである過去を引きずった状態で美少女になるのは微妙。激しく微妙。


大体新しい人生を送ったとしても、男に囲まれてちやほやされたいとか、モデルや芸能人になりたいという願望がない限りやっぱり微妙じゃないか?


生理とかいろいろ不便な事も増えるし、後これは会社とかじゃなくて通勤中だけど明らかに不躾な妙な視線で見てくる奴いるし。後電車の中で痴漢に会いかけたし!!気持ち悪いんだよ! 身体能力諸々あがっているせいか事前察知して触られる前に捕まえたけどな! 


まぁ現行のネットの主流は"変身すると美少女に変身する"なので、都合のいい時だけ変身できると考えられているからかもしれないが……


ただじゃあ勝ち組じゃないかっていうと、それはちょっと否定しづらいところではある。なにせ子供の頃の夢を叶えたわけだからな。見た目はイメージとは違ったけど。まったく違ったけど。


ていうか冷静に考えるとEGF公式で発表しているのは"女の子"であって"美少女"とは発表してないのに何で美少女確定の扱いになってるんだ? まぁ間違いなく美少女と呼べる外見ではあるんだけどさ。フロイライン型っていう名前のせいか?


閑話休題。


そんな感じで継続してネットでは話題になっているようだが、俺の方での日常は相変わらずだ。


異星人の襲撃が偵察型の散発的なものしかなかった事もあり、初出撃以降も数度異星人との戦闘は発生したもののそのすべてが単体で片付くレベルのものだった。長船さんや源次さんは「暇だから」と出撃時に付き添ってくれていたが(源次さんは側にはいないけど)一度も手助けをしてもらう事はなかった。


正直あっさりすぎて拍子抜けしているところだったが、思わず口にしたらさすがに長船さんにちょっとたしなめられた。


ま、"開拓型"を除けば最低ランクの相手だからね。そもそも戦闘能力では最低ランクと判断されている"フロイライン"型でもあっさり対応できる相手だからな。


当然これより上位の戦闘能力を持っているタイプはいくつも存在している。強固な防御力を持つ甲虫型とかね。


これまでの戦闘で蓄積されたデータと訓練時に取得された俺のデータを見る限り、俺の攻撃力だと甲虫型の装甲抜けるかは微妙なラインらしい。遭遇した場合はそれこそ長船さんか源次さんに任せる事になるだろうな。適材適所である。乱戦時で二人の手が埋まっている場合でも、障壁で足止めすればいいしな。


当然自分でぶったおせればそれが最善ではあるんだが、性能の問題で無理なものは無理だ。そういう状況で前に出張っても邪魔なだけなので、その場合は素直に支援に回ろうと思う。


予測ではそろそろ、これまでのように単体ではなく集団での侵攻もあるであろうと予測されている。その時はこれまでの1対1とは別の動きをする必要があるから、それこそその時が真の本番といえるかもしれない。これまでは光剣しか使っていないが、"修復""障壁""祝福”を使う事も出てくるだろうしな。


障壁はともかく修復は使う事がない方がいいのは確かだけど。それと祝福なー。


能力的には集団戦では真っ先に使うべきものなんだけども……発動のさせ方がちょっと恥ずかしいんだよなー。訓練の時ではすでに何回かやってるし、命を懸けた戦いの場では恥ずかしいなんて言ってられないので、その状況になったら躊躇いなく使うつもりだけどさ。


そんな集団での侵攻が発生しないに越したことはないんだけど、それは絶対にありえないだろうしな。奴等がドームにずっと閉じこもったままってことはありえないだろう。ドームへの進入方法が確立できて、かつそこに突入して連中を一体残らず殲滅でもしない限りは、その可能性は0にはならない。


その研究は勿論EGFでは進められているけど、今の所その糸口もつかめていないんだよね。それは当然も当然で、マテリアルもそうだけど今回の件に関わる技術は皆地球人にとっては未知の技術だ。そう簡単に解析できるわけじゃない。


というか俺達にマテリアルを送ってくれた謎の存在君、そこまでしてくれるんだったらドーム破る技術も提供してくれてもいいんじゃない? 片手落ちじゃないかな?


尤も、提供してくれている可能性もあるんだけど。


そう思われる理由となったのが、俺──というかフロイライン型だ。


数年の間を開けて新規のマテリアルが見つかった事により、更にフロイライン型以外にも未発見のマテリアルが存在する可能性がにわかに取りざたされ始めた。


その中にはドームに対してなんらかの手段となる能力を持つマテリアルが存在しているのではないかと。


可能性としては充分ありうる話だ。見つかれば、一転攻勢に出れるかもしれないし、そうでなくてもドームの中の状況を確認する事ができる。


ただなー、俺の時がそうだったんだけど、マテリアルの発見ってもう完全に運ゲーなんだよなー。


マテリアルは近くに適合者がこないと出現しないわけで。


そして適合者はマテリアルがないと見つけようがないわけで。


例えば日本人全員が日本中を北から順に歩き回ればみつかるかもしれないが、そんなの勿論現実的ではない。


だから結局現状は異星人の襲撃に関しても、マテリアルの発見に関しても待ちの体勢しか取れないわけだ。


そんな状況がいつまで続くのか……こればっかりは俺には祈る事しかできない。俺に出来ることをただこなすだけだ。


そして特に状況の変化がないまま。


これまでとは違う、集団規模の襲撃の警報が発令された。






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