顔合わせ

物語に出てくるヒーローやヒロインってのは大概は若い美形だ。昔のアニメとかだとそうでもない気がするけど、少なくとも最近はそういった傾向だろう。そりゃ眺めてるにはイケメンや美少女の方がいいもんな。


逆に現実世界のヒーローであれば美形だけというわけではないし、年齢層ももうちょっと上になってくるだろう。身体能力の脂がのってくる時期もあるし、重ねた年月で蓄積された経験は大きな力がある。


じゃあ現実世界だけど、まるで物語の登場人物のような現実離れした存在となったマテリアル適合者はどうなるか。


結論からいえばカオスである。統一性はまるでない。


マテリアルの適合者に関しては基礎スペックとかはまるで関係しない。多分重要なのは波長的なものがあうかどうかなんだろう。だから、マテリアル適合者は性別も年齢もバラバラだ。


まさに今俺の目の前に立っている彼らが、それを如実に表していた。


──能力を思い出してから、更に一週間後。休日と有給休暇一日を使った時間で能力の一通りの検証を終えた俺は、いよいよ配属先が決定される事になった。


現状、マテリアル適合者は八十余名いるが、その全員が同じ場所に滞在しているわけではない。


異星人の襲来から4年、現在房総半島の大部分が奴らの支配下にある。異星人の中でも"耕作者"と呼ばれる存在により人の立ち入れない場所へと作り替えられたその広大な奥地、房総丘陵に突き刺さった奴らの宇宙船を中心として巨大なドームが生み出されており、連中はその中で繁殖されているとされる。


される、っていうのは"繭"と呼ばれるそのドームの中の確認が行えていないからだ。


何かしら未知の妨害電波でも出ているのか、遠隔からの観察は如何なる方法でも不可能。ドローンで物理的に探索しようとしても、途中で反応が消失する。人間はそもそも接近すらできない。近づけるのはマテリアル適合者のみ。


……こう考えると、外見が変わってなくても俺以外のマテリアル適合者も実質体が作り替わっているよな。ちょっと安心した気が。一人だけってのはちょっと怖い。


それで、そのマテリアル適合者の中でも速さを誇るヒーロー型が一度強行偵察を行おうとしたけれども……これも失敗。中から大量の怪物が出現してきて、撤退を余儀なくされた。また遠隔からのガンナーの一撃で穴をあける手法も検討されたが、これは

ドームの表面で弾かれた。更にはやはり反応して大量の怪物がドーム外に出現したため、それ以降はこの手法は取られていない。──連中に刺激を与えないように。


現状、個体としての能力は異星人よりもマテリアル適合者の方が明らかに上。だからか、怪物達の襲撃は散発的だ。大規模戦闘と呼ばれるものは早々発生していない。


いくらこちらの個の戦力が上回っているとはいえ、数で攻められれば間違いなくこっちの戦力も被害がでる。その数を増やすためにはいつ見つかるかわからない適合者を待たないといけない状況では、希少な戦力を失うわけには行かない。そして総勢が百にも満たない数では、もし大規模侵攻を行われた場合に間違いなく防ぎきれない。


だから、今は出来るだけ刺激を与えないような状態になっている。非常に消極的な状態だ。そんな状態なので、今だドームの中は不明のまま。


じゃあなんで繁殖していると考えられているのかというと、これまでの数年で適合者達が屠って来た怪物の量、そして数度姿を現した大規模集団の数を見る限り、明らかに当初地球に宇宙船の中にそれらが全部乗っていたとは思えないからだ。


なので恐らくは中で繁殖を行っている、或いはワームホールのようなものがあって送り込まれている──との予測が立っている。


まぁあくまで予測だ。


それでまあ話を戻すが、時折繭から怪物が出現し襲撃をかけてくるのだが、繭自体がかなり広大なものであり、そのどこから出現するかも不明なため、その都度襲撃先は別の所になる。


それに応対するのに、一か所に集まっていては間に合わない。そのため、現在マテリアル適合者は20程のチームに分けられ、それぞれの担当区域を割り振られていた。


その中の一つに、俺も割り振られたわけである。今日はそのチームとの顔合わせだった。


俺と向かい合うようにして立つ、チームのメンバー。その年齢層は見事にバラバラだ。


一人は髪が白──今の俺のような銀髪ではなく、純粋な白。要するに白髪だ。顔にもこれまで過ごした時の長さを表すように多くの皺が刻まれたその男は、年齢にすれば70を過ぎたくらいだろうか。腰が曲がっている様子もないが、やや猫背気味に立ってこちらを見ている。


それから、恰幅の良い女性。温和そうな笑みを浮かべたその女性は、俺の母と同じくらいだろうか? どう見ても怪物と戦っているようには見えない。


そして最後に、二十歳位に見える女性。すごく美人というわけではないが、愛嬌のある顔立ちをしている。髪をポニーテールに結い上げラフな格好をしたその女性は、見た感じだけで活発で人懐っこそうな印象を大抵の人は受けるんじゃないだろうか。


……ただ最後の女の子、その印象より前にそもそもどこかで見たような感じがするんだよな。誰だっけ? 会社の子ではないし、それ以外ではこれくらいの女の子の知り合いなんて殆どいないハズだし……どこかの会社と打ち合わせした時にでもいた子だろうか。


まぁいい、今はそれよりもちゃんと挨拶をしよう。


ここまで案内してくれた職員さんに促され、俺は一歩前に踏み出した後にゆっくりと頭を下げる。


そして顔を上げた後に、彼らに向けて口を開いた。


「初めまして。新たにこちらの区域に配属される事になりました、時塚 静と申します。マテリアルのタイプは新たに発見されました"フロイライン”です。前例のないタイプでありいろいろお手数をおかけするかもしれませんが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」


そこまで言って、もう一度頭を下げる。


しかしちょいと硬すぎたかな。自分で言うのもなんだが、新入社員の入社の挨拶かよって感じになってしまった。顔を上げて皆の様子を見れば、男性の方は特に変化もなかったものの、女性達の方は明らかに顔が驚きが出ていた。


……というか、若い方の女性の方は驚きすぎじゃない? ものすごく目を見開いてこっちの方をガン見してくるんだけど。年齢的にはまだ会社とかに努めたことがないのかもしれないし、聞いたことなくて驚いたのかな──


「お兄さん? 女の子になっちゃった男の人って、時塚のお兄さんだったの!?」


……はい?

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