おっさん課長はお嬢様になって侵略者と戦います
@DiCanio
魔が差した結果
小さい頃は、戦隊もののヒーローや物語に出てくる勇者になりたかった。
小学生になり、そして中学生になるころにはそういったものはこの世界に存在しない事は理解していた。だけど、そういった存在に近い生き方をしたかった。
高校に進み、そして大人になり社会に出る事にはそういったものは物語として
消費するだけのものになりさがった。
そして、三十を超えて、役職もついた今。
俺は、ヒーローになりたいと思っていた。
──だって、現実にそういった存在が居ることが分かったから。
いや、いる事が解ったというのはちょっと違うか。その手段ができたから、というのが正しい。
事の起こりは、数年前の事だった。空からでかい銀色の葉巻が落ちてきて、世界中の数か所に突き刺さった。
語弊なく形状は葉巻型だったし、それが地面に深々と突き刺さったのだ。
それだけでもう完全に異常な光景。だが、これは異変の始まりに過ぎなかった。
突然現れた宇宙からの飛来物。当然各国政府は調査に乗り出そうとした……が、準備が出来ていざ調査を開始しようとした直前に、その葉巻の一部が開き、姿を現したのだ。
異形の怪物が。
怪物たちの数はそれほど多くはなかった。まぁ葉巻型の──結果から考えれば宇宙船だったのだろう──は大きいとはいえそれでも何千何万という数を格納できるほどのサイズではなかったから。
問題は、近代兵器がほぼ通用しなかった事である。まるっきり効かないわけではない、だが明らかに効きが弱い。国によってはミサイルを撃ち込んだ所すらあったが、それでも怪物は殲滅できなかった。
倒すどころか押しとどめる事もできず、人々はその場から逃げ出すことしかできない。そうしているうちに更に大きな問題が発覚する。
怪物の中のとある形状の存在が住み着いた場所の草木や取り残された家畜等が皆腐れ落ちたのだ。
ドローンなどを飛ばしてなんとか分析を行った結果、その怪物は未知の物質を排出しておりそれらが人間……というか地球の生物にとって有害なものだという事がわかった。
ここにきて、人々は突然現れた怪物達の目的に気づく。
彼らは、地球を支配しに来た侵略者なのだと。
しかも、共存は出来ないタイプの侵略者だ。頼みの綱の各国軍隊の攻撃も大した効果が見れず、もはや人類は滅ぼされるのを待つしかないのか……そう思い始めた時だった。
世界の各地に、いくつもの流星が降り注いだ。それと合わせて、世界各国であるメッセージを受信した。
そのメッセージの内容はこうだ。
『助けにいって上げたいけど、遠いしちょっとその余裕がないんで戦える武器だけ送るから自分たちでなんとかしてね☆(意訳)』
……いや、脚色しているわけではなく、マジでこんな感じだったらしい。
そんなふざけたメッセージではあったが、送られたもの……流星として降り注いだそれはとんでもないものだった。
マテリアル。そう呼ばれるソレはサッカーボール程度の球形の物体だった。
これ単体では武器ではない。また適合しない人間が触れた所で何も反応しない。だが適合した人間が触れた時、それは姿を変えたのだ。
それは、全身を覆うスーツであったり人型の登場可能なロボットであったり、武器であったり、獣であったりした。
そしてこのマテリアルから現れた物を扱う事により、人々は初めて怪物とまともに戦う術を手に入れたのだ。
さて話を戻そう。
俺の名前は時塚 静。しずかと書いてせいと呼ぶ。ちょっと珍しい名前なので、覚えられやすい名前である。子供の頃はしずかちゃんと呼ばれていじめられる事もあったが。
年は今年で34歳になった。仕事は今はとある企業で経理部の決算課の課長についているしがないサラリーマンだ。
その俺の前に、今黒光りするサッカーボール大の球体があった。
マテリアルである。テレビで見たことがある奴と全く同じ見た目だった。
メッセージを受け取り、更に偶然発見した適合者の力を見た各国の政府は即座に探索を開始したが、その探索は難航した。どうやらこのマテリアル、ある程度近くに適合者がいないとその存在を認識すら出来ないのだ……侵略者に発見されないための対策だろうか?
そのせいで発見は偶然に任せるしかなかったのである。
ちなみにマテリアルは俺の目の前に姿を現したわけだが、俺が間違いなく適合者かといえばそうとは限らない。
あくまで近場に適合者がいると、元々そこにあったものが認識できるようになるだけなので、この近くに適合者がいるだけなのかもしれないのだ。
ただ出現すれば適合者じゃなくても見つけることが出来るので、こうして俺が認識できているのである。
テレビの中でしか見たことがない物が突然目の前に現れた。それに対してしばらく俺は無言でマテリアルを見つめてしまった。だが正気に戻ると、俺はスーツの内ポケットからスマホを取り出す。
マテリアルを発見した場合、日本の場合は専門の機関に連絡する必要がある。第一発見者には高額の報酬が支払われるのだ。宝くじを拾ったようなものである。また発見した場合は写真と共にメールを発送後連絡を行うだけで、触れるのは厳禁とされている。触れただけなら罰則があるわけではないが、もし触れた際適合者だと自動的に生体登録が行われ、そのマテリアルを他の人間が使用する事ができなくなるのだ。そして、マテリアルの使用者となったものは侵略者達との戦いに駆り出される。強制的にだ。現状全く人手が足りてないので仕方ないのである。だからその意思がないのであれば触れるなと、そういう事である。
そう、意思がなければ、である。
魔が、そう魔が差したのだ。気が付けば俺はスマホをポケットにしまいなおし、マテリアルへと手を伸ばしていた。
どうせ、適合者ではないと7割くらいは思いつつ。
もし適合したら非日常の中に叩き込まれるんだという頭の中の警告。だが異星人に侵略されている今の世界はとっくに非日常ではないかという否定。
もし適合したら、自分の家族や同僚たちを護れるのではないかという希望。
そして昔望んだヒーローになれるんだという、嫌でも浮き上がってくる思い。
様々な思考で頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、俺はゆっくりとマテリアルに近づき──
触れた。
『適合確認。生体登録完了。力を”解凍"します。』
──あっ。
頭に突然響いた言葉。それを聞いた瞬間俺の頭の中に浮かんだのはその言葉だけだった。そして俺の体は光に包まれ……そして光が消えると、俺の頭の中に浮かんだのは喜びと、不安と、罪悪感だった。
やってしまった……まさか適合するとは。
大変な事になってしまったと思いつつ、だが心が湧き上がってくるのを感じる。不安はあるが、今はそっちの感情が強かった。
俺は慌てて周囲を見回す。
人型の大型機械に乗り込む"マシン型"、或いは巨大な銃器を扱う"ガンナー型"なら近くにそれらのものが出現しているハズ──だが、周囲にあるのは先ほどまでと変わらない街並みだけ。
獣もいない。獣と融合して戦う"ビースト型"でもない。という事は全身スーツの戦隊ヒーローのような姿である"ヒーロー型"か!? ある意味子供の頃一番憧れた存在だ。
俺は期待を持って、自分の姿を確認するために視線を落とした。
──ドレスを着ていた。フリルやらなにやらがふんだんについた、物語のお姫様が着るようなドレスが。
あと視界のすぐそばに谷間が見えた。俗にいう胸の谷間が。
元の俺はどちらかというとやせ型だったし、男だ。勿論胸の谷間なんかなかったわけで。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そりゃそんな声も上がると思うよ。
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