第73話 好きです
「お前ら!その子から離れろ!」
僕は気づくと走り出して男の一人を殴り倒していた。
「て、てめぇ!何しやがる!」
仲間の一人が激昂して殴りかかってくる。
「陽翔くん!」
僕はその拳を避けてみぞおちに全力の蹴りを入れる。
「ぐはっ!」
男が吹っ飛ぶ。しかし仲間はその男だけでは無い。
「おら!」
「ぐふっ!」
僕は頬に一発拳をもらう。
「ってぇな!」
僕は手を握ってその男の顔面にグーパンした。
そこからはもう酷い乱闘だった。殴って蹴って、僕も男たちも傷だらけになる。
「さっさと諦めろよ!」
僕は男たちに怒鳴る。
「チッ!行くぞ」
「あーあー萎えた萎えた」
「なぁにカッコつけようとしてるんだか」
男たちが公園から去っていく。その背中を見届けて、見えなくなった。
「はぁ」
僕は力が抜けて崩れ落ちる。
「陽翔くん!」
有栖院さんに支えられる。正面から支えられる形になっているから抱きしめている感じになっている。
「ここで崩れ落ちるなんてカッコ悪いな…」
「…………バカ…」
「えっ?」
「バカバカバカバカバカバカバカバカ」
「え、えぇ…」
「ほんっとにバカ!バカなんだから!」
「そ、そこまで言わなくても…」
酷い言い様が心に刺さる。
「バカ………バカ…」
「…もしかして、泣いてる?」
有栖院さんの声が涙声になっているように聞こえる。
「だって、私は陽翔くんから逃げたのに、陽翔くんは見つけてくれて、こんなに傷だらけになるまで私を助けてくれたのに、私は何もできなかった」
「あんな男たちに迫られたら誰だって怖いよ」
「でも、陽翔くんは戦った…」
「有栖院さんを守りたかったからね」
「っ!なんで?なんで私なんか守るのよ?」
「それは――――」
「奈月を守ってればいいじゃない!」
「…………………は?何言ってるの?」
有栖院さんの言っている意味がわからない。一時思考が停止する。どうしてそこで舞元さんが出てくるのか理解できない。
「どうしてそんなことになった?」
「だって、陽翔くんと奈月は付き合ってるんでしょ!」
「……………なんで?」
はいはい、一回カメラ止めて。なんかものすごい食い違いが発生してるから。僕と舞元さんが付き合ってる?なんでそんなことになってんの?
「えっと、有栖院さん?」
「…何よ?」
「どうしてそんな風に思ったの?」
「陽翔くん、最近私のこと避けてたし」
「うぐ…」
それは完全に僕のせいだ。
「本屋とかショッピングモールで楽しそうにしてたし」
「見てたの!?」
そりゃこんだけの情報があったら勘違いするわな。
「それ、全部有栖院さんの勘違いだよ」
「…………へ?」
「そもそもどうしてクリスマスにそんなこと言わなきゃならないの?」
「それは、最後の思い出的な?」
「何それ」
僕はおかしくてついつい笑ってしまう。
「本屋では今日のデートプランを一緒に考えてくれたんだよ」
「そうなの?」
「うん。最後のイルミネーションは舞元さんの意見だったし」
「じゃ、じゃあショッピングモールのは!?アクセショップなんてどうして行ったの!?」
そんなとこまで目撃されてるなんて。これは告白が成功してから渡そうと思ってたんだけどな。
僕は有栖院さんから離れて鞄を漁る。そして一つの箱を取り出した。
「それは?」
「…有栖院さんへのプレゼントだよ。舞元さんが有栖院さんにはアクセサリーがいいって言ってたから」
「…これも奈月が選んだの?」
「プレゼントは僕が選んだんだ。舞元さんが選んだものはどれもピンとこなかったから」
「……そっか」
有栖院さんは僕から箱を受け取ると割れ物を扱うように丁寧に胸に抱いた。
「開けていい?」
「うん」
有栖院さんは箱を傷つけないようにゆっくりと開ける。
「これって…」
「どう、かな?」
僕が選んだプレゼントは有栖院さんの髪の色に似た金色に中央に有栖院さんの目と同じ緑色の丸いのがはめ込まれているネックレス。
「これを見たときにこれだって思ったんだ。気に入ってくれたらいいんだけど…」
「……………」
「あ、有栖院さん?」
有栖院さんが何も言わずにネックレスを見つめる。
「えっと、気に入らなかったら捨ててくれても―――――」
「そんなもったいないことしないわよ!」
「そ、そう?」
有栖院さんの急な食い気味発言にびっくりしてしまう。
「これは陽翔くんが私を想って選んでくれた大切なものなの。私の世界で一番大切な宝物にするの」
「……そこまで気に入ってもらえたならよかったよ」
「陽翔くん、このネックレス、私につけてよ」
「僕が?」
「うん」
僕は有栖院さんからネックレスを受け取ると後ろに回ってネックレスをつけようとする。
「髪あげてくれない?」
「これでいい?」
「う、うん」
僕は突然現れた白いうなじにドギマギしてしまう。
「まだ~?」
「あっ、ちょっと待ってて」
見惚れていたけど有栖院さんの催促で我に返る。
僕は有栖院さんの首にネックレスを掛ける。
「つけたよ」
有栖院さんはゆっくりと振り向く。
「どう?似合ってる、かな?」
照れたような有栖院さんの顔に暗闇にひときわ輝くネックレス。それはとても似合っていてどうしようもなく胸が高まってしまう。あぁ。僕は本当に有栖院さんのことが好きなんだ。
「好きです」
「……………え?」
「僕は有栖院さんのことが大好きです!」
「えぇ!?」
僕は衝動的に有栖院さんに愛を叫んでいた。
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