第14話『結実』1/2


 冒険者ギルドのギルドマスターへの鞭打ち教義が終える頃、教会に所属する神聖魔法騎士団が一樹を捕らえようと、準備に入りはじめた。


 一樹に新たに付けられた罪状は、穢れけがの流布。


 数百という人数が集い、大きな規模で捜索の手配がされていく……。こうして淡々と、教会側の準備は進んでいく。

 

 そして地下街も騒々しくなる一方で、神聖魔法騎士団はスラム街でギャンブルマスターである白い燕尾服の女を包囲する。罪状は、ギャンブルという汚れた行為を誘発して流布し、怠惰な者を生み出す者として認定されてしまう。

 

 圧倒的な物量でやってこられると太刀打ちできるはずもなく、無抵抗に近い状態で確保されてしまう。

 

 燕尾服の女は、魔法界とする人がいる下界での力は、人並みに制限されており太刀打ちはできない。


 その頃一樹とモグーたちは、ダンジョン内にて魔石集めに精を出していた。

 変わらず十層のボス部屋を、幾度も繰り返して討伐をしている。


 試しに『経験の書』を作れるかと躍起になって何度試しても、一度も成功せずに終わる。

 人でうまくいき、ボス魔獣だとダメなのだろうかと疑問に思うものの、ひとまず魔石の採取に考えを切り替えた。


 ボス魔獣への攻撃は単に切りつけたあと、傷口から一気に吸い込む方法だ。ところが単純なようでいて、思った以上に難しい。

 傷つけた瞬間に吸わないと傷が小さすぎて、動いている相手だとどこかわからなくなるからだ。なので紅目化し、強引に膂力任せの押し通す方法で、討伐を繰り返している。


 それでもたまに、一気に吸えるか試してみるもやはり難しい。

 

「う〜。こいつはムズイぞ」


「モキュ! モキュ〜」


 モグーは、俺の嘆きを聞くと、小動物の時の鳴き声で返事をしてきた。それどころか戦闘中なのに、無邪気な笑顔で飛びついてきた。

 すると、一樹の背中を素早く上下にさするようにして、両手を動かす。


「うわっ! モグー違うって、むず痒いんじゃなくて、難しいとっ」

 

「そうなの?」

 

 モグーは首を傾げて、不思議そうにしている。

 たまにリスの時のように、無邪気にじゃれつくことがあるのは何とも可愛らしい。戦闘中だけど今は余裕があるのでよしとしよう。


 そこで一樹は、なんとかうまく伝えようと腐心しながら、いう。

 

「すぐに気持ちが伝わるのっていいな」


 モグーは純粋に嬉しそうだ。


「うん。あたしも何か嬉しいよ」


「そしたらさ、モグーが少しでも安全にいてほしいんだ。だから次は、戦闘に集中して少しでも安全に終わらせようぜ?」


 どうやら意図していたことに、気がついてくれたようだ。


「あっそうだよね。あたし集中していなかった。ごめんー」


 気がそれたとはいえ、戦闘の方でなく一樹に集中してくれていたので、そのこと自体は嬉しいことをつたえた。


「その分は俺に対して集中してくれたんだろ? ありがとな」

 

「うん。一樹がスキー! だから気にしちゃう」


「ありがとな。そしたら俺を見ながら、うまいこと補佐頼むな」


「うん! まかせてー!」

 

 今回も作業のようにボスを倒して魔石を取り出すと、魔法袋に肉と魔石を分けてからしまう。

 次の沸き時間までかなり余裕があり、ボス部屋の外に出てのんびりと待つ。吸わなければ血肉が残るので、高く買い取ってもらえるから稼ぐにはちょうどよい。


「それにしてもさ、魔法のテントはヤバイぐらいに快適だよな」


「うん! ふかふかベッド好きー」


 モグーはよほど気に入ったようだ。無邪気な様子はほんと和む。

 

 これだけ長く滞在していられるのも魔法のテントの存在が大きい。もはやテントというよりは、隠密性の優れた拠点になっている。しかもまだレベルが1の状態で想像以上の快適さだ。MAXになった日にはどうなるのか、今から楽しみでしかたがない。

 

 ボスの肉は非常に美味い霜降りの肉だし、普通に焼くだけで美味しい。腹一杯で眠くなれば、しっかり目の弾力性があるマットレスで寝られる。風呂はもちろんトイレもある物だから、快適その物だ。

 

 ボス肉の解体は、売られている魔道具を使い、解体はその魔道具を頼りにしている。

 袋に入れれば簡単に可食部位を分けて取り出しできる優れものだ。ただし回数制限があるので複数買って使い捨てになる。まだこうした日常的に便利な物は、作れる物一覧にはないのが少し残念だ。

 

 魔法のテントがあるので問題ないものの、基本的にはカモフラージュのために借りている宿屋へは、荷物を置いたままにはしない方針だ。

 以前の襲撃で根こそぎ奪われたので用心に越したことはないと思う。今の魔法のテントなら、宿付きで移動しているような物で、表向きは宿を借りて泊まっているのを装える。

 

 ある程度居場所は判明している方が、視点を一箇所にとどめられるので動きやすい。


 宿に戻っても中で魔法のテントを開き入ってしまえば他の者からは認識もされない。宿には戻るけど所在が不明となるわけだ。隠れるのには十分すぎるほどだ。


 ぼんやりと考えていると、再びボスの湧く時間がやってくる。

 モグーはさすがに疲れたのか、船をこいでうつらうつらとしていた。なんともボスを前にして余裕が出てきた物だと思う。

 

 そろそろこの辺で一休みとするかと思い、ほぼ寝ているモグーを抱きかかえて魔法のテントに戻る。


 ベッドに寝かせてくると魔法のテントをしまい今回はソロで倒して、転移魔法陣を利用しすぐに宿へ戻ることにした。

 案の定、今回の一番最速で、開始一分以内に倒し切った。


 倒した後の転移魔法陣でダンジョン入り口へ戻り、そのまま宿屋へ直行する。部屋についたと同時に、部屋の中央へ円錐を設置して魔法のテントの中へ入る。


 ――やっぱ快適だよな。このテントってやつはさ。

 

 リラックスしていると、今更ながら気がついたことがある。種族レベルが上がるとJOBがクラフターであろうと、身体能力や膂力も格段に上昇する。だからこうしてモグーも軽く抱えていける。以前の非力な一樹じゃ真似できない行為だ。

 かといって、力加減が難しいかというとそうでもなく、力の上限が上がったという感覚だ。やろうと思えば出来る物が、より数段上までいける感覚といえばいいだろうか。やはりレベル上げは重要なんだなと実感してしまう。


 レベル上げといえば、地下ギルドにはランクと呼ばれる物がなかった。いつだったか気になり、地下ギルドでのセバスに聞いたことを思い出す。


 一樹にとっては素朴な疑問から始まった会話だった……。

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