異世界のニンベン師 偽物クラフター! 〜ニンベン師認定を受け追放されたので本物を超えた偽物を作り俺が最強になる。

雨井 雪ノ介

第一章『始まりの誘い』

プロローグ

 ああ、星の光がない。


 星の瞬きが見えない空間は、暗く寒ささえ感じまるで星が見えない雲空で覆われた夜のようだ。

 実際には、寒いのかそれとも暑いのか、はたまたちょうどいいのかはわからない。

 

 今言えることは、何も無いところで小さく弱々しい息を吐き出すようにして、言葉を交わしている者たちがいる。

 いまだ姿がはっきりと見えない者たちは、立っているのか、座っているのかさえ見えなく不明だ。

 二つの存在がいる内のひとつは相手の上位者で、目の前にいるもう一つは下位者なのだろう。

 

 言葉の端々で何か含みがある様子だ。

 

 二つの存在は大きくとも小さくともない声で「新たな神」について、状況を検分するかのように淡々と話している。

 一方の存在は低く太い声質からすると、いくつもの年代を重ね生きてきた老齢の男のようで相対するのは、年若い女のようだ。


 ――会話は続く。


 老齢の声の主はいう。

 

「あの者はたしかに、候補者の内の一人でしかない」


 女も同意する。

 

「ええ、わかっております……。そのことぐらいは……」


 返された言葉へ、とくに何も思うこともなくもう一つの存在は、疑問を呈する。


「うむ。今になって持ち出すのは、何か理由があるのか?」


「いくらなんでも……。遅すぎると思います」


「うむ……。まだあれの操作すら、わからぬというのか?」


「はい……。問題なければ機会をみて、私が直接教えたく存じます」


「なるほど、ならばやむを得ぬな」


「必要がない試練とそれによる時間の浪費は、避けた方がよろしいのではないでしょうか?」


「然り。我とて説明不足は否めいないからのう。他でもない我によってだから仕方あるまい」


 開き直りとも言える言葉に、女は感情的になりそうだった。


「過ちをお認めになるので?」


 特段困ったという風ではなく、自身に非がないことを淡々と告げていた。


「我としても完璧ではない。予期せぬ事態でもあったからのう。緊急措置ゆえ致し方あるまいて」


 自己弁護がここで出るとは思わず、女は無言になる。

 

「……」


 開き直ったかのように口を開いてでてきた言葉に、女は絶句しそうになる。

 

「それを調整するのが其方たちの勤めでもあろう?」

 

 言わんとしていることはわかる。

 たしかに、元を正せばそういうことになる。

 不承不承としながらも女はいう。

 

「承知しました。それでは少しばかり干渉して参ります」


「我も頃合いを見て枕元に立つゆえ、助言をしよう」


「承知しました」


 すると、あたりは乳白色の何もない空間に変化していく。

 目の前にいた老齢の紳士は薄く消えていき、残るは白い燕尾服を着てシルクハットをかぶる女だけがいた。


「酷い話よね……。ここまでほっとかれるなんて」


 大きくため息をついてしまう。

 

 何もない空間で手をかざすと、壁一面に外界が映し出される。

 目の前には何やら、巨漢の魔獣たちから追いかけられている、十六歳くらいの少年が映し出された。


「あらあら、さっそくね。待っていてね……。一樹くん」

 

 会話をしていた二つの存在は、程なくして世界樹と白の燕尾服を着た女死神だとわかる。

 一人は世界のすべてを司る者、もう一人は人から見れば神で世界樹から見れば支える労働者だ。

 先ほどいた二柱と、もう幾柱の神たちの管理している世界があり、間も無く同士として神候補がやってくる。


 神たちの時間感覚でいう間も無くだ。

 人にしてみたら、非常に長いと感じるだろう。


 憂を抱きつつ、女は下界へ向かった。

 

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