#6 仲間入り
「なぁるほどねぇ……」
全てを話した後、目の前の翔太さんは深い深いため息をついた。
横に座る真彩さんもなんだか難しい顔をしている。
礼央さんはコワイ顔、圭人さんに至っては……私の話に興味は無かったようだ。
「それで、清水さんの命令のままに私たちに攻撃をしたってことね。
…………なにそれっ!すごくムカつく〜〜!!」
「真彩、」
「だって音透ちゃんは、異能のこともクロノカルマのこともよく知らないままにあのクソジジイのせいで、たくさんの人を殺して来たんだよ⁈
そんなの、そんな酷いことってないよ!」
バンッと真彩さんが目の前の机を叩いた。
どうやらすごく怒っているようだ。なんのために怒っているのかは分からないけど。
「真彩が怒ったって、この子には伝わって無さそうだよ」
「うぐぐ……そうだけどぉ」
「……それに、彼女がこなして来た任務は全て俺たちのいずれかが出向くはずだった任務のようだ」
ほら、コレ。と礼央さんが机に書類を投げ出す。
私の顔写真と任務地が書いてあるから報告書の類だろう。
……いつだか、大量に書かされたヤツだ。もう二度とやりたくない。
「渋谷のも、新宿のも、全部。筋金入りの犯罪組織だよ……ねぇ音透ちゃん。コレ全部1人でやったの?」
「?はい」
「銃の引き金を引くの、怖いって思ったことある?逆に突きつけられた時に怖いって思ったことある?」
「ありません。私は殺戮アンドロイドなので。任務を遂行するのに不必要な感情は搭載されてないようです」
…………空気が、シンとしてしまった。
何か変なことを言ったかな。
マスター……あぁ、いや、清水さんにも空気を読むことを覚えなさい。と言われたことがある。
何か言った方がいいのかな、でもなんと言えばいいの?
4人の視線が一斉に私に向けられている。
誰もなにも言ってくれないこの時間がどのくらい続いたかは分からないけど、漸く翔太さんが口を開いてくれた。
「きっと、君にも僕たちみたいな人間の時があったはず。それを君は忘れちゃったんだね。
忘れたくて忘れちゃったのか、イジられたのかは分からないけど。
だから、僕らが君を殺戮アンドロイドじゃなくしてあげる。感情が何か、全部教えてあげるよ」
「翔太!そんなことしてる場合か?俺たちには時間が、!」
「……だからさ。音透がいれば、僕たちの望みをもっと早く達成できるかもしれない。政府が彼女を使おうとしてるなら、僕らも彼女を利用する。
ね、いいよね?音透。マスターは僕らだから、誰よりも僕らの命令を優先してくれるでしょ?」
にっこり。
清水さんの笑顔とは少し違う人当たりの良さそうな笑みは、有無を言わさない圧があって。
気づけば私はコクコクと首を縦に振っていた。
「よし!それじゃあ、まず僕らのことを教えようか。
僕らはカタルシス。異能を使って、犯罪を抑制するために犯罪を犯す異能者集団。
やってることは君が今まで通って来たモノと変わらないよ。まぁ、あそこまで過激なのはやったことないけど。
僕らは全員、白色のクロノカルマを持っている。
あ、クロノカルマって言うのはこの本のことね」
真っ白な本……あの時私が貰ったヤツだ。
異能の説明が書いてあるだけで他には何もなかったけれど。
「この白いクロノカルマを持ってる人には、先天的に異能力があるんだって。
その代わり、身体のどこかが機能してない。
僕の異能力は【
まぁ簡単に言うと、嘘を現実にする能力。
その代わりに、僕は左目が見えないんだ」
ほら、と近づけられた目はよく見ると義眼、らしい。全く気が付かなかった。
「私のは【
さっき音透ちゃんにやったみたいに、ツタを巻きつけて攻撃するの。身内なら治癒もできるよ。
代わりに、私は色彩感覚がないの。
私の世界は全部白黒。今更何も感じないけど……ねぇ、音透ちゃんは今何色の服を着てるのかな」
「赤、です。」
「そっかぁ!きっと素敵な色なんだろうね。今度一緒にお出掛けしようね」
よしよし、と頭を優しく撫でてくれる真彩さん。
姉、という存在がいたらこういう感じなのだろうか。不思議と嫌な感じはしなかった。
頭に乗せられた華奢な手がとても暖かかった。
「俺が持つ異能力は【
説明が難しいんだが、情報解析能力と記憶の具現化、だな。
代わりに失くしたのは聴力だよ。ないというか、ほとんど聞こえなくて、この聴力補助機がないと暮らせない」
「だから礼央と喋る時は、ゆっくり大きく話してあげてね」
なるほど、しっかり覚えておかないと。
翔太さんと真彩さんのは個人でどうにかしている、といえ感じがしたけど、礼央さんのは協力しないとダメそうだ。
さて、最後……一番接しにくそうな圭人さん。
「僕のは、【
異空間に連れて行く能力。味方に使えば逃げることもできるし、敵に使えば拘束になる。
待ち合わせてないのは、ここに来るまでの記憶。
あ、君も持ってないんだっけ。同じだね」
冷たい言い方だけど、興味がないわけじゃ無さそうだ。多分そもそもとして人にあまり興味がない感じがする。
今もすぐにイヤホンをつけて、スマホに夢中だ。
礼央さんが怒ってるけどお構いなし。
一緒に行く任務の時は大変そうだなぁ……
何を考えているのかイマイチわからないし、いきなりやってきた私のことをあまりよく思ってなさそうだ。
気をつけよう、不用意な一言は彼には避けるように。
「皆さん、ご丁寧にありがとうございました。しっかりインプットしました」
「あ、分かっているとは思うけど僕らの異能については他言しちゃダメだからね?言ったら即クビだ、カタルシスを出てもらう」
「命令でない限り、そんな生産性のない行為はしませんからご安心ください」
「…………ねぇその喋り方、どうにかならない?」
「えっと……?」
何かまずいことをしてしまっているだろうか。
喋り方……これ以外にどうやって喋るのかわけらない。
それに相手はマスターだ。敬意を持って接しないと。
「……あれれ、もしかして分からない感じかな?
うーんと、じゃあ、私に続いて話してみて!
真彩ちゃん、これからよろしくね!はい!」
「真彩ち、さん。これから、よろしくお願いします」
「ええ〜っ⁈なんでぇ、最初いい感じだと思ったのに〜!!
もう一回!真彩ちゃん、可愛いね!はい!」
「真彩ちゃんさん、可愛いですね」
「んん〜惜しい〜!」
「真彩、諦めろ。多分これはそういうプログラムだ」
だってぇ〜と頬を膨らませている真彩さんは少しだけ子供っぽくて可愛らしく見えた。
ビーッビーッ‼︎
「⁈……敵は何人ですか、私が仕留めます。マスター達は下がって」
「えっ?……あぁ、違うよ。これは新しい任務の招集サイレン。僕たちが普段自由に過ごしすぎて、招集連絡すっぽかし過ぎたから、2年前くらいにつけられたの」
紛らわしいよね、と苦笑しながら私の銃を下ろして行く。
まずい、マスターからの攻撃命令がなかったのに銃を出してしまった。怒られる、かな。
「あははっ、そんなに怖がんないでよ。別に今の行動で君を怒ったりしない。僕らを守ろうとした行動だ、むしろ褒めてあげたいくらいだね。
さてと、今回の任務は……お、早速音透の出番だよ。バディは真彩だ、よろしくね」
「やった〜!この任務で音透ちゃんと親睦深めよ〜っと!」
ほら、行くよ〜と手首を掴まれて引きずられる。
なんだか部屋に残った翔太さん達が、哀れみの目を向けている気がするんだけど、どういう意味なんだろ。
とにかく、真彩さん腕離してほしい。
歩きにくいし、ちょっと痛い。
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