Catharsis−アンドロイド少女 音透の備忘録-
月野 蒼
Prologue
#1 クロノカルマ法施行
『…………続いてのニュースです。
日本政府は本日より正式に"クロノカルマ法"を施行することを発表しました。
この法律は、満15歳の国民に実施される試験を受け点数によって政府よりクロノカルマが渡されるというものです。
詳しく説明してくださるのはクロノス・センターの所長であられる宮原浩一さんです』
『えーそうですね、このクロノカルマというのは政府が定めた、今後の貴方の人生が書かれているものです。試験の成績によって、5種類の表紙の色に分けられます。
まず赤色は身体的能力に長けている人に渡されます。実技試験で行われる体力テストの点数をもとに決めていきます。将来有望なスポーツ選手を増やす目的です。
次に青色は思考力に長けている人に渡されます。
学科試験の点数をもとに決め、優秀な公務員や政治家を育てる目的です。
黄色は政府が定めた平均値を学科試験・実技試験共に収めた人に渡されます。
良くも悪くも普通の人生が送れることでしょう。
桃色は学科試験・実技試験に加え、心理診断で共感性や人格の良さが現れた人に渡されます。
端正なアイドルや芸能人を育てる目的です。
そして、最後は紫色。
これは実技試験を芸術審査で受験された人に渡されます。芸術への親和性を評価し、画家やバレエダンサーなど芸術性の高い職業へと斡旋されます。
以上がクロノカルマの大きな特徴です。
また、色の中には濃度差があり濃い方が幸福指数が高くなるように設定されています』
『なるほど……しかし、政府はどのようにしてこの法律の制定・施行に至ったのでしょうか』
『現代人は職場でのハラスメントや向き不向きを敏感に感じ取ります。
少し前の世代の人ならば我慢できたことでも、それは以前の話。
新しい人材を雇う側になった我々は、日々アップデートされる価値観に合わせなければなりません。
ブラック企業、ホワイト企業と名がついてしまうのも、若い世代の離職率が高いことも、環境を整えれば、ある程度は予防ができるでしょう。
また日本人は”みんな”という単語に弱い。
みんな持ってるから、みんなやってるから、などと言い訳をしたことは誰にだってあるでしょう。その心理を利用し、現代社会の問題を解決する。
つまり、自分の頭脳や体力値で決められた職業ならば離職率も低下し、幸福指数は上昇すると考えているのです。
そして、クロノカルマによって精神疾患になったり何か不安なことがあったときにはここクロノスセンターを訪ねて頂ければ大丈夫です。
私たちが全力でサポートさせて頂きます』
『なるほど!手厚いサポートも受けられるということですね』
『はい。そして、この法律は15歳になった国民の皆様が高校で試験を受けるというのが予想していた形ですが、既に社会人になられている方や大学生の方でも受けられるように各都市に特設会場を設けました。もちろん、今の環境に満足している方々は無理に受験する必要はございません。
現在高校生の皆様は、高校で受けることができますのでご安心ください。
大学生以上の受験費はこの一年に限り無料ですので、奮ってご参加ください』
長い説明。
これがテレビじゃなかったらすぐに寝てただろう。
真ん中に置かれたモニターにも同じような説明が載っている。
その横でポインターを使いながら得意げな笑みを見せるクソジジイに部屋の後方からポテトチップスが飛んだ。
「こら、圭人。食べ物を投げるんじゃない」
「うるさ。本人が汚れたんじゃないから別にいいじゃん。真面目だな、礼央は」
「全く……」
部屋の皆がイラついてる。
それもそうか。あくまでこの法律が国民に利益のあることのように演じているんだから。
きっと騙されてホイホイ受けに来る人が多いんだろうな。そんなんで決まった職場で満足できるのか知らないけど。
「あ、モニター変わったよ!次私達の話じゃない?」
真彩の声に結局みんなテレビに視線を注いでいた。
『宮原さんに一つ質問があるのですが?』
『はい、構いませんよ』
『近頃、世間を騒がしている異能力者による事件について……警察によると彼らはいずれも白い本を所持していたとのことですが、こちらもそのクロノカルマとやらなのでしょうか?』
鋭い視線で見られた男はスッと目を細めた。
政府からしてみたら僕らは秘匿にしたい存在のはず。
さて、どのように説明するんだろうか。
『……彼らは政府の協力者なのです。彼らが起こす事件はさしずめ犯罪を抑制するための犯罪と言えます。
警視庁と連携を取り、生身の人間が立ち向かうには凶悪すぎる犯罪者に彼らの異能力を使ってもらい、非異能力者の平穏を守ってもらっています。
危険な仕事を受けてもらう代わりに生活の支援をして、Win-Winの関係を築いているのですよ』
『では、この先も試験の結果によっては白色を貰う方もいるということでしょうか?』
『いないとは言い切れません。しかし、異能力は先天的なものが多く、後天的に目覚める場合は1%を下回るでしょう。
ですので、試験を受けたことで危険な仕事をさせられるということはありませんのでご安心ください』
『なるほど。よく分かりました』
『このように質問がある方は気軽にセンターまでご連絡頂くか、ホームページの問い合わせフォームへお寄せください』
『……はい!ここまではクロノスセンターの所長、宮原浩一さんにご一緒して頂きました。
ありがとうございました!』
『ありがとうございました』
軽快なリズムと共に次のコンテンツに移ったニュース番組。
それに反するかのように僕らの空気は沈んでいた。
「協力者、ねぇ〜」
「上手く言われちゃったね。別に私たちもやりたくてあんなことしてるんじゃないのに」
「だけど僕らが日常生活に溶け込めるかといったら答えは否だ。実際、異能力があるってだけで穿った見方をされる訳だし」
「そうなんだよね〜」
落ちたポテチを拾った真彩がテレビを消せば、静かになった部屋に通知音が響いた。
「翔ちゃん、任務?」
「いや、違う。
……………新しい仲間が来るみたいだよ」
僕の声と同時に部屋の扉が開いた。
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