第七十三話 お土産は何にするのか


 七月二十五日、午前八時七分。


 昨日の一件で目が冴えてあまり眠れなかった俺は朝早くから全員の朝食作りに精を出していた。


 流石にバーベキューコンロを使うと後片付けが大変になるので、合同の炊事場にあるガスコンロを使用して料理をしている。俺達しか利用客がいないから貸し切りだしな。


 結局おにぎりは夜食で全部食べたみたいなのでご飯は五合だけ炊く。


 出汁を取って豆腐と玉ねぎを具にした味噌汁を作り、少しだけ残っていた鶏肉や豚肉で野菜炒めを用意した。


 あまり消費されなかったアサリもバター炒めにしたし、卵もあったのでプレーンオムレツも用意しているぞ。


あきらさん、おはようございます。言っていただければ手伝いましたのに」


「おはよう佳津美かつみ。ごはんにしたけど良かったかな? 朝食はパンって人には一応オムレツもあるし、ベーコンを焼いてパンにしてもいいとは思うけど」


「わたくしはせっかくですのでごはんを頂きますわ。テーブルを準備してきますの」


「おはようさん。朝はようからやっとりまんな」


「流石はあきらさんっス」


「おっはよう~、あきらっ。ごはんありがとう」


 朝ごはんの準備が出来たあたりでみんなが起きて来た。


 こういった準備は早起きした奴がやればいいし、朝飯だからそこまでがっつり食わないだろ?


 足りなかったらスナック菓子で昼まで持たせてくれればいいんだけど……。


 朝食を食べた後から始めていたバーベキューコンロなどの後片付けも終わり、コテージに備え付けられていた木のテーブルの上に持って来ていたお菓子などを乗せてそれを食べながら他愛ない話をしていた。


「何か……、あったんですかね?」


「多分、間違いないと思う」


「問い質したいところですけど、聞くだけ野暮だと思います」


 宮桜姫みやざき達は何か話しているみたいだが、昨日の佳津美かつみとの会話自体は知られていないようだな。


 流石に盗み聞きに来ていたら気配で分かるし、雰囲気で何事か察したんだろう。


「さて、名残惜しいがこの辺りで切り上げるぞ」


 荷物を車に積み終えた神坂がコテージの椅子でくつろいでる宮桜姫達にそう伝えた。


「まだ早くないですか~?」


「せめてお昼ご飯は此処で済ませて帰りませんか?」


「あまり遅くなると高速道路を走ってる最中に日が暮れちまう」


「流石にまだそれは無いと思うが、そこの海泉うみさとでお土産くらい買うのは良いと思うぞ」


「お土産っスか。いいっスね」


「買うのは良いが、もう開いてるのか?」


「レストランは十一時からだが、お土産用の売店は十時開店らしい」


 流石にその位はチェックしているさ。


 俺達はともかく、鈴音辺りはお土産を買うんじゃないかと思っていたしな。


 高速道路のサービスエリアで買う事もできるけど、お土産になりそうなものがあるとは限らないし。


 結局全員で海泉うみさとに行く事になったけどな。


「みてみて~、こ~んなの売ってるよ♪」


「カラフルなかえるのキーホルダー? この辺りはかえるに何かあるんですか?」


「たぶん違うと思うよ。この辺りのキーホルダーはどこでも見かけるらしいし」


 特産品とは何の関係が無いのに並べられているおおきなかえるのキーホルダーをはじめ、小さな刀のキーホルダーとかいろんなものがずらっと並んでいる。


 半分以上はここと関係ないじゃん。特にこの辺りのモミジとかしゃもじのキーホルダーはうちの県の土産だろうに。


「ペナントはともかく、キーホルダーなんかは県内各地から取り寄せました~って感じのラインナップだよね」


「この小さいフグのキーホルダーは可愛くて良いな♪ これ、小妖精プチ・フェアリーのみんなに買って帰っちゃお」


 一列ごっそり取る鈴音を見て店員がぎょっとした顔になったが、俺達の顔に見覚えがあったのかそれ以上は反応が無かった。


 有名だとこういう時に便利で良かったりするけどな。


「そう言えばサザエやアワビなんかの海産物は通販で入手できるらしいぞ」


「さっき店員もわざわざサイトの情報入りの冊子をくれましたわ。天然サザエがキロ二千円からって格安でんな」


 貝類は殻の重さもあるから重量通りの物とは限らないけど、天然物のサザエの値段から言えば格安だったみたいだ。


 問題は送料の方で、現在では居住区域を跨いで配送する場合は小さな小包ひとつに最低でも三千円ほどかかる。


 俺達は気にする額じゃないし、あのクラスのサザエが食えるんだったら安いもんだ。


「寮の調理場でサザエを焼いたら多分苦情が来るぞ。昨年の話だが、寮の共用台所で殻付きの牡蠣を焼いた猛者もさがいたらしくてな」


「入寮時に寮長はんから釘は刺されましたな。やり方次第でどうにでもなりまっが」


「いざとなれば中庭に七輪持ち出して焼けばいいさ。確か認められていた筈だ」


「牡蛎を焼いた猛者もさに対して、焼きたけりゃ外で焼けって言った為に認めざるを得なくなったってアレか?」


 言質を取ったあいつは意気揚々と中庭に七輪を持ち出して牡蛎を焼き続けたらしい。


 その猛者もさは当然情報技術部部長の瀬野せの右三郎うさぶろうだ。それ以外にもいろいろやらかしてる奴だがな。


「その辺りは後でもいいだろう。何か買わないのか?」


おうさんは何か買いまへんのか?」


「お土産って言っても渡す相手がいないだろ? 記念にって事だったらこの辺かな?」


「中にLEDが仕込まれたデカいフグの飾りか。確かに記念になるだろうが……」


「部屋に飾ったら存在感が半端ないっスよ」


「そうだよな、俺もそう思う」


 とりあえず却下と。


「実用的なのはこの辺りじゃないか?」


「萩焼の徳利とお猪口のセットか。俺はお前ほど日本酒を飲まないし」


あきらはどっちかというとウイスキー派だったな。俺はこの辺りを買って来るとするか」


「わては同じ焼き物でも菓子でんな。別に形が残らんものでもええやろ」


「そうっスね。この辺りのお菓子を適当に買っておくっス」


 出来るだけ賞味期限の長い菓子を大量に買い込んでるな。


 滅多にない大口の客に向こうの店員は喜んでるぞ。


「夫婦湯飲み……。これ、いいですわね」


 佳津美かつみが何か言って湯呑を買っていたが、昨日の話を納得してくれたんじゃなかったのか?


 いつか使う予定って事だったら問題ないけどさ。


 他にもそれぞれが名物のかまぼこや銘菓などをいくつか選び、海の家で昼食を済ませた後で来た時よりも多い荷物を車に積み込んで海水浴場を後にした。


 楽しいキャンプだったが、帰るまで気を抜いたら駄目か。


 また数時間かけて学校に戻らないとな……。

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