第五十三話 苦しい撤退戦の終わる時【神坂蒼雲視点】
GEが近付いてこなくなる安全区域までは目と鼻の先なんだが、そこに到達してしまうとせっかく誘い出したこの大量の
そんな事になれば本末転倒だし、せっかく上手くいきかけているこの計画が台無しになるからな。
「もう一撃加えて
「そうすれば確かにこれだけの数の
「これだけの数を倒せればかなり攻略は楽になると思いますが、わたくしたちに課せられた任務は討伐ではなく誘導ですのよ」
「
そもそも学生AGEだけで
前回は条件が揃っていたし、今回狙ったKKIの
作戦自体は上手くいっちゃいるが、ワンミスで全滅しかねない危険な状況なのは間違いない。
「ヤバイな。あとどのくらい持つか分からないぞ」
「弾の残量は十分ですが、押し寄せて来るGEの数も相当ですの」
「この迎撃地点が地形的によくなければ、もっと厳しい戦いになってたっスね」
「少なくとも後ろからは攻めてこないからな。見通しもいいし、最高の迎撃地点を設定してくれたもんだよ」
この辺りは流石というか、
伊藤も撤退ルートを選ぶ際に空を飛べなくて動きの遅いMIX-Pが遠回りしないと迫ってこれない地形や、出来る限り俺たちが囲まれにくい場所を選んでくれていた。
その場所に誘導してくれたから俺たちは何とか撤退戦を続けられているんだけどな。
「
「いや、俺たちが撤退を始めた時点であいつは突撃するだろうし、あと十分程度なんじゃないかと思うんだ」
「あと十分ですか。結構厳しいですよね」
経験の浅い
この状況は体力的にも割とハードなんだが、それ以上に精神的に
結成後間もないAGE部隊が壊滅する時は、体力的に追い詰められた場合より精神的に追い詰められた時の方が多い位だ。
いつも明るくて様々な話題を提供して笑わせて来る窪内や、雰囲気を察しておどけて見せる
「
「そうっスね。前回の百足型のリビングアーマークラスだと苦戦する可能性も……」
「今回は最低レベルの
「状況ってもんがある。ある程度の距離が稼げればどうにでもなるし、体制を整えた後で接近戦に持ち込めば問題はないだろうが」
問題は
狭ければ攻略は楽だろうが、その限定的な空間で攻撃範囲の広い
負けるとは思わないが、攻略に時間がかかる可能性は十分にある。
「伊藤です。あと十分以内ですと、目の前にいる一団を倒せば何とかなります。十五分後ですと飛行タイプの
「……障害物を無視して迫ってくるからか?」
「池を縦断してくる
地形をどんな形で移動するかや、移動速度で大体の傾向を予測してるって訳か。
しかもその分析はかなり正確で、今まで一度も間違えた事が無いんだよな。
「飛行タイプに備えるっス」
「わては地上の
「
戦闘モードに入ると竹中も昔に戻るんだよな。
「時間的にはあとちょっとか……。ん? あの光……、それに周りのGEが……」
「自壊を始めたっス!!」
「やりやがったんだ!! よっしゃ!!
目標の中学校の方角に光の柱が見える。そしてそこから降り注ぐ大量の光の粒子も……。
周りにいた大量のGEは動きを止めて自壊をはじめ、俺たちに迫ってきていた絶体絶命のピンチは地面を埋め尽くすオハジキ大の
池の上を飛んでいた飛行タイプの
「伊藤で~す。
「ああ、孤立化させた内部にある
「近くにある分は拾っていきますか? あの攻撃を加えた
「そうだな。これだけ苦労したんだし……」
と言っても全部は回収しきれないし、回収する必要もないだろう。
緊急放送が流れているし、AGE部隊や守備隊は全員呼び出されて捜索を始めるんだろうしな。
多少は手間賃だ。
「あの
「予想される救出人数は五万人。僅かひと月ほどで十五万人も助け出した
「いろんな形で救われた人はその数倍はいるよ。わたしもそうだったけど、あきらは本当に凄いから……」
これから先に彼女たちの歌声で心を救われる者も多いだろうし、勇気を貰える人もいる。
それを奴らの魔の手から取り戻したのは紛れもなく
「やっぱりすげぇ奴だよな」
「今更ですのね」
「付き合うのは大変っスけどね」
「違いない」
その分見返りも大きいけどな。
俺達の手で多くの人の命を救えたんだ。
それは十分誇ってもいいだろう。
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