第六話 日常的な放課後の部活動


 全員が囲んでいる大きなテーブルの中央には伊藤いとう聖華せいか特製のバタークッキーとチョコチップクッキーが木製の小鉢に入れられて並べられている。


 その他にも先ほど窪内が目の前のコンビニで買ってきた『ボス、タラコッス』という明太子を使用したスナック菓子と、『ヤマイモ&自然薯』という怪しいポテトチップスが並んでいた。


 多くの視線が集まるこの商品は二つとも新商品だ。


 飲み物は各自用意していたが、この部室にはミネラルウォーターとお茶それに珈琲は専用のサーバーがありコップさえ持ってくれば飲み放題となっている。

 楠木はそのサーバーを使って珈琲を淹れて楽しそうに鼻歌を歌いながら、そこに角砂糖を四つと珈琲用クリーミーパウダーを大匙で二杯も投入していた。


「お待たせしました。では、今日の活動を始めましょか?」


 副部長で副隊長の神坂はこういった進行役にはあまり向いておらず、その神坂よりも進行役に向いていない俺に代わっておどけた声でいつもどおりに窪内が話し始めた。


「まずは、先週の戦闘の精算報告と、配分についてでんな」


 部室にあるPC用の大型モニターに収支報告と戦闘データなどが表示される。


 昔は部隊で行動している時のGEの撃破を部隊の戦果とするか、それとも個人の戦果にするかの選択権は部隊に任されていた。

 しかし、数年前に全戦果を一人の隊員に献上させて強引にセミランカーに押し上げるといった不正行為が発覚したから、拠点晶ベースやGEの撃破実績は撃破した本人のみ戦果として報告できるという決まりが出来た。

 俺達がAGE活動で使っているゴーグルには小さなカメラもついており、あまりにも怪しい報告を繰り返すとその画像データの提出時を求められる。


 とはいえこのほかにも隊員が掻き集めた無数の魔滅晶カオスクリスタルを一括納品させてポイントを稼ぐという手段もあるが、隊員数が余程多くないとランキングをそこまで引き上げる事は出来ず、作戦行動に参加した人数と納品人数の差であっさりと発覚する上にあまりやり過ぎると魔滅晶カオスクリスタル買取ポイントの下方修正という悪夢のような事態が待っている為におおっぴらにそれを行う部隊は少ない。


 その為に拠点晶ベースの撃破ボーナスやポイントは俺ひとりに集中し、中型GEミドルタイプの撃破実績も俺との共同撃破と言う形になる事から入手したポイントを隊員に分配する事に決めた。


 ランクには影響しないが、ポイントがあれば買いものにも使えるからな。


 その他、小型GEライトタイプの撃破実績は個人実績となり、回収した魔滅晶カオスクリスタルは部隊でまとめて精算して運営費を除いて公平に分配されている。


「そんな細かい事は窪内あんたと輝に任せたから。べつに今まで通りで問題ないでしょ」


「そうですよね~。私達は後ろでノートパソコンを見ていただけですから。おまかせしま~す」


「おいおい、確かに|龍(たつ)の仕事は信用できる。丸投げで任せても問題ないが、楠木くすのき達も後で一応目を通しておけよ」


 この部隊の原則として使用した弾は誰がどの位使ったとしても一切関係なく、まとめて精算する決まりになっている。


 俺が全員無駄弾を使わない事を知っているからだが、これでも他の部隊だといさかいの種になったりしているんだよな。せこい部隊長も多いし。


 この部隊の隊員の良い所に【細かい事を気にしない】や、【面倒な事はとりあえず任せる、後で文句は言わない】があるが、他の部隊に転属した時の事を考えて毎回楠木達に注意を促すようにしている。でも一向に改善しないんだよな。


 うちは入部テストが厳しいから大丈夫なんだが、セミランカーやランカーに期待して部隊に入って殆ど戦闘に参加せずくっついてそのおこぼれを貰おうとする新入りも多く、どの部隊も隊員選びや補充人員選びには苦労していたりする。


「次の議題は装備の不備や不満についてでんな。今の装備を何とかしたい人はいまっか?」


 戦闘時に身に着けている服は対GE用の特殊な繊維で作られた物だ。


 窪内の様に特注サイズが必要な者はともかく、普通のサイズで事足りる者はデザインも含めてあまり選択の余地が無い。


 リュックやマガジンポーチ等も同様で、使う武器に合わせると殆ど同じ物になってしまう。多少は色とかが選べるが、よくて五色程度しかない。しかも全部地味な色だ。


「はいは~い。私もそろそろちゃんとした装備が必要で~す。特に銃はあんなちっこいのじゃ無くて~、こう、が使ってる様なおっきなのを使ってみたいで~す」


 たっちというのは窪内のあだ名だ。一部の人間がそう呼んでいるらしい。


 伊藤には帝都角井製のMP7A1という銃を持たせている。


 小型で軽量、フルオートも可能と小柄な彼女が使う分には申し分の無い武器を選んである筈だ。


 一方で窪内が使っているのはM60E3のフルカスタム。


 元は防衛軍特殊兵装開発部の坂城さかきの爺さんからAGE事務所経由で支給された試作銃だったが、窪内自らが長い時間をかけて調整して作り上げたものだ。


 重量も十キロを越える為、部隊の中でも窪内以外にこれを装備してGEと戦闘が出来る者は居ない。


「なんでしたら、後で奥の部屋でつこうてみまっか?」


 窪内は満面の笑みを浮かべてそれを進めている。アノ顔は結果が分かってて言ってる顔だな。


「え~ほんとにいいんですか? ありがとうございま~す」


 そしてそれに気が付かずに喜ぶ伊藤。


「何事も経験か……」


「そうっスね」


「楽しみだな」


 結果が分かっているのか、霧養や神坂も横で苦笑いしている。誰一人として止める奴が居ないなんてな……。


「では、最後に次の攻略拠点晶ベース選びに入りましょか? 全員、端末に注目して~な」


 端末の画面にレベル二環状石ゲートと、それを一定間隔で取り囲む拠点晶ベースが表示された。


 幾つかの地点が空白なのは、ここ数年で俺や他のAGE部隊が拠点晶ベースを破壊してきた証でもある。といっても、九割がたは俺が破壊したんだけどな。


「ここか、もしくはこれを破壊できたら、この居住区域の安全性は格段に上がる」


「いやいや輝さん、其処は危ないっスよ。無難にここか、この拠点晶ベースがいいっス」


「私は護衛じゃなければ何処でもいいけど。あんまり強いGEの所はやめてほしいかな……」


 幾つかの提案が表示され、提案した部員から提案した理由と攻略する為のルートなどが表示された。


 反対意見を出す時には代案や明確な反対理由が必要な為に何となくでは意見が通らない。その為に俺の提案に対して他の部員から意見が出され、別の攻略ポイントが提案されてそれに対してまた意見が交わされる。ワンマンで独裁的な部隊長なんて流行らないからな。


「多数決を取りまっせ。目標の拠点晶ベースを手元の端末で入力してくださいな」


 画面に各々が入力した攻略拠点晶ベースが点灯する。


 廃棄地区KKS一一五、KKS二七六の二箇所に複数の票が投じられている。


「廃棄地区KKS一一五に五票、KKS二七六に二票。よって攻撃目標の候補をKKS一一五にしたいと思います。|凰(おう)さん、いいでっか?」


 最終判断は部隊長である俺に一任されている。


 一応の形であっても採決を取るのは俺の独断と強要を避ける為だが、あまりにも現状とかけ離れた結果になった場合にのみ決定を覆そうと思っている。


「問題ない。採決通りに廃棄地区KKS一一五の拠点晶ベースを次の攻撃目標とする。なお、他のAGE部隊によって先に目標拠点晶ベースが破壊された場合には再度目標の選定を行う、以上」


 部隊の方針が決まりれば後はやることが山ほどある。目標になった攻略拠点晶ベース周辺の状況やその辺りを作戦行動範囲にしている別部隊の調査が必要だし、作戦を民間防衛組織に申請する必要もある。戦闘区域は基本的に立ち入り禁止になっているからな。


 情報収取に関してだが、調べなければいけない事はまず第一に目撃されているGEの種類。小型GEライトタイプ中型GEミドルタイプが中心なのか? それともこの辺りのゲートでは滅多に出会う事の無い、大型GEヘビータイプが存在するのか? といった情報。


 この辺りの情報をほんの少し見落としただけで、部隊が受ける損害は計り知れない。


 他の部隊が展開している戦場を荒らすのは快く思われ無いから、他の部隊が活動していないかも重要なポイントになる。


 その日だけでなく何ヶ月もかけて拠点晶ベースを攻略するAGE部隊も存在するから、その部隊が苦労してGEを排除した後で拠点晶ベースだけ他所の部隊に破壊されるのは流石にいい気がしない。


 例え、その部隊が拠点晶ベースを破壊できる手段を持っていなかったとしてもだ……。


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