世界はおしなべて言語から生ずる

 気の迷いでついにイタリア語始めました。


 といっても文法書まで揃えての本格学習ではありません。〈Duolingo〉で遊び半分にポチポチやっているだけ。前に通勤電車内で韓国語をやっている人がいて、気になってたんですよね…。


 しかし本命はドイツ語。


 この機械翻訳全盛の時代に何を今更…。しかも私は「英語で話したいことなど何もない。」という理由で一度は英会話学校を辞めた人間…〔*〕


 要因のひとつは、相方が「来年、オーストリアとか行きたい」と言い出したから。

 ゲゲッ、そうなるともろドイツ語圏じゃん…ここは私の担当かー…と。


 我が家は語派によって、旅行先の担当言語が決まっていまして。

 英語は共通としても、学生時代に趣味でドイツ語講座をとっていた私はゲルマン語派の英・独語を。

 一方、海外を飛び回っていた英語マニアな義父から「ポルトガル語は簡単だから、いいぞ」と勧められて第二外国語に同じイタリック語派を選択した相方は、スペイン語を。ちなみに双方の性格も担当言語圏に似てます(笑)。


 まあ、目標は耳を馴らすことなのでホントにお遊び程度なのですが、やってると面白くてですね。

 面白いのは語学学習そのものではなく、「戦争映画とミリタリー小説のルビ程度でしかドイツ語を知らない私でも、英語のスペルからドイツ語の意味がなんとなくわかる」とか、互いに相手の担当言語を聞いていて「相方はドイツ語が全くわからないが、片や、同じくやったことのないイタリア語は、何言ってるのか少しわかる」こと。

 さらに、これまでラテン語をやろうとすら思ったことのない私でも、「古代ローマやらキリスト教やらオカルトやらの本にちらっと出ていたラテン語から、イタリア語の意味がちょっとわかる」こと。


 おお~やっぱりラテン語は世界共通言語だったんだなあ(当時)、とか「やったことないけど言ってることはなんとなくわかる」っては、同じ語族に属している言語ならではだよなあ~、と、言語的に孤立している日本語では味わえない感覚を楽しんでいます。


 たぶん、今の時代に外国語を学ぶ一番の意味は、それだと思います。

 この“感じ”を知ること。


 単純に楽しいことばかりではなく、日本語をやっていると、英語の冠詞(aとかtheとか)にイラっときますが、ドイツ語をやると英語の冠詞なぞ簡単に思えて来、イタリア語の格変化に泣きそうになり、フランス語に至っては「これは日本人の声帯に発音できる音声ではない…」と早々に絶望して戦線離脱するに至ります。

 英語でもリエゾンで苦労するものの、イタリア語のリエゾンは音楽みたいで聞いていて楽しいですし、フランス語はもう「何でそんなことになっているのかもはや理解できない」。

 我々日本人は、“耳”と“口”で苦労していると思いますが、中華圏以外の外国人は、日本語において、“目”で同じような(それ以上の?)苦難を味わっているんだろうなと思うと、ちょっと慰められます。いつか、日本語学習者も「見たことない漢字だけど、なんとなく意味はわかる」という“感覚”を体験することがあるんでしょうか。


 それから、知らない言語の場合はいわば文盲の状態からスタートするのですが、学習を重ねていくと、ある時、「何言ってるかわかる」「何が書いてあるかわかる」瞬間が訪れます。

 この、世界が突然明るく開けたようになる“感じ”、ちょっぴり癖になります(笑)。


 現代日本に暮らしていて、普通に日本語の識字能力があるカクヨムの書き手が、「読み書きができること」をどこでも・いつの時代でも当たり前だと思っていると、識字率が低いという設定のファンタジー世界(現実世界でもですが)に暮らす文盲のキャラクターの“感覚”を体験できる機会って、他言語学習くらいしかないのでは。自分で経験すると説得力が違う。

 始めてみると、最初は意味不明のアルファベットの羅列に見えていたイタリア語が、ちゃんと一定の規則をもって並んでいるように“見えてくる”んだから不思議。文字列が勝手に移動したわけではないので、脳内の配線が新たにつながったんでしょうな。


 あとは、それぞれの言語に、特徴的な言い回しがあるのを知るのもめっちゃ楽しい。


 Io sono come san Tommaso.〔伊〕

 「私は聖トマスだ」=疑い深いんだ、なんて、さすがイタリア…ていうか、恐るべしキリスト教…。 

 前々から言っていることではあるんですが、「言葉はわかるが、意味がわからない」場合、文化的な背景知識が必要になるんですよね…。それこそ古代ローマとかギリシャ神話とかキリスト教とか…。 



 * 「イタリア語を話したい!」という理由で退職してイタリアに語学留学し、その後イギリスにも留学し伊・英語をマスターした末に、現在は語学力と全然関係ない仕事に就いている友人に話したら爆笑された。ちなみに彼女は日本文学科に入学後、「日本文学に全く興味がなかった」ことに気づいたとのこと。

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