第61話 モデル

 

 「笑、欲望はその辺して本題に入るわよ」

 「欲求不満」


 笑さんは欲望を抑えきれずに妖艶な銀色の瞳で俺を見つめる。


 「私を食べて」


 笑さんは雪のような真っ白な細い手で俺の頬をさすり、その手は徐々に首へ、胸へ、お腹へと徐々に下半身へ近づいていく。

 笑さんの雪のような冷たい手が体に触れる事で、逆に俺の体は熱くなり興奮を抑える事ができない。始めて感じる女性の体温、手のひらの感触、そして、笑さんの温かい呼吸に俺は勃起してしまう。


 「大きくなった」


 笑さんは俺の体の変化にすぐに気づいた。笑さんは妖艶な笑みを浮かべ可愛いピンクの唇から舌を出し、甘いケーキを見るように俺の股間を眺めている。

 笑さんの冷たい手はお腹を通り越して俺の股間に近づいた。


 「これでも加えてなさい」


 鼓さんは笑さんの口にキュウリを突っ込んだ。


 『ボリボリ・ボリボリ』

 「うまうま」


 キュウリをかじった笑さんは生気が抜けたかのようにおとなしくなり、リスのようにキュウリにかじりつく。


 「これで大丈夫ね」


 鼓さんは安堵の笑みを浮かべる。笑さんはキュウリを食べると性欲を失いおとなしくなるらしい。なので、鼓さんはいつも新鮮なキュウリを持ち歩いている。


 「昴君、笑が暴走してごめんね。本当はこんな事をする為に呼び出したのではないのよ」

 「いえ、気にしてません」


 妖艶で美しい笑さんに迫られて困る男性などいない。あのまま笑さんの思うがままに体を預けるのも悪くわなかった。俺の股間は未だに興奮がおさまらず勃起状態であり、少しでも刺激を与えるとズボンにシミが出来るだろう。逆にこんな状態で終わらせられる方が地獄である。しかし、そんな事は言えるわけがない。


 「笑、落ち着いた」

 「うん、うん」


 笑さんはソファーの上で三角座りして俺に優しく微笑む。


 「笑、本題に入るわよ」

 「うん、うん」


 「昴君、シルバー事務所に所属してくれないかしら」  

 「Hしよ」


 二人は同時に喋り出す。しかし、明らかに内容は違う。笑さんはソファーからカエルのようにジャンプした。すかさず鼓さんが笑さんの口にキュウリを突っ込む。


 『ボリボリ・ボリボリ』

 「うま、うま」


 笑さんはキュウリをかじりながら俺のお腹にのしかかり、笑さんの柔らかいお尻が俺の股間に当たった。


 「トイレを貸して下さい」


 俺は慌てて立ち上がり股間を両手で抑える。


 「リビングを出て白い扉がトイレよ」


 鼓さんはすぐに状況を理解してトイレの場所を教えてくれた。俺は一目散にトイレに駆け込んだ。


 「昴君、大丈夫」

 「体は問題ないのですが・・・」


 俺のパンツはベトベトなりズボンに薄っすらとシミがついている。


 「近くのドラッグストアーでスエットと下着を買ってきてあげるから、奥のシャワーを使って体を洗い流して」

 「はい」


 「笑、買い物に行くわよ」

 『ボリボリ』


 笑さんはキュウリをかじっている。


 「さすが昴君ね。いつもならキュウリ1本でおとなしくなるのに・・・」


 鼓さんはため息をつきながら呟く。


 「行くわよ」

 『ボリボリ』


 笑さんと俺を二人にするのは危険なので鼓さんは笑さんを引っ張って一緒にドラッグストアーに向かった。俺は二人が居なくなったのでズボンを脱いでお風呂場に向かった。

 10分後には二人は部屋に戻って来て、お風呂場の前に下着とスエットを置いて行く。


 「昴君、着替えを置いて置くから着替えてね」

 「私が温めた」


 スエットは一度笑さんが着て温めてくれたらしい。下着も履こうとしたが全力で鼓さんに止められた。俺は鼓さんが買ってきてくれた下着を履いてスエットに着替える。スエットは笑さんの甘い香りがしたので、本当に一度着たのは間違いない。

 

 「次こそ本題に入るわよ」

 「うん、うん」


 キュウリを2本食べた効果で、笑さんの淫乱モードはおさまり今回はスムーズに話が進みそうな気がする。


 「昴君、シルバー事務所に入ってくれない」

 「うん、うん」

 「シルバー事務所?どういうことですか?」

 

 「シルバー事務所は、モデルを中心とした芸能関係の事務所よ。今日本で活躍しているトップモデルの半数はシルバー事務所に在籍しているの。もちろん、モデルだけでなく俳優、女優、バラエティーなど多数の芸能人が在籍しているわ」


 俺は芸能関係には全く興味がなかったのでシルバー事務所と言っても意味がわからなかった。


 「俺が芸能事務所に・・・俺・・・事務作業など全くした事はありません」

 「違うわよ昴君、あなたにはモデルをやって欲しいの」


 第二の人生を手に入れてイケメンに生まれ変わった俺だが、未だに自分がイケメンである事を忘れてしまう事が多い。


 「俺がモデル???」

 「そうよ!昴君ほどのイケメンが、ただの学生生活をおくるのはもったいないわ。もちろん、学業優先で仕事は土日祝日だけにするわ」

 「うん、うん」


 俺は今月からバイトを始めるつもりだ。バイトをしながらモデルをするのはかなりハードになる。それに、自分のレベル上げもしないといけないし、勉強もしなければならない。俺はモデルまでは手が回らないと判断する。


 「ありがたい話だけどお断りさせてもらいます」

 「なぜ?昴君ほどのイケメンならどこの事務所も放っておかないわ。学業も大事だけど、自分の才能を生かした道を歩むべきよ」

 「うん、うん」


 「俺の家はシングルマザーなんだ。親に金銭的な苦労をかけたくないからバイトを始めるつもり。だから、モデルなんてしている時間はない」


 俺もバカでない。いくらイケメンでも、すぐにモデルとして活躍できるはずはない。どのような業界でも最初から上手くいくことなんてない。最初は厳しい下積みを経験し、多くの人に支えられ徐々に成長して、一人前のモデルとしてお金を稼ぐ事が出来る。俺にはそんな余裕はなかった。



 

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