第8話 嫌なヤツ
「昴君、ベットメイキングの担当者を紹介するのでこちらへ来てください」
俺は仮屋園主任に連れられてリネン室に向かった。
「昴君、シーツの交換は2人1組でおこないます。しかし、今は人員が不足していますので担当者は3名しかいません。担当者は私と大垣さん、御堂さんです」
「大垣です。昴君が応援に来てくれてホント助かるよ」
大垣さんは中肉中背の30代後半の男性である。ふっくらとした顔立ちは人が良さげな感じがした。
「御堂です。私はまだ入社したてなので教えるほど詳しくありません。一緒にがんばりましょう!」
御堂さんは茶髪のショートカット、小柄で細身の30代前半の女性である。
「今日は僕と昴君でペアを組むから、大垣さんは御堂さんとペアを組んで下さい」
「はい」
「わかりました」
「今日は2階の東側の部屋がシーツ交換の日になっています。シーツ交換が終わったら、大垣さんたちはリクレーションの手伝いに行ってもらいます」
「はい」
「わかりました」
「それでは昴君、交換したシーツを入れる籠台車を運んでください。大垣さんと御堂さんは新しいシーツの籠台車を運んでください」
「はい」
俺はがんばって大きい声で返事をした。
リネン室には新しいシーツが積まれた台車が2台、交換したシーツを入れる台車が2台用意されていた。1人ずつ台車を押しながら業務用のエレベーターに向かった。台車は大きいのでエレベーターには2台しか乗ることが出来なかったので、先に俺と仮屋園主任が乗る事になった。
「はぁ~だるいわ。なんで俺がガキのおもりなんてしなければいけないのだ」
仮屋園主任は、エレベーターで2人になるとあきらかに態度が豹変して愚痴をこぼす。
「お前、しっかり働けよ!」
バカにしたような冷たい目つきで俺を見る。
「行くぞ!バカ」
エレベーターが2階に着くと仮屋園主任は吐きつけるように俺に命令する。
「は・・・はい」
自分よりも弱い者を見ると態度が急変する人間を俺は何度も見た事がある。俺は見た目が不細工でデブでチビだからなめられやすい。そのうえ気が小さいから言い返す事もできない。仮屋園主任のようなタイプには、はっきりと言い返さないと、ずっとなめた態度をとられる事は百も承知である。しかし、俺は言い返す勇気がないので言われた通りに従う。
「奥の部屋からシーツを交換していくぞ」
「はい」
俺は仮屋園主任の後を付いて行く。
部屋はシーツ交換をするのでカギは空いている。仮屋園主任は部屋の扉を開けて先に中に入る。
「台車は表に置いて置け!」
「はい」
「布団のカバーを外して台車に運べ」
「はい」
仮屋園主任の高圧的な言葉に俺はビビってしまいアタフタしてしまう。その為、俺は布団のカバーを外すチャックを見つける事ができない。
「お前、ほんま不器用だな。こんな事もまともにできないのか!」
「すみません」
俺は今にも泣きそうになりながら必死にチャックを探す。
「仮屋園主任、新しいシーツを通路に用意しました」
通路から元気で明るい声が聞こえた。
「ありがとう。御堂さん」
仮屋園主任が一変して優しい声で返答する。
「おい!まだもたついているのか。早くしろ」
仮屋園主任は部屋の外に聞こえないように小声で罵倒する。
「すみません。すみません」
俺はなんとかチャックを見つけて、布団カバーを外し終えた。
「外し終わったなら外の台車に運べ」
「はい」
「次はベットのシーツを外せ」
「はい」
俺は仮屋園主任に言われるがままに従う。
「シーツが外し終わったら、新しいシーツと布団カバーをつけろ。やり方はわかるよな!」
「はい」
シーツ交換はさほど難しい作業ではない。しかし、要領よくしないと時間がかかってしまう。入居者さんをあまり待たせるわけにはいかないので、2人1組でテンポよく終わらせないといけない。しかし、仮屋園主任は全部俺にやらせるので時間がかかってしまう。
「ほんまお前はクソだな。もっと早く出来ないのか!俺はいつも1人でやっているんだぞ」
「すみません」
「手を止めるな!」
「すみませぇん」
俺は文句も言えず1人でベットメイキングをしていたのでなかなか進まない。
「仮屋園主任、こちらは終わりました」
「大垣さん、御堂さんお疲れ様です。2人はレクレーションの手伝いに行って来てください」
「仮屋園主任、本当によろしいのでしょうか?そちらはまだ半分も終わっていません。時間的に間に合わないと思います」
「いやぁ~~。昴君に丁寧に教えていたら時間がかかってしまいました。でも、一生懸命がんばっている昴君を責めるわけにはいきません。入居者様には迷惑をかけたくはありませんが、本田課長に30分ほど遅れると伝えてもらえないでしょうか?」
「仮屋園主任、私も手伝います。仮屋園主任だけ大変な思いをさせるわけにはいきません」
「そうです。私も手伝います」
「大垣さん、御堂さん、ありがとうございます。お手数をかけますが手伝ってくれると助かります」
仮屋園主任は嬉しそうに笑顔で答える。
「御堂さん、奥の部屋からやりましょう」
「はい」
大垣さんたちが手伝ってくれたのでギリギリ時間までにはベットメイキングを終える事ができた。しかし、仮屋園主任は一度も手伝う事はなくスマホをいじってさぼっていたことは誰にも言えなかった。
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