第9話 外面

 「昴くん、ベットメイキングは大変だったかな?」


 仮屋園主任の陰険なやり口に俺は精神的に疲れていたので、元から暗い表情がさらに暗くなっていた。そんな俺の変化に気づいた御堂さんが声を掛けてくれた。


 「だ・・・大丈夫です」

 「本当に?なんだか朝礼で見た時よりも顔色が悪い気がするよ」

 「御堂さん、昴君は慣れない環境で疲れているのだと思います。少し休憩を取らせようと思います」


 仮屋園主任は俺を心配しているかのように声をかける。


 「それが良いと思います」

 「・・・」


 仮屋園主任が俺の事を心配しているとは思えないのでお礼の言葉を言わなかった。


 「昴君が来てくれて本当に助かったわ。でも無理はしないでね。あくまで自分のペースでがんばってね」


 御堂さんが俺の肩を叩いて励ましてくれた。


 「そうだよ、昴君。僕たちは本当に感謝しているんだよ。だから気にせずに休憩をしてくれたらいいよ」


 大垣さんと御堂さんのやさしい言葉にふれて俺はうれしかった。


 「私が昴君を休憩室に連れて行きます。大垣さんたちはレクレーションの応援に行ってください」

 「わかりました」


 大垣さんと御堂さんはレクレーション室に向かった。


 「あいつらはお前を甘やかしすぎなんだよ!。でも、俺も休憩が出来るから少しはお前も役にたったようだな」


 仮屋園主任は、俺を睨みつけて悪態をつく。


 「休憩室は職員室の隣にある。お前1人で行ってこい。15分経ったら迎えに行く」


 仮屋園主任はそういうと姿を消した。


 「なんなんだアイツは・・・」


 俺は思わずつぶやいた。しかし、本人の前では言えないのが俺のダメなところだ。仮屋園主任が仕事を全て俺に押し付けていたことを誰かに言うべきだと思うのだが、付け口したと後で仮屋園主任に怒られるのが怖くて俺は何も言えない。俺は休憩室に行き椅子に座った。


 「ベットメイキングをしたけど好感度ポイントは上がっているのかな?」


 好感度ポイントは、俺が行った行動に対して好感(感謝)を持たなければ、好感度ポイントは得られない。今回はボランティア活動の一環として、施設のベットメイキングをしたけど、誰かが好感を持たないと好感度ポイントは得る事はできない。俺はステータスオープンと言ってステータス画面を開いた。


 『好感度ポイント2 大垣さんから1ポイント、御堂さんから1ポイント入手しました』


 大垣さんと御堂さんは俺に対して本当に感謝をしていた。しかし、一番楽をしていた仮屋園主任からはポイントは付与されていなかった。これは、仮屋園主任が俺に対して敵意しかなく感謝はしていない事を示している。


 「ポイントが2入っただけでも良しとしよう。ポイントが10溜まればレベルを上げれるからあと8ポイントか・・・」


 仮屋園主任と一緒にボランティアをしないといけないのは苦痛だが、他にポイントを稼ぐ方法を思いつかないので我慢して続ける事にした。15分後仮屋園主任は休憩室に顔をだす。仮屋園主任からはかすかにたばこの匂いがしたので外で喫煙をしていたのだろう。


 「根暗のお前にはレクレーションの手伝いは無理だから食事の片付けをするぞ!」


 食堂に移動するのが出来ない人たちは部屋で食事をしている。その食事を運んで片付けるのも職員の仕事である。俺は仮屋園主任に案内されて西館に向かった。さっきベットメイキングをしたところとは別の建物になる。仮屋園主任は扉をノックする。


 『トントン トントン』

 「食事の片付けに来ました。入ってもよろしいでしょうか!」

 「どうぞ」


 部屋の中から小さなしゃがれた声がした。


 「おはようございます!下条さん。食事は美味しく食べれましたか」


 仮屋園主任は俺には見せない素敵な笑顔で声をかける。


 「いつも美味しい食事をありがとうね」


 下条さんは年齢は90歳くらいで髪は真っ白で優しそうなおばあちゃんである。しわくちゃの顔がとてもキュートで可愛げがある。


 「いえいえ、でも喜んでいただけるとうれしいです。食器を片付けてもよろしいでしょうか?」

 「おねがいしますね」

 「わかりました。昴君、食器をさげてくださいね」

 「は・・・はい」


 仮屋園主任の別人のような態度に俺はオドオドしてしまう。


 「あら?可愛らしい坊やね。新しい職員さんかい?」

 「僕は・・・」


 急に声を掛けられて緊張して言葉が上手く発せない。


 「この子は六道さんの息子で昴君と言います。まだ15歳ですが、社会勉強をするために春休みの3週間ほど施設のお手伝いをしてくれるそうです。こちらとしてはとても助かっています」


 仮屋園主任は平然と嘘をつく。本当に思っているなら好感度ポイントが入るはずである。


 「へぇ~六道さんの息子さんなのね。いつも六道さんには良くしてもらっているわ」

 「あ・・・そう・・・なんですね」


 コミュニケーションが苦手な俺は上手く会話をする事ができない。


 「ボランティアなんてえらいわね!仮屋園さんはとても親切だからいろいろ教えてもらうのよ」

 「は・・・い」

 「下条さん、昴君はおとなしい性格で、コミュニケーションを取るのが苦手みたいです。でも、この施設での経験で、少しでもコミュニケーション能力がつけばよいと私は思っています」

 「そうね。まだ若いからいろんな事を経験するとコミニケーション能力も上がると思うわ。昴君、仮屋園さんの言う通りにしていれば問題ないわよ」

 「は・・・・・い」


 仮屋園主任は下条さんに絶対の信頼を得ているみたいだ。俺はコイツのようなうわべだけの人間には絶対なりたくはないと思ったが、世の中はコイツのような人間が出世する事は一番わかっているので悔しかった。

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