第5話 不審者騒動
俺は【get a second chance】について、わからないことがたくさんあったので、理解できるまで何度も黒猫に質問した。しかし、多くは語ってくれなかったがわかったこともある。
神様が中学を卒業した時期に連れて来たのは理由があった。それは、高校の入学式までの約1か月の間に、ある程度レベルを上げて高校デビューをする為である。学校が始まってしまうと、好感度ポイントを貯める時間が少なくなるからである。だから俺は早速、好感度ポイントを貯める為に家を出てある場所に向かった。
俺は家から一番近い駅である松井山手駅に来た。松井山手駅はさほど大きな駅とは言えない。場所は京都府にあり大阪と京都の中間に位置しているので、大阪にも京都にもそして奈良にも行ける便利な場所でもある。が逆に言えば、中途半端な場所でもある。
駅の周辺にはスポーツジム、スーパーなどがある。しかし、それほど栄えた場所でもないので、人通りはさほど多くはない。俺はこの駅に何をする為に来たかと言うと、それはゴミ拾いである。人通りの多い大きな駅の方が、ポイ捨てされたゴミも多いと思われるが、人に注目されるのは苦手なので行きたくない。それに、人が多く集まれば集まるほど、いろんな人が集まるので、トラブルに巻き込まれる可能性も高いからである。
俺は松井山手駅に何度も来たことはあるが、ガラの悪い人物などほとんど見たことがないので、安心してゴミ拾いが出来ると思ったのである。俺はゴミ袋とゴミばさみを持ってゴミが落ちていないか、地面を見つめながらウロウロとする。しかし、ゴミはあまり落ちてはいない。
「思ったよりもゴミが落ちていないな・・・」
俺は小さい声でぼそりと呟く。
「おい!アイツ何をしているのだ」
遠くで男性の声が聞こえた。
「なんか怪しい奴だな。ゴミを拾うふりをしてチカンでも企んでいるんじゃないか?」
「たしかにそうかもな。見るからに不審者だぜ」
「通報しようぜ」
俺が駅の周辺をウロウロとしていると不審者にみえるようである。しかし、男性の声は俺には聞こえていない。
「植え込みとかにゴミはないかな?」
俺はバス停にある植え込みをのぞき込みゴミを探す。
「君!ここで何をしているのかね」
俺は背後から声が聞こえたので振り向いてみる。すると、俺に声を掛けたのは警察官であった。
「な・・・なにもしていません」
俺はビックリしてすぐに逃げ出した。
「ちょっと、君!待ちたまえ。何もしていないのなら逃げる必要はないだろ」
俺は怖くなって全速力で逃げる。しかし、運動音痴の俺は足が絡まって倒れてしまう。
『バタン!』
激しく転んだ俺は膝がすりむいて血がドボドボと溢れ出る。
「うわぁぁぁぁぁぁん~痛いよぉ~」
俺は強烈な痛みが膝に伝わり思わず泣きながら叫んでしまった。
「なぜ逃げるんだ!おとなしくしなさい」
警察官はすぐに追いつき、転んで泣いている俺を抑え付けた。
「やめてください!やめてください」
俺は膝の痛みと警察官に抑え付けられた事でパニックになる。
「おい、何があったのだ」
「あの変なヤツが警察から逃げていたみたいだぜ。チカンでもしたんじゃないのか?」
「あの不細工なつらならやりそうだな」
「ほんとに。逃げて転んで泣いているみたいだ」
「自業自得ってやつだな。ハハハハハ」
俺が警察官に取り押さえられている姿をみて、周りの人々は俺を犯罪者扱いしている。
「なに、あのキモイ人。絶対にチカンよ」
「そうそう。見るからに怪しいわ。盗撮でもしてたのかしら」
俺の不細工な顔、ヨレヨレの無地のTシャツ、ケミカルウォッシュの太めのジーンズ、その姿をみた人たちは俺を危ない奴だと即座に判断する。
「詳しい事は署で確認するから、こっちへ来なさい!」
俺は犯罪者のように交番に連れて行かれた。
「昴がご迷惑かけて申し訳ございません」
母親が警察官に謝っていた。俺は何も悪い事はしていないのに。しかし、俺は警察官の取り調べに対して何も答える事は出来なかった。俺が転んで警察官に取り押さえれた時、野次馬連中が群がって来て、スマホで俺の姿を撮影していた。パニックになった俺には野次馬たちが何を言っているのか理解できなかったが、誹謗中傷の嵐にさらされていたのは確実である。
俺は交番では怖くて震えて何も答える事ができずに泣いていた。警察は俺からスマホを取り上げてデータを確認したが、盗撮したデータはなく、何を質問しても泣いている俺に、これ以上取り調べを継続するのは難しいと判断して母親を呼んだのである。
「怪しい人物が駅を徘徊していると連絡を受けましたが、スマホのデータを見る限り、盗撮などの犯罪行為をしていた形跡はありませんでした。昴さんは、何を聞いても返答をしてくれないので、状況は全くつかめていません。あなたから事情を確認してもらえないでしょうか?」
「わかりました」
「昴、何があったの?駅の周辺で何をしていたの?」
母親は優しい笑顔で俺に話しかける。俺は母親の笑顔を見てホッとしたのか、喉元にあった障害物が取り除かれたように言葉が姿を見せた。
「俺は掃除をしに来たんだ。良い事をしたかったんだ」
俺の言葉を聞いた母親は俺を毛布で包み込むように抱きしめた。
「昴、怖かったのね。だから言葉がでなかったのね」
母親は俺の言葉を信じてくれた。俺の事を理解してくれた。俺の味方だった。俺は今回の騒動で心が折れそうになっていた。しかし、母親が俺の事をきちんと理解してくれた事で、俺の心は折れずに済んだのであった。
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