第2話 【get a second chance】

 

 「おめでとうございます!」



 甲高い女性の声で俺は目を覚ます。



 「あれ?ここはどこだ。俺は階段から転がり落ちたはず」



 俺は自宅の階段の段差を踏み外して豪快に階段から転がり落ちた。しかし、俺は自宅ではなく辺り一面が真っ白の場所にポツンと座っていた。そして、俺の目の前には美術の教科書で見た天使のような姿をした美しい女性が立っていた。



 「おめでとうございます!」



 もう一度、甲高い女性の声が俺の耳に響く。



 「何がおめでとうだ!俺が死んだことがそんなにめでたいのか!」



 俺はすぐに状況を把握した。ここは死んだら訪れる場所で、目の前の天使のような女性は神様のような存在だと。



 「死んでしまった事は残念なことだと思います。でも、自分で階段を踏み外して死んだので自業自得と言えますね」



 天使のような笑顔で正論を言う。



 「ふっ、俺らしい死に方だよ。これで、両親も俺の面倒をみなくてすむから喜んで・・・」



 俺は途中で言葉を発するのを辞めた。それはこんなダメな俺でも50歳まで大事に育ててくれた親に対して言う言葉ではないと思ったからである。



 「そうね。あなたの両親はあなたを失ってとても悲しんでいるわ。どんなダメな息子でも、死んで喜ぶような親などいないのよ。それがわかっているだけでもあなたはえらいわよ」

 「うるさい!お前が死んだのにおめでとうと言うからいけないんだ」

 「それは誤解だわ。決して私はあなたが死んだからおめでとうと言ったのではないのよ。あなたは100年に1度、人生をやり直すことができる【get a second chance】の権利を得る事ができたのよ」

 「人生をやり直すチャンス?」

 「そうです。100年に1度、適当に選ばれた1人に人生をやり直す事ができる権利を与えているのです。人生とは自分の思う通りに行かない事ばかりだと思います。生まれながらに貧富の差、能力の差など生まれた時点で人生の80%は決まると言われています。残りの20%も努力だけでは補う事は出来ず、運を手繰り寄せる事しか方法はないでしょう」

 「そうかもしれない」


 

 これは、両親を否定しているわけではない。人間をそういう構造に作り上げた神様を否定しているのである。俺が生まれた家庭は決して裕福とは言えない。外見も不細工で身長も低い。運動音痴で頭の回転も悪い。コミュニケーション能力も低く、気が小さく不器用でもある。これは全て親のせいではない。神様が作った人間の構造に失敗があったからであると俺は思っている。



 「人生はいくら努力しても、それに見合った能力がなければ開花することもありませんし芽吹くこともないでしょう」

 「そうだな。でも、そのように作ったのはお前たちじゃないか!」



 俺は声を荒げて叫ぶ。



 「すべての生物を創造したのは私達です。しかし、長い年月をかけて進化したのは人間自身です。だから、今の状態に文句を言われても困るのです。でも、理不尽な世界になっているのは認めます。そこで、私たち神はチャンスを与える事にしたのです。それが【get a second chance】です」

 「それは一体どういうものなのだ?」

 「やっと【get a second chance】に食いついてきましたね。それではお望みどおりに答えてあげましょう。【get a second chance】とは、人生をやり直すチャンスを与える事です。しかし、あなたが生きていた世界に戻すことは出来ません。そのかわりに、あなたが生きていた世界のパラレルワールドに連れて行くことになります。その世界では、あなたが生きてきた世界とそっくりなのですが、あなたが生きてきた人生とは全く別の人生を歩むことになるでしょう。詳しい説明をするよりも、実際に行けば理解できると思います。まずはこのルーレットを回してください。出た目の数字の年齢から人生のやり直しが出来ます」

 「このルーレットを回せばいいのだな」



 あれやこれやと詮索しても始まらないと思ったので神様の言う通りにした。



 『16』


 

 「ルーレットの目は16を指していますので、あなたを中学を卒業をした3月14日に送り届けます。新しい人生では努力は必ず報われます。だから、人生を成功させるために一生懸命に努力をするのです」



 神様はそう告げると俺は眩い光に包まれて思わず目を閉じる。そして、数秒後にそっと目を開けると見覚えの場所に居た。


 



 

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