懐かしの、あの店は今

レポート.7「エルフ襲来」

 ――エルフが来た。


 そんな噂が返納課内に流れると係の人間はみな騒然とした。


「嘘だろ?」


「何かの間違いじゃないか?」


「丁重に帰っていただこう、それも早急に」


「…えらい、言われようだな」


 その一言に第一係はざわつく。

 課の入り口に立つのは、まごうことなきエルフの青年。


「はるばる森からきたのに客人をもてなそうという気すら起きないのか?」


 すでに百歳は越そうというエルフの青年に係長のアザミは務めて冷静に席から立ち上がると彼の方へと向き直る。


「では、何かのご用件で?」


 それに青年は目を細めると「――すでに、知っているはずだ」と続ける。


「【森】が動いている、こちらに向かってな」



「討伐の依頼がギルドに来るのはわかるんですけど…どうして、返納課まで?」


 小高い丘の上で、タブレットを見つめるフロアに「うん、今回は大規模になりそうだからね」と珍しく僧職が使うような錫杖しゃくじょうを手にし、穴を覗き込むトーチ。


「相手さんの出す魔力も膨大だし、何より人海戦術で行かないといけないほどに物量で押してくるタイプだろうから」


 穴の先には今回の討伐対象が魔力によって拡大されて映し出されており、映像がタブレットにも反映される


「…でも、本当に【森】みたいですね」


 そう言って、向こうにそびえる巨大な物体に息を飲むサウス。


 ―― 一見、小山のような物体。


 しかし、近づけば近づくほど、それは大量の木々を生やした巨大な一塊の生物であり巨木の多くは長い年月と魔力によるものか、絡まり、ねじれ、膨れ上がり…


「さながら、巨大な緑のカタツムリ」


 フロアの言葉に「そんな感じだよね」と同意するトーチ。


「だから、これからアレを【巨大怪獣・デンデン】と呼ぼうと俺はメールで進言したんだけど、今だに上から返事が来ないんだよね」


「そんな下品な名前、上が許すはずがないでしょう」


「アザミさん」と未だ杖から目を離さないトーチ。


「ギルドと合同の対設備は完了したってことで?」


「ええ、間に合いましたよ」とフンっと息を吐くアザミ。


「サクライ重工の手伝いもあって、防衛線は三重に…ですが、どこかの誰かさんが依頼人のエルフから何か受け取ったという連絡もありまして、こうして確認するという余計な作業が入ったのですけど――」


「だって、フローくん。教会じっかの頃からの付き合いだから」


 そう言って、いつも吸っているタバコを葉の包みから取り出すトーチ。


「魔力調整のタバコ。会うと馴染みの店並みに渡してくれるの。もちろん料金はこっち持ちだから、安心して」


「ええ、知ってます。彼からも直接話を聞きましたから」と腕を組むアザミ。


「ついでに当人からご指名で、お話をしたいそうで。同行願います」


「――だってさ」と、フロアとサウスに向き直るトーチ。


「二人とも、ついて来て。これも社会勉強だから」



「ほう、トーチが子供をしかも二人も連れてくるとは…人の成長は早いものだ」


 簡易テント内で感慨深い声を挙げるエルフ…フローの言葉にトーチは「違う、違う」と手をひらひらと振る。


「この子らは部下、フロアとサウス。魔法使いと【勇者】の見習いだ」


 その言葉に「ははあ、なるほど」とあごに指を当てるフロー。


「魔力の流れを【見て】、【流す】ことを主とする子供に、【聖剣】とえにしのある子供か…風で葉が揺れる程度の感心ごとだ」


「あ、二人とも。俺、彼に君たちのこと説明してないからね」


 その言葉に(…そういえば、爺ちゃんが言ってた)と耳打ちするサウス。


(エルフの中には、相手の特性を見抜ける存在がいるって)


「それにトーチも【古き存在】との縁は切れていないようだし…本題に移ろう」


 ついで、フローは地図を広げるとフロアたちにこう尋ねた。


「――して、この近くの街の名物とは何か?」

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