第3話 過去
「よし、じゃあまずはその薄汚れた体を綺麗にしよう」
連れてきたままの状態でベッドに寝かせたから土や血がついたままだ。
カルミアを風呂場に連れて行き、ボロボロになった服を脱がす。
その体を見た瞬間、違和感を覚えた。
体のいたるところに青いあざがある。
今回できたものではなく、前からあるものだ。
「このあざはどうした」
問いただしてみるが、カルミアは何も言いたくなさそうな顔をしている。
治りかけのものもあれば最近できたようなものもある。
これから察するに普段から怪我をするようなことがあったんだろうが、こんなものが転んだり自分でつけようとしたりではできない。
つまり、誰かから日常的に攻撃を受けている可能性がある。
さらに普段からそんなことをされているのだとしたら、身内の可能性が高い。
この子も辛い道を歩んできたんだな。
傷に染みないようにやさしく水で洗い流す。
石鹸で洗った方がいいんだろうが、さすがに傷が多すぎて痛がりそうだから傷口が閉じてからでもいいだろう。
とりあえず水洗いで多少はましになっただろう。
ぼさぼさだった腰まである長い髪もまっすぐな綺麗な白髪になった。
長い髪を乾かした後に家の奥底に眠っていた俺の小さい頃の服を着せる。
似合ってるとは言い難いが別にいいだろう。
それと、服を探した時についでに見つけた笛をカルミアの首に下げた。
「お前は声が出ないからな。もし何かあったらこれを吹け」
カルミアが試しに一度吹いてみる。
甲高く、まっすぐな音がピーッと鳴った。
よかった、問題なく鳴るみたいだ。
これは俺がまだ訓練施設にいたころ、仲間に危険を知らせるために使うようにと配られたものだ。
これでもしカルミアが俺に伝えたいことがあったときや緊急事態の時に俺が気づくことができる。
さて、これで一仕事終わったわけだが、これからどうしたものか。
今までずっと一人で暮らしてきたせいで、子どもとの接し方、誰かといる生活がよくわからない。
ソファに二人並んで座ってテレビを見るが、ニュースばかりでつまらない。
子どもにとってはなおさらだ。
カルミアは膝を抱えて小さく座っている。
まだ緊張しているんだろうか。
そういえば、俺が子どものころに見ていたヒーローのビデオテープがあったはずだ。
俺も久しぶりに見るし、流してみるか。
ビデオテープをテレビに入れ、再生する。
ビデオの内容はこうだ。
悪の組織が世界征服を企み、街中に化け物を送り込んでは破壊や殺戮の限りを尽くしていた。
それを止めるために人々を守りながら主人公は悪の組織に立ち向かっていく。
最後は組織のリーダーのところにたどり着くが、その正体が以前行方不明になった親友だった。
親友は「みんなが笑顔になる世界を作るために動いていたが、いつの間にか道を誤り、もう自分ではどうすることもできないところまで来てしまった」と話し、主人公に自分を止めるように頼む。
どうするか迷うが、親友の暴走を止めるために自ら手にかける。
死に際に「俺とお前の目指す場所が同じなら、俺の代わりにそれを成し遂げてほしい」と主人公に自分の思いを託し、息を引き取る。
その思いを胸に、悪の組織が滅んだ後もヒーローとして活動していく。
といったものだ。
子どものころ、脳に焼き付くほど見たから今でもよく覚えている。
カルミアはテレビにくぎ付けで目を輝かせながら見ていた。
子どもの頃の俺にそっくりだ。
見入っているうちに、あっという間にエンドロールまで流れてしまった。
「どうだ、面白かっただろ」
カルミアは何度もうなずいた。
最近じゃ戦争のせいで娯楽の需要も減ってきたから、今の子どもはこういったものを見る機会はほとんどない。
カルミアにとって新鮮な体験だっただろう。
俺は子どものころ、このヒーローが好きだった。
自分の運命や責任感から押しつぶされそうになりながらも、世界を救うため、愛するものを守るため、そして人々の笑顔のため、限界を超えて戦い続ける姿に惹きつけられ、いつしか憧れを抱くようになった。
こんなヒーローになりたくて軍に入ったが、実際はヒーローに似つかない、破壊と殺戮を繰り返すだけだった。
この悪の組織のようにな。
昔はあんなにワクワクしていたのに、今では自分のやるせなさがむき出しにされている気分だ。
たばこに火をつけ、めいっぱい吸い込む。
冷めた気持ちを塗り替えるために別のコメディ映画を流し始めた。
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