第2話 起床
いつもより早い時間に目が覚める。
寝なれないソファではやはり眠りが浅くなってしまった。
辺りは朝とは言い難く、まだ薄暗い。
今日は休みだがうまく寝れなかったソファで二度寝する気にはなれない。
仕方なく、まだ眠りにつきたそうな体を無理に動かし、もう少しで消えそうになっている暖炉に薪をくべる。
しばらく体を温めた後、キッチンへ行ってホットコーヒーを作る。
熱々のまま一口含む。
この鼻に抜ける香りが脳を活性化させてくれる。
ゆっくりコーヒーを楽しんだら次は朝食を作る。
鍋に水と適当な野菜と鶏肉を切って入れ、軽く味付けしてスープを作る。
しばらく煮詰めている間、ポストに入っている新聞を取り、椅子に座ってコーヒーを飲みつつ新聞を読む。
『町壊滅!戦況はいまだに五分か』
『わが軍は強力な兵器を存分に使い、敵国の市民もろとも町を焼き尽くした。
そこは商業が盛んで軍の資金源にもなっていた模様。
しかし、我が国にも武器正常工場が狙われ、戦力差は拮抗した状態が続く。
また、この状態を打破すべく、軍事力拡大のため、軍事予算を引き上げるとのこと。
これで戦争が終わりに近づくのか。』
昨日の軍事関連のことが皮肉交じりに書かれている。
毎日似たような記事でうんざりする。
こうした記事が軍人に対する嫌悪感を広めているといっても過言ではないが、結局判断するのはその人だから悪評が広まっているのも市民の意思だと俺は思っている。
俺にとって悪評が広まることは何とも思わない。
ただ軍人としてやるべきことをやるだけだ。
『謎の組織現る!彼らは敵か?味方か?』
『今日未明、第三軍事基地に複数名の不審人物が侵入したとの情報が入った。
彼らは黒いマントに身を包み、どくろの絵が描かれたマスクを顔を隠しており、現場には死神を表すタロットカードが置かれていた。
不法侵入以外の犯行はされておらず、彼らの目的は不明。
死神のタロットカードの意味は正位置では「破滅、終焉」、逆位置では「新たなるスタート、再生」となっている。
彼らがこのカードを置いていったのにはどんな理由があるのだろうか?』
ついに変な集団も出てきてしまったようだ。
ただ、政府に対して反抗的な意思が行動へと移っただけに過ぎない。
なるようになっただけだ。
まあ、恐らく今後はいろんなことが大きく動き出すだろうが。
ほかに面白そうなニュースがないか探していると、寝室のほうから物が落ちるような鈍い音が聞こえた。
おそらくあの子が起きたんだろう。
様子を見に寝室に向かう。
怯えさせないようにゆっくりとドアを開ける。
思いもよらない光景が目に飛び込んできた。
机の上に置いてあったハサミを自分の腹に向けて振り上げていたのだ。
「おい!やめろ!」
すかさず少女からハサミを取り上げた。
「何を考えてるんだ!せっかく助かった命を無駄にするんじゃねえ!」
少女はきょとんとしている。
あの状況から目が覚めたらこんなところにいるんだから、敵に捕まったと思って自殺を選んだんだろう。
子どもにそんな決断をさせる世の中になってしまった。
「こっちに来い」
少女の手を引き、キッチン前にあるテーブルに座らせる。
「そこで待ってろ」
さっきまで煮詰めていたスープを2人分皿に注ぎ、一つを少女の前に置く。
「昨日から何も食べてないだろ。とりあえずこれでも食べろ」
少女はただじっとスープを見つめている。
しばらく待ってみるがなかなか口にしようとしない。
まだ警戒心がなくなってるわけではないんだろう。
このまま食べるのをじっと待っててもらちが明かない。
先に俺が一口すする。
薄口だが野菜や肉の風味がしっかり溶け込んでて朝食にはぴったりだ。
ちらっと少女のほうを見るとゆっくりとスープを飲んでいた。
完全に生きることをあきらめていたわけではなかったようだ。
体型からして普段からもそんなに食べてなさそうだからな。
俺が食べ終わると同時に少女も食べ終わっていた。
タバコに火をつけ、一息つく。
「お前、名前は?」
少女は質問に答えないまま俺を見つめる。
さすがにまだ警戒心は残っているか。
「あーっと…俺はカレン。別にお前をどうこうしようとは思ってない。お前をここに連れてきた理由は…まあ、なんとなくだ。俺が言っても説得力ないと思うが、そんなに警戒しなくていい」
俺の言葉に少し戸惑い、少し悩んだ様子を見せた後少女は口を開いた。
「あ…ぅ……あ…」
言葉とはいいがたい言葉だった。
年齢的には言葉を覚えていないとは思えない。
「もしかして話せないのか?」
少女は申し訳なさそうに小さくうなずいた。
「そうか。ちょっと待ってろ」
リビングから急いで紙とペンを持ってきて少女に渡す。
「これに名前を書け。書きたくなかったら書かなくてもいいが」
少女は紙にスラスラと文字を書いて俺のほうに向けた。
「カルミアって言うのか。教えてくれてありがとう。勝手にこんなところに連れてきてすまない。だから責任をもって俺がしばらく面倒を見ようと思っているがどうだ?」
カルミアは何も言わず軽くうなずいた。
「もしここにいるのが嫌なら勝手に出て行ってもらって構わない。まあなんだ。これからよろしく」
カルミアの前に手を差し伸べる。
その手をカルミアは優しく握ってくれた。
これから俺たちの新しい生活が始まる。
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