元社畜の俺、異世界でも無事社畜になる〜きっと固有スキルの【ガチャ】が解決してくれる(はず)〜
張田ハリル@ただのアル中
序章
序章 社畜の夢
「はぁ、はぁ……あぶなかった」
息も絶え絶えではあるけど……走って駅まで向かった甲斐が有るってものだ。少なくとも昨日の俺は忘れていた。今日は日曜日で、少しだけ早く電車が発射してしまうって。
乗り遅れなくて本当に良かった。
ご飯の準備を整えてすぐに違和感に気が付いたんだ。あれ、いつものニュースの占いが始まらないなって。……うんうん、今日の女性アナウンサーには感謝しないと。危うく乗り遅れるどころか遅刻するところでしたよ。
「ふぅ……誰もいないな」
一目見た感じ乗客は十人程度。
まぁ、まだ朝の六時過ぎくらいだ。それに俺の乗る駅は始発だからな。ここから一気に人が増えていくだろう。さてさて……さっさと椅子を取って自分の時間に使いますかっと。
読み古したライトノベルを鞄から取り出して栞の挟まったページを開く。最近……いや、ずっと前からハマっている異世界系のライトノベルだ。読むのはいつも異世界に転移した主人公がチートを駆使してハーレムを気付く在り来りな話。
でも、在り来りでいいんだ。むしろ、在り来りがいい。俺が求めるのは現実というものを見ないようにさせてくれる、酒のような話が読みたいだけだからな。その点、異世界系の作品っていうのはいい。今いる自分の劣等感を全て忘れられる時間をくれるのだから。
最近……ふと思う。
俺は何をしたかったっけって。小さい時にどんなものに憧れて、どんな大人になりたいって願っていたか……はぁ、それすらももう思い出せないでいた。
ただ一つだけ言えることがある。
少なくとも今の俺の姿を思い浮かべて憧れてはいなかったはずだ。朝の八時半には出勤して、夜の二十時に会社を後にする。ブラック企業とまでは行かずとも場合によっては休憩時間も返上しなければいけないクソ環境だ。
「おはよう……って、誰もいねぇ……」
はぁ、まだ誰も来ていないのか。
俺の振り絞った挨拶を聞いて欲しかったのに……いや、やっぱり、恥ずかしいからいいや。そんな冗談が通じる年では無いからな。
今日の出勤者は……おう、いつも通り下っ端社員のみか。課長クラスからは全員、通常の休みを取れているっと。まぁ……下の俺達がボロボロになろうと上からしたら替えがきくコマでしかないんだろうな。
だが、ここを辞めたところで替えがあるわけでもないからやめられない。若かったら話は変わってきただろうが既に三十五歳、今更辞めたところで次の就職先は見つかりづらいだろう。
はぁ……大学の友達は全員、結婚して幸せになっているのにな。どうして俺はこうなんだか。きっと俺が無能だから出世も出来ずに今の位置にいるんだ。不細工だから彼女だって……いや、それは自由な時間が無いからだな。自由な時間が多くあれば俺にだって……。
「やめだ、やめやめ! さっさと仕事に移ろう!」
んな事を考えたところで無駄だもんな。
いいよ、俺はキャバでも何でも好きなところに好きな時にいけるからな。アイツらは嫁さんと子供がいる時点で夜の店にすらもいけないんだ。それに贅沢をしたところで貯金は貯まっていくばっかりだし文句も無い。……文句はないさ。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
「今日も早いっすね! 加藤先輩!」
「まぁ……これくらいしか取り柄が無いからな」
軽く会釈をして無視をするようにパソコンに向かう。別に後輩が嫌いなわけじゃない。ただ……まだ笑顔を浮かべられる後輩が眩しくて見ていられないんだ。
黙々と仕事をして他の景色が目に入らないようにする。そのかいもあってか、仕事も早く済んだ。これなら……三十分は休めるかな。とはいえ、今からランチに行くには少し短めではあるけど。
しゃあない、いつも通りカップラーメンでも食べながらラノベでも読んでいよう。朝読んでいた本を取り出して栞のページから開く。
内容は異世界に転生した高校生がガチャの力で成り上がっていくっていうストーリーだ。もちろん、内容構成に関してはかなり好みの方ではある。ただ、一点だけ読んでいて不満があるんだ。
主人公が後先考えずに動く存在である事。
どうしてそれをするのかが分からないせいで金欠になったり、仲間と不和を招いたりと性格に関しては少しも好めないんだ。……まぁ、メインヒロインがそれ以上に可愛い子だから我慢して読むんだけどな。
あー、可愛い子に尽くされる生活がしたいよ。
……虚しくはなるけど読むのは楽しいな。四月からアニメ化もされるみたいだから、それだけが楽しみだ。何と言ってもヒロインの声優が推しだからな! それだけでアニメが成功すると言っても過言では無い!
さてと、仕事に……って、うん?
「メール……げ、部長かよ」
しかも、内容は仕事の依頼……。
はぁ、部長のケツ拭きですかい。明日までに纏めなければいけない書類ができていないから頼むってさ。自分でやれや、わざわざPDFファイルだけ送ってこないでよ。どうせ残業代だって出ないんだろうし。
良いご身分だ事……とはいえ、そんな事を言える相手でも無いから従うけどな。今から手を付ければもしかしたら……帰れる可能性だってある。
と、考えていた時期も俺にはありました。
絶賛、全員が帰宅して会社には俺一人。エナジードリンクと栄養剤だけで何とか保ってはいるけど持つ自信は無い。今でこそ、大きな峠は一つ超えたけど目を閉じれば確実に眠れる。
マジで恨み殺してやるからな、部長。
はぁ……後輩に手を借りるって手もあったけど、仕事終わりの彼女とのデートを楽しみにしていたみたいだし無理だった。本当なら俺も今頃は夜のお店で酒を飲んでいるはずだったのに……。
クソクソクソ! 本当に人生はクソだな!
この書類だって元々は良い顔をしたくて勝手に部長が請け負ったものだろ。それをギリギリまで終わらせないなんて何をしたかったんだ。俺がやって手柄を奪って……本当にクソだな!
だ、だが……残り二枚、それで終わる!
ってか、ここまで来て丁寧にやってあげる義理なんてどこにも無い。雑でも文章がおかしくてもいいから書類を終わらせる事だけに専念しよう。もう午前一時だから本当に帰れ……いや、それどころか、一睡も出来ない可能性だってある。
ここはこれで終わり……文章のミスは……んな事を気にしていられるか。書類提出前に確認するだろ、あのクソ上司が。後一枚……それさえ、終わってしまえばこっちのもの……。
「お、終わった……」
一時半、そうか、一時半か……。
まだ帰ろうと思えば帰れる時間だけど……いや、帰ったところで二時間も眠れない。それなら一層の事、仮眠室で熟睡させてもらおう。ってか、そうしないと明日のミーティングにすら対応できない。
上司のUSBにデータを移して机に投げつけておく。壊れていようが知らねぇ……最悪は俺の会社のパソコンの中にデータが入っているからノー問題だ。他のデータだってバックアップは取っているだろ。
って事で、俺は寝る!
七時半にアラームをセットして……これで起きなければ後は野となれ山となれ、だ。今だけはせめて推しの夢だけでも、見せて……くれ……。
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